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この世界の台地で  作者: あの日の僕ら
第二章 この世界で
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IV ルティエラ商会

 七色大鷲(グレオール)が目撃された林に来た。

 ゲームでは魔獣とよくエンカウントしていたはずだが、道中全く魔獣が現れなかった。恐らくギルドが冒険者に駆除を依頼しているからだろう。あの森の一角狼(ホーンウルフ)も群れが壊滅して森の中に逃げ延びたのかもしれない。


 結局、七色大鷲(グレオール)を見つけることが出来なかった。見つかったのは焚き火の後と争った跡と少量の血痕だけだ。七色大鷲(グレオール)の巣から羽根を盗ろうと考えていたのだが、先を越されたか。七色大鷲(グレオール)は逃げたか狩られたかは分からないが。見つけたのは魔茸と卵だ。魔茸は薬の材料に。卵は土を掘り起こして見つけた。ポーチには"卵"としか表示されないが、形からして蛇の卵だろうか。これも薬に使える。

 時間は潰せたのど馬車に乗るために街へ戻った。


 ******


「王都へ行きまーす。あと三名でーす」

 おおう、もう着いていた。間に合って良かったが、ちょっと時間にルーズ過ぎないだろうか。日本人がキビキビし過ぎなだけだろうか。

 馬車は三台。それを牽く馬は普通の馬だ。馬車と呼べるのか分からないが魔物に牽かせる馬車もある。俺が座る馬車は前から二番目だ。座り心地はお世辞にも良いとは言えないが、懸架装置(サスペンション)なんて物は無いので仕様がない。


 振動でケツが痛くなってきた。王都へは五時間掛かるらしい。もっとも、道は真っ直ぐとは言えない。単純真っ直ぐ突っ切ればもう少し早く着くのだろうが。


「…ねえ、もしもしお兄さん?」

「え?ああ、何か用ですか?」

「お兄さん冒険者よね、私は冒険者の傍ら商売してるんだけど、ウチの商品見てかない?」

 目の前座っていた女がいきなり瓶を渡してきた。その女は全身革装備で革鎧の上からでも大きな胸が分かる。身長の低さも相まって背徳な空気をかもし出している。

 渡してきた物は一見、薬草と樹液等を調合して作る普通のポーションだった。だが、色は通常より濁り、底には沈澱物が溜まっている。


「ポーション、知ってるかしら?今なら安くしとくわよ。…そうね、特別に600ユールで売ってあげるわ」

 このポーションが600ユール、銀貨六枚。通常のポーションも店先で買うとこの値段だ。しかし、こんな劣悪な状態ではない。何を混ぜたのかは知らないが、誰がこんな治癒効果も発揮しないポーションを買うのだろうか。

「…要らない。というか良くこんなゴミみたいなポーション売ってんな。詐欺か?」

「なっ、アンタ何言ってんのよ。これが一般的なポーションよ?」

「色も濁った色、ゴミが底に溜まっている。流石に酷すぎるな」

「チッ、ルーキーじゃねぇのかよ。それじゃあアンタ、それ買い取りなさいよ。すり替えたに決まってるわ」

「はっ?」


 何言ってんだ、この女。頭おかしいんじゃないのか。

 …ここは日本じゃ無いんだ。こういう輩も居るか。

「おう、兄ちゃん。あんま相手にすんなよ。コイツはギルド各地で新人相手にぼったくりしていることで有名な奴だ。」

「ん?そうなのか?」

 隣の男が話し掛けてきた。革と鉄の合わさった装備でいかにも冒険者といった風貌だ。

「商売をバカにしすぎだろ。ああ、返すからな」

 ポーションを女に投げて返す。なんてギルドはこんな奴を野放しにしてるんだよ。

「兄ちゃん新人じゃ無かったんだな。…なんだよ、買いそうになったら止めたさ。当然だろう?」

 男はそう言ったが本当だろうか。口は笑っているが目は笑っていない。この女とグルだと言われても信じてしまいそうだ。

 …この空気の中で後三時間か、地獄だな。


 ******


 ルカラ王国の王都に着いた。

 あれから車内では他の冒険者とも一切会話が無かった。

 馬車は王都の外で解散した。


 入都料を払い中に入った。ゲーム内の王都の姿とは若干変わっていた。色々確認したいがまずは商館だ。

 王都は大雑把に分けると、城、貴族街、商業地区、居住区に分かれている。城が中心部でその周りに貴族街、大通りの近くが商業地区で後が居住区だ。教会に孤児院が併設されている為かスラム街的な場所は無いが、闇ギルドなるモノが存在しているらしい。

 商館は北側貴族街寄りの大通り沿いにある。木造だが錬金術で作った耐火木材を使っているので強度は十分だったはず。どれだけ時間が経過しているかは分からないが健在のはずだ。


 商館が建っている場所に着いた。しかし、心なしか規模が大きくなっている気がする。両隣は別の商店が軒を構えていたはずだが、影も形も無くなっている。これは店を任せておいたNPCが頑張って拡大させた、ということだろうか。

