XXXVI 勧誘
徒歩で枯れた森を抜けた後、荒れ地から馬車に乗り換えた。馬車で進むには適さない地面だが、この馬車は車輪に魔物由来であろうゴム質の革が巻いてあったり、サスペンションのような部品が使われているので、多少の悪路は走行出来る。ただ、馬ゴーレムは土を跳ねまくっているので、後で掃除していた方が良いだろう。
たまにミミズのような見た目の土蠕虫が進道を塞ぐが、パワフルな馬ゴーレムが蹴散らし、肉片を前肢で受ける。どんどん汚れていくのだが、掃除が大変そうだ。タイショーにでも頼むか。
ワームの肉片に、直ぐ様別のワームが食らい付いて、ワームの団子状態になっている。こいつはまともに相手をしない方が良いな。
荒れ地を抜け、草原へと入る。普通の馬と比べれば大きめの馬ゴーレムは、魔物も驚くようで襲い掛かられなかった。草原で一晩野営し、草原を突破して、やがてファーの街が見えてきた。馬ゴーレムの燃費がすこぶる悪いので、魔力回復ポーションを二瓶消費してしまった。大地で、代用できる魔物素材を探した方が良いだろう。
ファーの街に入る手続きをし、ギルドへ向かった。街の様子は余り変わっていないようだ。
ギルドの窓口へと行き、依頼の達成報告をする。既に刀鹿の角は背負子にくくりつけてあるので、取り出して窓口へと置く。
「依頼の処理をお願いします」
「…!イブキさんじゃないですか。今回は遅かったですね」
「遅かったですか?期限内だと記憶していますが」
「…それはそうですが。戻ってきていただいて安心しました。貴女方は他国に渡すには惜しいですから」
「他国に…?ギルドは独立しているのでは?」
「その認識で間違っては居ませんが、どこの組織にも派閥があるように、まあ色々あるんですよ」
「へえ、そうなんですか」
完全に独立した機関という訳でもないようだ。台地にも似たようなのはあったので、こういうのはどこにでもあるのだろう。競争意識は悪いものでもないのだし。
角の納品を終え、依頼板を覗きに行く。Cランクで受けられる依頼は…『巨大烏賊の吸盤の納品』『イラメラ山脈で灰水晶の採掘』『モガル王国までの護衛』。どの依頼もここからは遠い依頼ばかりだな。ランクはこれ以上積極的に上げる必要は薄い気がするし、そろそろ他のアプローチで情報を集めてみても良いかもしれない。
「わ!ねえ、イブキくんだよ!」
宿を探そうとギルドを出ようとした所、声を掛けられた。聞いたことのある声だな。
「お、いるじゃねぇか。よかったな」
一組の男女であった。名前は何だったかは忘れたが、先輩で通しておけば良いだろう。男の方は先輩と一緒にいた男の片割れだ。
「先輩?どうかしましたか?」
「わあ、覚えておいてくれたんだ!脈アリかも!」
「おい、本題に入ろうぜ」
「本題…?何か用ですか?」
「お前ら、オレ達のクランに入らねえか?」
「ねえ、いい話じゃない?"真紅の茨"って名前なんだけどね?ウチはこの国で活動していて、けっこう有名なんだ」
「お前らならウチでもやっていけるだろ。他国に逃げられたかと焦ったが、張り込んでいて正解だったぜ。どうだ?」
「張り込んでたって、呑んでただけでしょ」
「モノは言い様だろ?」
クランか。入ることで情報を効率的に集められるかもしれないが、俺は既にクランに入っている。この"大地のギルド"とは違うギルドだが、新たに入る気はない。クランは一つで十分だ。
「すいませんが、お断りします」
「……あ"?」
「ふう、断られちゃったね」
「おい、そっちの爺さんと姉ちゃんも説得してくれよ」
「…」
「…」
「…ッチ、なんとか言えよ。あー興醒めだ」
男は手をプラプラさせて、酒場の方へと歩いていった。手の方はジェスチャーか何かだろうか。
「いやー、ごめんね。無理に誘って」
