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この世界の台地で  作者: あの日の僕ら
第三章 見知らぬ世界へ
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XXVIII 神聖魔術

 腕を骨折しているであろう女冒険者の側に、イアンナと呼ばれた女の姿があった。胸の前で指を組み、祈るようなポーズを取っている。

 この動作は見たことがある。台地での知識だが、神聖魔術を行使する時は信仰する神に、祈りを捧げる必要があるらしい。神聖魔術は治癒に特化しており、普通の回復魔術より効果が高いらしい。"らしい"ばかりなのはプレイヤーで使えるようになる人は少なかったので、検証が進んでなかったのだ。神聖魔術への適性はランダムとされていたが、本当の所はどうなのだろうか。


 イアンナの口元に魔力が集まる。そして呪文を紡いでいった。

「ふぅ…『大いなる神"イアリヴィト"よ。魔の者に侵されし彼の者の肉体を癒し暘へ。"ホーリー・ヒール"』」

 組んでいた指をほどき、ナタリアの壊れた肘に両手を翳す。そして、ゆっくりと肘の骨が治り始めた。回復魔術はいかにも治癒という感じで傷が治るのだが、神聖魔術の治癒は映像の巻き戻しを見ているのに近い。

 呪文の内容や長さは知識の物と違うが、似たような効果なようだ。少し効き目が薄いようだが。


「クソっ。あたしの腕と魔力量じゃ、これが限界だ。残りの治療は街に着いてからになる。ごめんなナタリア」

「…ましになった。ありがと」

「わたしも神聖魔術を使えれば良かったんだが…」

 ナタリアの肘は軽く鬱血した状態で止まった。魔術の腕は、余り良くないようだ。台地ならここでポーションが出て来たり、替わりの回復魔術で治療を進めるとは思うのだが、何も出て来ない。調薬という、基本的に混ぜるだけの文化すら廃れてしまっているようだ。


「イブキさん。なし崩しとは言え、殿をしてくださって助かりました」

「緊急時ですからね。少し聞きたいのですが、あの巨人は何なのですか?」

「知らないのですか?…イブキさんはギルドに入って二週間でしたね。あの巨人は"鉄皮の巨人(ジレイ・ギガース)"です。ここからそう遠くないエルバード山脈、通称"魔人の巣窟"に生息しています。巨人から半馬人まで揃う異形の山です」

 魔人の巣窟。台地で魔人と言うと魔人種のことを指していたが、ここでは人形の魔物のことをそういうらしい。

 なら本来の魔人はどんな扱いになるのだろうか。まあ、想像に固くないな。


「あの冒険者?は何がしたかったのですかね」

「グウィンさんは…。実力は同年代の他の方より優秀でした。しかし、一人を好む性格でして。今まで誰ともパーティーも組まなかったそうです」

 あの男が何をしたかったかは、結局分からないか。魔物を怒らせて逃げてきただけの、ただの馬鹿という線もあるが。まあ、真相は闇の中、だ。これ以上気にしいても、何も進展は無いだろう。

 闇の中を馬車の明かりが切り裂いて、進んでいった。


 ******


「…見えたっ!ナタリアっ、あと少しよっ!」

 暗闇の中で、うっすらと明かりが見える。平常時なら、何回か休憩を挟むようだが、今は怪我人を運んでいる。傷は塞がっているが、完治はしていないので、早めの治療が必要だろう。

 …ポーションを馬車に積んでいたらこうはならなかったはずだ。台地の存在が露見したら、ポーションを大々的に売り出してみるのも良いかもしれない。きっと高値で売れるだろう。


「門を開けてくださいっ!怪我人ですっ!」

 閉まっている門に向かって、男職員が声を上げる。暫くすると、少しだけ門が開き、目付きの悪い兵士か出て来た。

「こんな時間に。…ギルドか。どうした?」

「移り木の森で、鉄皮の巨人(ジレイ・ギガース)と遭遇しました。怪我人が一人居るので、安全な所へと運びたいのです」

「時間が悪いな…。怪我人は女か。今起きてる神官なんて、あのエロジジイくらいじゃねぇか?」

「…ナタリアさん。ガーフェさんなら診て貰えそうですが、どうしますか?」

「…絶対にイヤ。がまんする」

「…そうよね。職員さん、何処かで朝まで待たせて貰えないかしら?」

「そうですね…。ギルドに着いたら空き部屋が無いか聞いてみます」


「じゃあ入ってくれ!一応検査は受けて貰うが、そんなに時間は取らせないつもりだ!少しだけ我慢してくれよ!」

 門が開き始め、人一人通れる程の幅から馬車がギリギリ通れる広さになった。馬車は門を通過し、検問所で止まった。そこには先ほどの兵士と、知らない兵士が二人、計三人の兵士か居た。

