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この世界の台地で  作者: あの日の僕ら
第四章 再び外界へ
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XL テスト

「イブキ様、どうでしたか?」

 テントに戻ると、ヤナギが話し掛けてきた。

「うーん。興味深いけど、使えるかは分からないな。何て言うか、世代を重ねて弱体化している感じで」

「弱体化、ですか?」

「魔法も使えないようだしね。色々質問して、紙に書き留めて来たから見てくれ」

「どれ、…ふむ」


 半日程スラム街に居たせいで、身体が少し匂う。風呂に入れば簡単に落とせるが、そんなモノは無い。台地に帰ったら、作れるか聞いてみようか。

 ローブとスーツを脱いで全裸になり、ポーチから水瓶と手拭いを取り出す。

「イブキ、私が拭こうか?」

「お、なら頼む」


 背中を拭かれつつ、タイショーの姿を探す。スラム街のような汚い場所を移動したのだ。腹這いで移動するタイショーは汚くなってそうだと思ったが、見付けたタイショーの鱗も腹もピカピカだ。

「タイショーなら、テントを立てている時にはもう自分をあらっていたよ」

「綺麗好きだもんな」

 ──キュ!

「これからの予定はどうするの?あんまり良い所じゃなさそうだけど」

「そうだな…。あの母子が回復したら、色々試してみようか。何か特殊な能力とか持っているかもしれないし」

 その日は見張りを立てつつ、就寝した。


 ******


 それから一週間、母子、特に母親の容態がほぼ完治した。食事は柔らかいものから少し固いものへと移行し、現在は普通の食事を与えている。

 この回復力は、曲がりなりにも魔人種の証なのだろう。母子の元へと赴き、容態を確認する。

「おはよう。ふむ、良さそうだね」

「お早う御座います。御主人様」

「おはようございます、ご主人様」

「今日は動いてみようと思うんだけど、行けるか?」

「はい、動けます」

「それなら…これを預けておく」

「指輪…?」

「これは幻影の魔道具だ。燃費が悪いから気を付けてくれ」

「幻影の、魔道具」

「そのまま魔力を流せ、発動するはずだ」

「は、はい。…!これは…」

 母親のリラは元々通常の人種に近い。魔道具が発動し、肌の色が塗り変わると人種と区別がつかない。

「良さそうだな。リリは…」

 娘のリリは魔道具を手の中でこねくり回している。指輪型なのだが、どうしたのだろうか。

「お母さん、魔力って、どうやるの?」

「魔力を扱えないのか?」

「それが…魔力を扱う機会が無く、この歳まで…」

「…そういえば、君達の年齢を聞いていなかったな。何歳だ?」

「私は42、リリは6、です」

 四十二なのか。かなり若く見えるな。痩せ細っていた身体にも、徐々に肉が戻りつつある。寿命が伸びる傾向のある魔人種なのかもしれない。


 リラがリリに手を合わせ、じっとしている。恐らく魔力を流して、魔力の動かし方を覚えさせているのだろう。

「リリ、分かった?」

「分かった」

 リリが指輪を指に通す。が、サイズが合わなかったようで、親指に移動させた。まだブカブカだが、次の瞬間。肌の色が変わった。

「よし、発動したな。…耳は帽子でも被らせるか」

「凄い、です。ご主人様」

「それじゃあ、今から幾つかテストをする。荷物を纏めてくれ」


「行くぞ」

 野営具を仕舞い、適当な方向へと歩き出す。リラとリリには認識されずらいローブを着させ、魔力を節約させている。

「イブキ様、向こうに獣の気配が」

「一体か?」

「一体、どうやら猪型のようです」

 ──キュッ!

 前方の何もない空間から声がする。魔人種の二人には、まだタイショーは紹介して居ない。が、初回よりは驚いていないようだ。しばらくこのままで良いか。


「居たよっ!」

「あれは…白牙猪(ファングボア)、だな」

 白牙猪(ファングボア)とは何処にでもいるような魔物だ。前に"移り木の森"に居たのもこれと同種だ。この個体は通常より大きいな。

 肉は筋が多くて固いが、上手く調理すれば美味しくなる。ヤナギが調理したものを食べたが、普通に美味しかった。


「さて、あそこにファングボアが居るが、一人ずつ相手をしてくれ」

「娘も、ですか?」

「そうだ。死にそうになったら助けるから。それに、俺は調薬師だ。死ななければ治してやる」

「……はい!」

「ではまずリラから。このナイフを至急するから、自由に戦ってくれ。自由に、だ」

「はい!」

 リラはナイフを構え、ジリジリと近付いて行く。ファングボアとの距離が二十メートルほどになると、鼻先で地面を掘り返していた猪が顔を上げ、リラの方へと向いた。

 …特別隠密が上手いとかは無いな。


 猪に自身の存在がバレた瞬間、リラの口から呪文が吐き出された。

「汝を焼く、炎!『フレイム』!」

 リラの左手の先から、拳ほどの大きさをした炎の塊が飛んでいく。速度もまあまあで、猪は避けられずに直撃した。

 ──ブモオオォォ!

