XXIX 一時帰還
あれから丸一日経過した。昨日は休日にし、身体を休めた。余り疲れてはいなかったが、熟睡はしていなかったので、気疲れしたのだ。
混沌大熊の首は既にポーチに仕舞ってある。台地に持って帰り、刻まれた魔法陣もろもろ解析して貰うか。
今日はタグを更新して貰う為にギルドへと来ている。
「お待たせしました、タグをお返しします」
受付嬢から更新されたタグを受け取る。タグの中心には大きく『C』と刻まれているのが分かりやすい変化だ。ヤナギとカエデも同じ物を受け取る。
「さっそく依頼を受けたいのですが、詳しいことが書いていない依頼があるので、どうすれば?」
「詳しい依頼の内容は、こちらでお教えします。今ある依頼の詳細を聞きますか?」
「ええ、よろしくおねがいします」
そろそろ荷物を置きに、あと情報を伝えに台地に戻りたい。ルティにも心配を掛けていることだろう。依頼の中にここから北東の平原で行う依頼がある。しかも、行きの狩りで既にポーチの中にある。カモフラージュ的にも、貢献度稼ぎ的にも良い依頼だろう。
「この『刀鹿の角の採取』でお願いします。あと、Cランクで閲覧が解禁される書物とかって何ですか?」
「『刀鹿の角』ですね。期限はここに書かれている通りです。…書物は迷宮や地図に関してが多かった記憶がありますね」
「分かりました。資料室で調べものをしてから、依頼に向かおうと思います」
「はい。気を付けてくださいね」
「やあ。無事に試験を突破したらしいね。凄いじゃないか」
前に資料室で会った女が声を掛けてきた。名前は…確かシャロン、だったか。人の良さそうな笑みを浮かべて近付いてくる。
「先輩じゃないですか。どうかしたんですか?」
「呼び捨てで呼んでも良いんだよ?…試験で巨人が出たらしいじゃないか。詳しいことを教えてくれないか?」
「巨人は出ましたが…。何で知っているんですか?」
「ふふん。実はね私達はその調査依頼を受けたんだよ」
「へえ、凄いですね。あれ?そういえば、先輩って何ランクなんですか?」
「言ってなかったかい?Aランクさ!どうだい?もっと敬っても良いんだよ?ねぇねぇねぇ」
「あはは。では用事があるんで。失礼します」
「あっ、ちょっと待ってよ!」
シャロンはAランクだったか。縁を作っておくべきだと思うが、面倒だな。今は深く付き合わなくて良いな。
資料室で有用そうな書物を書き写していく。特に地図と魔物を重点的に調べる。迷宮は余り必要無いだろう。
三時間ほど調べ物をしたあと、お土産(研究材料)を買う。そして、街を出て北東へ向けて歩き出した。
******
数日経過した。疲れてはいないが、遠い。馬車とかあった方が楽で良いだろうか。馬車本体はポーチで持ち運べるが、馬の管理が大変になるか。
平原を通過し、荒野を抜け、枯れた森を歩いた。台地の上に上がる方法は、地道に結界を展開して少しずつ登っていく方法だ。かなり時間を掛けてしまった。楽に上り下り出来る方法を見付けたいな。
台地の端から、三日描けてルカラ王国の王都へと到着した。途中で何度か村に寄ったが、特に変わった印象は受けなかった。
久し振りの王都だ。と言っても一ヶ月位しか離れていないが、知っている景色は安心出来る。
ルティエラ商会の傭兵部門の方から店内へと入る。前回見た時よりも従業員が慌ただしく動いている気がする。受付でルティエラを呼んで貰い、少し離れて待つ。俺だけなら、誰も覚えていないので呼べ無かっただろうがヤナギ達が居る。二十年活動していれば、それだけ有名になるだろう。二年ちょっと冒険者をしていたくらいで、覚えている方が稀だろうしな。
「オーナー!お帰りなさいっ!ヤナギさんも、カエデさんも、タイショーさんもお疲れ様でした」
ルティエラがカウンターから飛び越え、抱き付いてきた。たった一ヶ月だけだと思うが、その喜びようは子犬のようだ。
「ああ、ただいま。ルティ。お土産いっぱいあるぞ?」
「奥で話をしましょう。こちらでも進展がありましたし」
ルティエラの後ろに続き、従業員専用通路を進む。
──なんだアイツ?見たこと無いぞ?