 ここで本当にあっているのだろうか。もしかしたら、別の商会に潰されている可能性もあるか。

「おにいさん、こんな所で突っ立ってどうしたんだい?」

「いやー、ここってルティエラ商会の商館ですよね?」

「そうだけど、ここは本店だよ?商品数は少ないし、大口の契約でもするのかね」

「ルティ。いや、ルティエラに用があってね」

「おお、商主さんに。そうでしたか。ここらでは見ない顔なんで、つい声を掛けてしまいましたわ。すまないね」

「いえいえ、ありがとうございました」


 どうやらここで正解のようだ。増築されていない、見覚えのある建物の引き戸を引いた。品数は自身の記憶と比べ、少ない。しかし、並んでいたポーション等の品質は何段階か上であった。

「いらっしゃいませー。どのような品をお探しですか?」

 白髪(はくはつ)の店員がカウンター越しに訊ねてくる。

 この店員は見覚え無いが、店内の造りは変わっていないようだ。知っている場所は凄い安心感があるな。

「─?どうかなさいましたか?」

「いえ、ルティエラに用がありまして。今居ますかね?」

「ウチの商主ですか?失礼ですが、会談のご予約はされてますか?」

「あー、予約はしてないですね。」

「予約は無ければお会いすることは出来ません。ご予約されますか?」


 予約が必要なのか。アイツも偉くなったな。

 …これ俺のこと覚えているのだろうか。忘れられていたら辛いな。

「あーっと、じゃあ伝言をお願い出来ますか?」

「それくらいなら。サリー!ちょっと来てくれるー!?」

 ──はぁーい!今行きまーすっ!


 店員が後ろの通用口に向かって呼び掛ける。暫くすると身軽な動作で女が出て来た。頭部には人間の耳のソレとは違う、所謂獣耳が鎮座していた。この世界には普通の人種以外の種が存在している。獣の特性を持った人種だ。他にもエルフやドワーフも存在している。彼らは気難しく滅多に人里に降りてこないのだが。この獣人は猫の特性を持った猫系獣人種で、○系人種のように見た目で大まかに区別される。

 プレイヤーは通常の人種のみだ。他の種族には変更出来ない。


「はい、アイラさん!何か用ですかぁ?」

「商主に此方の方から伝言があるそうです。書き留めなさい」

「伝言ですかー?でわっ、はい!書き留めますね、それでは内容を」

「えーっと…」

 考えて無かったな。向こうが俺だと気付かなければいけないから、何か共通の秘密とか…無いな。フルオープンな関係だったわ。

「では"ルティくんへ 帰ってきました お土産とかあるよ ^-^ イブキより"でお願いします」

「はーい!スラスラスラ~っと。よしっ。じゃあ行ってきまーす!」

「あっ、待ちなさい!今は商談中だと思うから、終わるまで外で待ってなさい。終わったら入りなさいね?」

「はーいっ!わーっかりましたぁー!」


 アレで大丈夫だろうか。俺が居ることだけが伝わりさえすれば良いんだが。

「すみません、あの子。入ったばっかりで…」

「ああ、いや元気があるのは良いことなんじゃないですかね?」

「そう言って貰えると助かります。それではあの子が返答を持ってくるまで少々お待ち下さいませ。」

 商品でも眺めながら待つとするか。気になる商品が幾つかあるしな。


 ******


 幾つかの品の物価が変わっている。この青い果実(プルーラの実)は解毒作用があり、そのまま実をかじるだけでも効果がある。それの値段が上がっていた。ゲームでは一個30ユールほどだったが、現在は100ユールもする。

 逆に黄色い植物片(ハルイナの蕾)という食すと弱いが麻痺と酩酊状態になってしまう効果のある植物、その中でも効果の凝縮された蕾の物価が低下していた。前は80ユール、今は半額の40ユールだ。

 ポーチの中のアイテムも売却すれば小金持ちに成れるかもしれない。が、殆どが薬の材料なので売りはしないが。


 ──ドタバタドタッ!

「うわぁっ、危なっ─」

 ──ドタンッ!


 通用口の方から足音がする。人影が通用口から出て来て、そして足を絡ませて─転んだ。出て来たのは子供位の背丈をしたエルフだ。しかし、その顔の右半分がうっすらと変色している。

「おお、ルティ。久し振り?なのか?」

 俺にとっては久し振りでも何でも無いんだが、この世界の様子だとかなり時間が経ってそうだからな。


「───!!オ、オーナーッ!うえぇっへぇえん!」

 それなりに顔立ちが整っているエルフが涙を流しながらこちらに這ってきた。なんだその泣き声は。

「いやー、もう来れないって言ったんだけどさ。いつの間にか居たんだよねぇ」

「おぉなぁー!また、会えてぇ!うりゅえぇえん!」

「おー、よしよし。…なんか背ぇ伸びたか?」

 涙目エルフが抱き付いてきた。身長は低いがコイツ成人近いはずだよな。ちなみにエルフの成人は百歳だ。純粋なエルフなら五百年程生きるという。スケールが違うね。

 俺はなかなか泣き止まないエルフの背中を擦り続けた。

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