XXXVII 帝都
本日二話目です。
ご注意を。
帝都へと向かって歩いていると、他の道が合流して大きな道になり、他の商人や冒険者の姿も増えてきた。他の街よりか物流が盛んだな。
帝都へと近付いて行くと、違和感を覚える。帝都の周囲に壁が無いのだ。ただ住むだけなら無くても問題ないのだが、魔物に襲撃されたら大打撃になると思うのだが。
帝都に足を踏み入れて気付いた。周囲の建物は薄い木の板を張り合わせたようなボロ小屋で、住人と思われる人々には覇気がない。その住人も包帯で顔の殆どを覆っていたり、片腕や片足の無い人間ばかりだ。包帯すら巻いてなく、膿んだ傷を晒している人も確認出来る。
要するに、スラム街なのだろう。なんで他の街よりこんな人々が多いのかは分からないが、何か原因があるのだろう。
物乞いをしている住人や落ちているゴミを拾っている住人の横目に、大きな門へとたどり着いた。大きな外壁が存在しており、おそらくここからが本来の帝都なのだろう。
身分証にギルドのタグを提示し、帝都へと入っていった。
人と店の数が他の街の比ではない。これだけの人だと迷いそうだが、幸いにもギルドは入ってすぐに見付けた。"ギルド"と看板に書かれているので間違いないな。ギルドへと足を踏み入れ、窓口へと向かった。
「次の方~」
「資料室ってありますか?」
「資料室、ですか~?すみませんが資料室は非公開となっています~」
「非公開、ですか?理由を伺っても?」
「以前ですが~、管理魔法陣を消して、盗っちゃった方がいるんですよ~。それ以来非公開なんです~、すみません~」
資料室に入れないのか。独特な喋り方をする職員を背に、ギルドを後にした。もうすぐ夜なので宿を探すことにした。
『銀師の大岩亭』という名前の宿に決め、一部屋取った。部屋の広さはそこそこで、掃除も行き届いている。
「(そこらじゅうに魔法陣が刻まれています)」
「(…本当か?気付かなかったな)」
「(一応隠蔽されてますが、雑ですね。小さな魔法陣が沢山あります。どうしますか?)」
「(…この都で宿を取るのは得策では無いかもしれない。野営の方が安心だな)」
部屋に魔法陣が設置されているそうだ。どんな効果か分からないが、気味が悪いので宿を取り消す。返金を要求する際に少し揉めたが、一晩も泊まっていないのだ。ちゃんと満額返して貰い、宿を出た。
宿を取らないと決めたら都内に居てもしょうがない。日が暮れない内に帝都を出て、歩く。スラム街での寝泊まりも危ないと判断して、街道沿いにテントを張ることにする。
「何か胡散臭い所だな。帝都ってのは」
「そうですな」
帝都の方に顔を向ける、真っ暗なスラム街と外壁から漏れる光。スラム街なんか景観を損ねたとか理由を付けて撤去されそうなモノだが、何故ここまで大規模になったのを放置しておくのだろうか。
「なんかチグハグな所だね…」
「明日帝都を歩いてみようか。気付けることがあるかもしれない」
テントで毛布に潜り込み、その日は眠った。
翌日、帝都を歩く。今日も冒険者や商人らしき人間が多く見掛ける。また、馬車の出入りも多い。店先で売られているものは武器や防具と言ったものばかりだ。
そんな中で、雰囲気の違う店を見付けた。店内が外からは見えず、用心棒らしき人物が二人、出入口の両隣に立っている。ここは何の店なのだろうか。
「すみません。ここは何を売っている店ですか?」
「…ん?何って、奴隷だけど」
「奴隷、ですか」
「なんだい兄ちゃん。他所の国から来たのか?他国では違法かもしれないが、ここでは合法だ。見てったらどうだい?」
「……いえ、買う気はないですから」
「そうかい。まあ、綺麗所を連れているから必要ないか」
「奴隷か」
「他の街ではそのようなモノは見ませんでしたが」
「よく見れば、何か付けている人がいるね。首輪っぽいけど」
「細かい魔法陣が刻まれています。魔道具ですな」
黒い首輪を付けた人間とたまにすれ違う。おそらく首輪を付けているのが奴隷なのだろう。奴隷なんか買っても使い道がないので興味は無いが、見ていて気分の良いモノではないな。
しばらく進むと今度は酒場ばかりになった。周囲を観察しながら歩いていると、一件の店から男が飛び出してきた。
──ッオイ!金は払えよ!