「中を調べる!怪我人は動かさなくても良いが、歩ける奴は外に出てくれ!」

 馬車を降り、地面に足を付ける。ずっと馬車に乗っていたので感覚が掴めず、少しよろけた。

 背後を見ると、大きな扉が閉まっていくのが見えた。音はそれほどでもないようで、静かに閉まった。仕掛けはどうなっているのだろうか。


「混沌大熊の首?試験か何かか?」

「ええ、そうです。その為に移り木の森に行きましたが、最後の最後で…」

「ふぅん。だが、あそこまで巨人が出てくるなんて、聞いたことないぞ?」

「ええ、おかしいです。調査に行く必要がありますね」

「そうだな。…よし、終わったぞ。通ってくれ」

 馬車に再び乗り込み、明かりの少ない街を馬が駆ける。


 ギルドの前で止まり、馬車を降りた。馬車はギルドの備品らしく、裏に回って行った。ギルドの扉は、流石に夜は閉まっているらしく、男職員が鍵を取り出して解錠した。ナタリアは歩みは遅いが、歩けるようなので、自分で歩いている。だが、早めに治療をしないと骨が変なくっつき方をするだろう。

 ギルドの中は昼間と違い、寂しげな雰囲気を感じる。人気は感じられないが職員は常駐しているようで、奥からランプを持って歩いてきた。

「あら?コスタカさん、リリアさん。こんな時間にどうしたのですか?随分と早いですわね」

「ええ、想定外の事態が起きまして。詳しいことは後で話します。怪我人が居るので空き部屋はありますか?」

「空き部屋ね。分かりました、すぐに調べますわ」

 今回の試験で担当した職員の名前はコスタカとリリアか。これから会話をするかもしれない、覚えておいたほうが良いか。

 今出て来た職員はランプを窓口に置き、一冊の本をめくりはじめた。


「一部屋だけ、第二会議室が空いていますね。他は荷物が置いてあるので、スペースがありませんわ」

「分かりました。朝までそこを借りますね。リリア、彼女らを案内してくれ。私はシーニャに移り木の森でのことを伝えます」

「分かりました。では、皆さん付いてきてください」


 ぞろぞろとリリアか先導して階段を上っていく。ナタリアのパーティーなら良いだろうが、俺達は一緒に行く必要はあるのだろうか。

「コスタカさん。私達はどうすれば?」

「…そうですね。アルビナさん達と同じ部屋で待っていてください。巨人の事と試験についてお話がありますから」

「分かりました」

 階段を上っているナタリアの後ろに付く。ゆっくりと上っているので、時間が掛かっているらしい。試験はてっきり無効になったと思ったが、大丈夫なようだ。


 ******


 会議室の椅子に座り、朝を待つ。あと三時間ほどで日の出だ。地図画面を開いて、時刻を確認していると、扉がノックされた。

「皆さん、起きておられますか?」

 出入口に立つのはコスタカだ。手には書類を持っている。

「正式な発表は後日になりますが、ここに居る皆さんは、Cランク昇格試験に合格しました」

「やった…」

「良かったわね!」

「やったね!」

「それと、近日中には移り木の森について調査が行われます。あの森について様子を聞きたいのですが、宜しいですか?」

「ええ、話せることならね」

「私も良いですよ」


 木で作られた窓から、日差しが漏れる。五時半、まだ宿や店は開いていないだろう。

 質問の内容は、森に異常はあったか、ということだ。俺は誘引剤使用していたが、エルバード山脈と俺達が戦闘をした場所からかなり遠く離れているらしいので、俺が原因という訳では無いだろう。


「皆さん、お早うございます。これで解散となりますが、翌日からタグを更新出来ると思います。そして、お疲れ様でした」

 リリアが部屋に居る全員に向けて話す。この待っている時間、寝ていなかったので、今日は宿で休もうか。


 アルビナ達は、傷を治しに教会へ。俺達は身体を休める為に猫耳亭へと向かった。宿は一日毎に料金を支払っているので、連続で取らない限り別の部屋だろう。

寝ている間にクーラーはいけませんね。

お腹を冷してしまいました。

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