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この世界の台地で  作者: あの日の僕ら
第四章 再び外界へ
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XLI 不穏な影

「うっ」

 猪の突進を避けられずにそのまま吹き飛ばされ、遠くの木の幹に頭からぶつかった。そして、先程と同じ様にぐったりとして動かない。

 流石に出血も酷い。中止だな。

 追撃を掛けようとしていた猪の短い尻尾を掴み、太い首に腕を回す。そして、力を込めて締め上げる。いきなり首を絞められジタバタしていた猪だが、しだいにぐったりとしていき、やがて動かなくなった。


 息の根を止めた死体をポーチに収納し、リリの元へと歩く。

「おい、生きてるか?」

「うぅ…」

「よし、生きてるな。これを飲め」

 動きの鈍いリリの口にポーションの瓶を突っ込み、赤黒く変色している服を捲り上げる。出血を抑える為に傷口にポーションを振り掛ける。これで出血は止まるはずだ。

 リリを脇に抱き、ヤナギ達と合流した。リラは娘の容態が心配なようだが、大丈夫だと制し、野営地へと戻った。


 テントを張り終わり、母子に宛がったテントの中で改めてリリの怪我の状態を確認している時だった。リラが両手を付き、深々と頭を下げた。

「御主人様、リリをこのまま使ってやってください。どうか、御慈悲を」

「うん?君達は使うよ。折角拾ったんだし」

「えっ…、有難う御座います!」

「もしかして、今日のテストのことかい?あれは現状で、君達がどれだけ戦えるか確認したかったからだよ。そろそろ何か仕事を割り振りたいし」

「そう…だったのですか。…御迷惑を御掛けしました」

「いやいや、全然良いよ。君達も不安だろうしね。…よし、傷の調子は良いね」

 リリの牙で抉られた傷だが、既に肉も盛り上がって塞がっている。動いても問題ないだろう。

 その日は討伐した猪を解体し、鍋にして食べた。


 次の日、母子はヤナギ達に任せ、ギルドへと赴いた。リラに野営具を背負わせているので、母子のリハビリを兼ねた狩りが終わったら勝手に休んでくれるだろう。昨日はヤナギ達には手を出させなかったが、危なくなったら対処してくれるだろう。