──あ"あ"っ!クソがっ!
追われる男は追っ手に組伏せられた。無銭飲食か何かだろうか。
──おい、ギブソンの奴また捕まってるよ
──またか、懲りねぇ奴だな
──今度は奴隷落ちだろ
──まだ剣とか残ってるんじゃねえか?
奴隷落ちという単語があるのか。物騒な単語だ。
男が出てきた店を覗くと、サイコロっぽいモノやトランプのようなモノが確認出来る。ギャンブルか。すると、男が背後から話し掛けてきた。
「お、兄ちゃん。知らない顔だな。どこから来たんだ?」
「…」
「オイオイ、無視は酷いな」
「…」
「そんな緊張すんなって。帝都は初めてだな?顔に出てるぜ」
「…まあ、初めてですが」
「あんなのは良くあることだ。アイツは賭博にのめり込んでいてな?兄ちゃんも賭け事には気を付けろよ?」
「…有難う御座います」
馴れ馴れしい男だな。こういう奴は大抵、裏で別のことを考えているモノだ。ただの経験則だが。
男をあしらい、暫く進むと小さな砦と門が先を阻んだ。兵士が何人か立っており、門の隙間からは大きな屋敷が並んでいる。貴族街的な区域なのだろうか。
道を引き返し、横路へと入っていった。
横路に逸れた所、店の種類ががらりと変わった。際どい服装をした女が店先に立ち、客を招き入れている。道を歩くのは男ばかりだ。どうやら色街に入り込んでしまったようだ。
まだ昼間なのだが、人種の女であったり、首輪を付けた獣人種が目につく。香水の匂いがキツイので、早く抜けたいな。
「おぉー、姉ちゃん。遊んでくれよ~」
ふらふらと歩いていた男にカエデが声を掛けられた。同時に手も出るが、当然避けられる。
「おぅい!金は払うからやらせろよ!」
「酔っ払いだ。無視で良いよ」
「あ~、待ってくれよお~」
早足で色街を抜ける。酔っ払いは真っ直ぐ歩けないようで、早めに撒けた。面倒な所だな。
周りの店も武器防具が並び、大きな通りに出る。
物が集まり、そこに人も集まる。だが、酒やギャンブルで持ち金を使い果たし、奴隷へ落ちたり身体を売ることになる。それを逃れようと帝都を出るが、当然遠くへ行ける訳が無いのでスラム街が作られる。そんな所だろう。
「帝都は大体巡りましたな。どうしますか?」
「…外も見ておこうか」
「外?スラムも行くの?」
「見ておいた方が良いと思ってな」
面倒を起こす気は無いが、知見を広くするのに必要だろう。
帝都の出入口は複数あるようで、そこから外に出ることにした。ギルドも別にあるようで、騎手のような姿の冒険者が出入りしている。
「これを渡すから着てくれ」
帝都から出た所でカエデとヤナギにある物を手渡す。袖から出すには無理がある大きさだが、上手く誤魔化しポーチから出した。一見ボロいローブにしか見えないが、これはシアンが作った魔道具で、軽い隠蔽の効果がある。相手から意識が向きづらいというだけだが。
自分の分も取り出し、ローブの上から羽織る。これで変なことに巻き込まれにくくなるだろう。
そして、スラム街へと足を踏み入れた。
スラム街を進むと、多かった物乞いも少なくなる。しかし、道の端に嘔吐物らしきモノがぶちまけてあったり、建物と建物の隙間に糞尿が撒き散らしてあるので、酷い匂いがする。
柄の悪い人物とも何度かすれ違い、道の端で動かない人が放置されているのが目に付く。死んではいなさそうだが。
「お金、ください」
帽子を逆さにして物乞いをしている子供に声を掛けられた。ローブがあるはずだが、無差別に声を掛けているのだろうか。と、思ったら別の人物に声を掛けているようで、次の瞬間蹴り飛ばされた。
蹴り飛ばした人物はそのまま道を歩いていき、子供は路地裏へと消えていった。蹴り飛ばされた子供と一緒に物乞いをしていた子供達の姿は既に無く、それを追い掛けていったようだ。
完全な無秩序とは言えないようだが、環境は良くないな。俺がどうしようも出来ないので干渉はしないが。
スラム街の更に奥へと進んでいった。