 命を奪うほどの威力は無かったが、猪の片目は溶けて頬にへばりついている。その後の猪の行動は、当然反撃だ。鼻先の照準をリラへと合わし、後ろ脚で土を蹴り飛ばした。


 突進という、単純な攻撃をリラは余裕を持って避け、すれ違い様に猪の首筋へとナイフを突き刺す。しかし、分厚い毛皮と脂肪の層は短いナイフでは貫通出来ない。

 猪は自慢の牙を振り上げてリラを弾き飛ばした。


 リラは受け身を取り、猪へと向き直す。反射速度は特別高く無いようだ。左腕に打撲傷が確認出来る。

 猪は再び照準をリラへと向け、力強く地面を蹴った。さっきより突進が早い。

 ──汝を飲み込む、土流

「『クエイク』!!」

 猪が次の脚を踏み出した瞬間、地面が隆起し、猪を飲み込んだ。そしてリラがナイフを抜き、頭部へ向けてナイフを構える。

「我に力を!『増筋』!」

 ナイフが猪の脳天へと吸い込まれていき、銀色の刃が深々と突き刺さった。最後のは呪文からして筋力を強化したのだろう。


「ご苦労様。しっかり休んでね」

 水筒を渡しながら、打撲傷を確認する。変わらず赤黒いが、範囲は少し狭くなっている気がする。…自己治癒能力は高い。スラム街で弱っていたことも考慮すると、栄養がなければ駄目なのだろう。

「有難う御座います。…御主人様、如何でしたか」

「良かったよ。かなり動けていたじゃないか」


 母子から少し距離を取り、ヤナギと話す。

「戦闘はある程度出来るな」

「そうですな。ですが、片腕なのが残念です」

 普通の人間よりは身体能力は高いようだ。腕が無いのは仕様がない。義手でもあれば良いんだが。

「次はリリだな」

 母子の横を抜け、ナイフを猪から引き抜き、死体に手を置いてポーチへと収納する。そして次のファングボアの元へと向かう為に、歩き出した。


 十分ほど歩いた先に、別の個体を見付けた。さっきよりは二回り程小さいが、リリが相手をするのには丁度良い。

「良くやった、タイショー」

 虚空にサクランボのような果実を差し出す。すると、次の瞬間には無くなっていた。食欲旺盛だな。

「さて、次はリリの番だ。あれと相手をしてみろ」

「はい」


 リリはナイフを両手で構え、ゆっくりと歩いていく。足音を消して猪へと近付いて行き、猪の背後に回り込んだ時であった。小枝を踏み、乾いた音が辺りに響いた。

 リリが近付いていることに気が付いた猪は、背後に身体を向け、敵の姿を捉えた。土と落葉を蹴り上げ、短いがしっかりとした牙を突き付ける。

 どう対処するのか観察していると、リリは猪の突進をギリギリで避け、両手でナイフを降り下ろした。


 猪の体にナイフを突き刺したのは良いが、泥と毛皮の重鎧を突破出来ずに、ナイフが弾き飛ばされた。

 手の内にナイフが無いことに気が付いたリリはナイフを探す。そして近くに転がっているナイフを見付け、拾おうと手を伸ばした。が、反転して来た猪に突き飛ばされ、拾うことは叶わなかった。


「あっ」

 ──ブモォッ!

 ローブの裾が牙に引っ掛かり、数メートル引き摺られる。攻撃されたことに腹を立てた猪の怒りはそれくらいでは収まらず、首を振り回し、近くの木の幹に吹っ飛ばされた。

「やっ」

 更に追撃を受け、腹部に牙を突き立てられる。中に着ている服に赤がじわりと広がり、力無く地面に転がった。

「…御主人様」

「もう動けないか」


 ──ブモオッ!

 猪が止めを指そうと前肢を振り上げ、頭を踏み抜こうとした。が、それは叶わず、空中で体制が止まった。猪は驚いているが、結構近付いていたのだが。

「リリ、限界か?」

「…ご主人、様」

「限界ならここで止めるが」

「…まだ、出来ます」

「そうか。じゃあ離すぞ」

 流石に頭を踏み抜かれるのは死にそうなので間に入ったが、まだ動けるようだ。拾っておいたナイフを握らせ、立ち上がった。足は痙攣しており、とても戦える状態とは思えない。

 傷口が一瞬で埋まるほどの回復力は無い、か。


 拘束から猪を解放し、すぐに離れる。離した数秒はこちらを気にしていたが、すぐにリリへと向き直り、脚を踏み出した。

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