「いえ、クランに興味が無い訳ではないですから」
「え?ほんと?じゃあ私たちにもワンチャンあるね!」
「あはは、そうですね」
興味と言っても情報資源的な意味でだ。この国の潜在的な戦力も測ることが出来るだろう。必要になるかは分からないが、情報を多く持ち帰るに越したことは無い。
「うーん。じゃあウチのクランの本部が帝都にあるんだ。いつかで良いから見学に来てよ」
「帝都、ですか?」
「あれ?帝都行ったことない?誰しも夢を見て一度は失敗するものじゃない?」
「行ったことないですね」
「へえ、じゃあ一度は行ってみると良いよ!」
「…そうですね。参考にします」
帝都、か。この国の中心ということか。この街以外の場所に行ってみるのも良いかもしれないな。いい依頼も無かったし、他のギルドで依頼を漁っても良いかもしれない。
「諦めないからね!そのうち帝都を案内してあげるよ!」
「…有難う御座います」
ギルドを出て、宿が多い区域へと歩き出す。適当な宿に目星を付ける。『新風亭』と言う名前の宿だ。
部屋を取り、腰を降ろしてから話を始めた。
「別の街に行ってみようと思うけど、どうだ?」
「そうですな。儂は良い考えだと思いますぞ」
「私も良いと思うよっ!ここに居ても進展なさそうだし」
──キュッ
「タイショーは何て?」
「好きにすれば?だって」
「具体的には、何処に行きましょうか」
「俺は…帝都が良いと思う。国の中枢だろうしな」
「儂もそれで良いと思いますが、…あの者達のクランが干渉して来ませんかな」
「うーん。別に気にしなくても良いんじゃないかな?一回断ったんだし」
「ちょっとめんどくさいよね」
「まあ、仲良くするのは悪くないからな」
食事はポーチから出した作り置きで済まし、その日は眠った。
翌日、日が昇ってから目を覚まし、この街を出た。地図を取り出すが、かなり荒い地図なのである程度の方角を決め、馬車で進んでいった。まあ、道なりに進めば間違いないだろうが。
「ねえ、イブキ。膝枕しない?」
「え、いきなり何?」
「えーっと、あんまりゆっくりする時間なかったから」
御者台に人が居ないのはおかしいので、ヤナギに担当して貰っている。そしてタイショーは二人分取って寝ている。なので二人で並んで座っているのだが、いきなり膝枕とは。
「よいしょっ!」
カエデが俺の太腿に顔を埋めた。今はスーツを着ているから硬くて感触など感じられないと思うが。
「硬いだろ」
「硬いねっ!…よいしょっとっ!」
カエデが起き上がり、今度は自分の膝を叩き始めた。俺がやるのは恥ずかしいな。
「ほら、おいでよ」
「…じゃあ失礼して」
カエデの太腿に後頭部を乗せる。凄い柔らかい。そしてたわわに実ったアレが視界を覆い尽くす。こっちも凄いな。
「なあ、いきなりどうしたんだ?」
「…あんまり自分だけで解決しようとしなくて良いよ」
「…俺は別に無理していないけど」
「イブキ、休んでないでしょ」
「え?休んでるけど」
「台地に戻っても余裕なさそうだったから」
俺は十分に睡眠も取っていたし、むしろ余裕がある方だと思うが。
「イブキ本当はやさしいんだから。あんまり無理しないでね」
「…分かった」
カエデが頭を撫でてきた。くすぐったい。
無理している自覚は無いが、心配してくれているなら有り難く受け取ろう。自分では分からない変化という物もあるだろうし。
膝枕を後頭部で堪能しながら、馬車は進んでいった。
丸一日経過し、帝都らしきモノが遠目に見えてきた。何度か御者を交代し、俺も御者台に座る。簡単な命令ならゴーレムが処理してくれるので、居る必要はなかったが。
馬車を止め、周りに人が居ないことを確認して馬車を仕舞った。ここからは徒歩の方が楽だろう。
バブみを感じる