 ギルドに来た理由は、出されている依頼を見て、母子のリハビリに良さそうな魔物に目星を付ける為だ。なので、今日依頼を受ける気はない。後から依頼を受ければ良い。


 ギルドは他の場所より幾分大きい。それだけ需要があるのだろう。

 出入口から建物の中に入り、依頼板を探す。この帝都にはギルドが複数あるようだが、このギルドは初めてだ。似たような位置にある依頼板を見付け、そこに向かった。


「ねえ、今日は休みましょうよ」

「フッ、そうだな。俺が世界の中心だ。そして君と出会ったのも…」

「"運命"でしょ?貴方の口癖覚えちゃった」

 隣で依頼板を見ていた冒険者は、出入口へ向けて歩いていった。かなり大きな声で煩かったので助かった。

 あの男、どこかで見た気がする。…気のせいか。


 大体の依頼を確認し、ギルドを出ることにした。少し市場を見回ってから戻ろうか。食糧もまだ残っている。昨日破れた服を修繕する為に、少し布を買っておこう。

「ねえ君」

 出ていこうとした所で、声を掛けられた。…何か前にも同じ様な事があった気がする。こういうのをデジャヴと言うのだろうか。

「うーん?!やっぱりイブキくんだよ!」

「…先輩?なんで帝都(ここ)に」

「別にファーの街から出ない訳じゃないんだよ?ちなみに今回はクランの集会でね。…だから、ストーカーなどではないぞっ」

「へえ、そうなんですね」

「…ごほんっ。それで君、ファーの街でギルドに声を掛けないで出てきたね?」

「はい、そうですが…。何か問題でも」

「問題…って程じゃないんだけど、他のギルドに移る時は一声掛けてから出ていくのがマナーなんだ。暗黙の了解ってやつだね」

「そうだったんですか?」

「まあ、一部の冒険者や引き留めに対応するのが面倒なら、声を掛けないんだけどね。しておいた方が良いよ~ってこと」

「知らなかったです。ご教授有難う御座います」

「ふふん。先輩だからね」


 先輩が来ているとは驚いた。いや、帝都を進めたのは先輩だった。別段おかしいことでは無いな。

 面倒なことになる前にここを出よう。

「ム?茨の刺突ではないか。こんな所で会うとは奇遇だな。二年ぶりか?」

「あれ?エリーナじゃないか。君こそだよ」

「フフフ、変わらないな。…そこの子は茨の新入りか?」

「違うよー。断られちゃってね」

「余り強そうに見えないが…、どうだ?一戦やってみないか?」

「一戦…?」

「擬戦のことだニャ」

 面倒なことになった。銀の全身鎧を装着した女が現れたと思ったら、猫系獣人種も現れた。猫系獣人種の首には赤いチョーカーが付けられており、宝石らしき物も確認出来る。

 …獣人種は差別されているのでは無かったのだろうか。この土地では初めて見た。


「ジーナ。同行するのか?」

「そうニャ!今日はお師匠サマも居ないニャ。今日くらい自由に動きたいニャ!」

「それで狩りか。もっと探せば、良い趣味があるだろう」

「その言葉、お前にそっくり返すニャ」

「ハハっ!そうだな」

「…ニャ?コイツ誰ニャ?」

「茨の候補だと」

「ほーん。コイツが、…変な匂いだニャ」

「…あんまり匂いとか…」

「良いじゃニャいか。減るものじゃニャいんだし」

「ジーナはその癖を直した方が良い。アレクセイに目玉をくらうぞ?」

「お師匠サマが居るときはやらないんですニャ!切り替えというものニャ」


 猫系獣人種と銀鎧が話をしている。匂いというのもあったな。それで手の内がバレるのは避けたい。野営地に帰ったら、追加で匂い消しとか調合しようか。

「では私はこれくらいで…」

「あっイブキくん!次の機会にクランを案内させてくれ!勿論あのお爺さんと嬢さんも連れてな!」

「あはは、考えときますね」


 買い物を済ませ、野営地へと戻った。

 既にヤナギ達が戻っており、テントも立っていた。母子も深刻な怪我は負っていないようだ。

 消臭材や減ったポーションを作り、眠った。


 ******


 あれから六日。母子は狩り(リハビリ)が順調に進み、リリでも猪を討伐することが出来るようになった。真正面から挑むと力負けするので、時間が掛かるが。彼女らは既に素の俺よりは強いだろう。

 今日は再びギルドに来ている。ちょっと遠出して、魔獣を討伐しても良いかもしれないと考え、依頼板を見に来たのだ。


 ギルドへ入って直ぐ、先輩に話し掛けられた。…用事があるのだが。

「やあ!イブキくん、元気かい?」

「…ええ、元気ですが。…ん?」

「あっ、気付いたかい?本来の私の獲物は槍なんだ」

 先輩の背には布で包まれた長い棒が存在している。前は剣を腰に提げていたと思ったが。

「久し振りの大仕事になりそうだからね」

「大仕事…?何かあるんですか?」

「知りたい?…あんまり言い触らしちゃ駄目だよ」

「…?はい、誰にも言いませんが」


「実はね、ここから西にある『白霧の迷宮』の結界が解かれていたらしいんだ。そこに原住民が居るらしいんだが、友好的で無いようでな。他の国に取られる前にウチの国が取る訳だ」

「白霧、の迷宮?西?」

「知らないのかい?霧で囲まれた土地。奥に行けば垂直の高山が在るそうだが、上へ行こうとすると迷うんだって。その特殊な結界のせいで調査が進んで居なかったようだけどね」

「え」

「私達の仕事は、先発隊が制圧した後の雑務。と言ってもほぼ戦闘だけどね」

「先発、隊?」

「そうだね。四日前に出発していったよ。あっ、あのジーナも先発隊なんだ。彼らは転移陣を設置する重要な役目もあるしね。頑張ってほしいよ」

「転移…?」

「詳しいことは分かんないけどね。あっそうだ、君も同行してみない──。あっ、ちょっと待ってよ!」


 バレてる、台地が。ここから西、そして霧。完全に台地のことだろう。四日もあれば到達していてもおかしくない。

 走りながら子結晶を取り出す。青色だ。青色は異常なし。まだ攻撃されていないか、それを竜王が察知していないか、だ。

 門に並んでいる列を無視して、外へ飛び出す。咄嗟の事だったからか、門兵も追い掛けてこない。取り敢えず今は走れ。この情報が嘘であったとしても、走れ。その時はその時だ。取り返しが付かないことを優先しろ。


 野営地では、ヤナギがテントを張ろうとしている所だった。

「ヤナギ!すぐに台地へ帰るぞ!詳しくは車内で話す!」

「…!承知」

「分かったよっ!」

 ──キュッ!

 ポーチから馬車とゴーレムを取り出し、すぐに起動させる。


「あの、御主人様。どうかなさいましたか?」

「ご主人様?」

 リラとリリは…、置いておこうか。不確定要素だ。どんな動きをするか分からない。それに、その分馬車が軽くなる。

 だが、ただ放り出していくのは気が引ける。金は使えないだろう。…ポーションや食糧でも持たせれば良いか。

 ポーチからポーションが詰まった小箱や解体した猪、干し肉を取り出し、リラへ渡す。あと、魔物避けのお香でも渡しておこうか。

「これは…」

「ポーション。それと、魔物避けのお香だ。火を付ければ魔物は寄って来ない」

「あの」

「俺達は暫く戻ってこないかもしれない。だが、お前達は狩りだけで十分生活出来るだろう。あとは指輪で誤魔化せ」

「…はい」

「?」

 口調が少し荒っぽくなってしまったか。余裕は無いので勘弁して貰いたい。


 野営具と母子を残し、馬車を走らせた。

ここから物語が進みます。

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