──商主さんの愛人か?
──親じゃねーか?
──でも人種だろ?エルフでは無いだろうし
──俺はアイツ見たことがある気がするな
傭兵や客がざわざわと俺とルティエラとの関係を探っている。普通に、雇い主と雇い人なのだが。それに親は絶対無いだろ、ルティエラの方が何倍も年上なはず。
いずれは従業員に俺のことを紹介して貰うつもりだが、今は情報共有を優先しよう。そっちの方が大切だ。
ルティエラの私室に入り、ソファーに座る。早速だが、情報共有を始めようか。
「俺達からで良いか?」
「はい!良いですよ」
「これは外の魔物と地図の写しだ。それと台地には無い魔法陣とか、魔道具だ。ポーションとかは全く見なかったね」
「これは…助かりますね。調査から帰って来た方は二組居ますが、詳しいことは分からなかったのですよ。外来種も、これと…これも、凄いですよ!オーナー!」
「ふふふ、凄いだろう?それで、ルティの方も進展があったそうだな。内容は?」
「オーナー達の内容には及びませんが。他の訪問者の方が見つかりました」
「レン以外にも居たのか」
「ええ、レンさんが、オーナーが帰って来たら会いに来るように、と言っていました。場所は屋敷です」
「そうか。研究材料は何処に置けばいい?置いたら行ってくるよ。ヤナギ達は自由にしていてくれ」
「分かりました」
「あっ!そういえばワンちゃんは?!」
「クロなら食堂ですが…」
「名前!私が提案したのを採用してくれたんだっ!やったぁ!」
「儂は…盆栽の手入れでもしようかの」
「あれ?ヤナギ、盆栽やってたっけ」
「イブキ様に教えて頂いた知識を再現したのです。もっとも、本来の物とは違いますが」
「そうか。よし、暫く解散な」
ルティエラに案内された倉庫に研究材料を置き、レンの屋敷へと向かった。倉庫には既に人がおり、調薬師だけでは無く、錬金術師や魔物学者を集めたそうだ。
屋敷に着いたが、どうすれば良いのだろうか。取り敢えず門番らしき者に声を掛けようとしたら、門番から声を掛けられた。
「当家に何かご用ですか?」
「レンが呼んでいると」
「失礼しますが、お名前を」
「イブキです」
「イブキ様ですね。お待ちしておりました」
門番がおもむろに剣の鞘に手を当てる。すると、門が開きだした。
「お通り下さい」
「ええ、分かりました」
屋敷に踏み入れると、メイドが一人立っていた。
「お待ちしておりました。イブキ様。主の元に案内させて頂きます」
見たことの無いメイドだ。例に違わず巨乳だが、また捕まえて来たのだろうか。それとも会ったことの無いだけで、元々居たのか。
屋敷の廊下を進み、一つの扉へと踏み入れる。相変わらず広すぎるな、ここまで広いと歩くだけで疲れないのだろうか。
「よお、イブキ!久し振りだなァ!」
「レンも久し振りだな。一ヶ月くらいか?」
「それくらいだな。ところで外へ行っただって?どうだった?」
「ポーションとか…、所謂生産職系の立場は低かったな。あの国がそうなだけかもしれないが。ちなみに鍛冶師はまあまあ優遇されていたぞ?」
「ふぅん。そうか。人はどうだった?」
「よく分からなかったが、ここがバレたら攻め込まれるだろうなぁ」
「そうか…。戦争はしたくねぇなぁ。…ところで、お前に伝えたいことがあるんだが」
「他のプレイヤーが居たんだろ?聞いたぞ」
「ああ、聞いていたのか。それもあるが、集会があるんだ。把握している限り全員が定期的に集まって話しあったり、物を交換しあったりすんだが、お前が居なくてな」
「…ポーションとかを売ろうかね?」
「お前のポーションは高品質だ。現実なら尚更、良質な回復手段は誰もが欲しがるだろうな」
適当に雑談をして、その日は商会へと帰った。
集会は三日後とのことだ。プレイヤーが沢山居るなら、移動手段とかを相談しても良いかもしれない。
次回の更新はかなり後になります。
すごい空きます。




