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この世界の台地で  作者: あの日の僕ら
第三章 見知らぬ世界へ
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XXV 反省

 ──キュウ

 タイショーがじっと俺を見つめている。

 言葉は理解出来ないが、今の状況で伝えたいことくらいなら分かる。この目は明らかに俺を非難する目だ。


「…分かってるよ。かなり残酷な注文だった」

 ──キュ

「…俺には満足な攻撃方法が無いから。せめて囮だけでもやらないとって思ってな」

 ──キュウッ

「…え?あー、すまん。何を伝えたいのか全然分からん」


「若様」

 後ろを振り返ると、ヤナギが草むらから出て来た。だが、顔面は蒼白で、足取りもフラフラとしている。今にも倒れてしまいそうだ。

「大丈夫か?」

「ええ、身体の方は。これは精神的なモノでしょう」

「…俺のせいか。すまない」

「いえ、そういうことでは…」

 ヤナギは否定しているが、俺の注文が不味かったのだろう。攻撃に巻き込まれる俺は何て事無いが、味方を巻き込んで攻撃をする側の心労を考えていなかった。

 これが会って間もない関係ならば、こうはなっていないだろう。だが、俺達は少々特殊な関係だ。仲間に頼むことでは無かった。


 カエデの声が聞こえないことに気付いた。探す為に、最後に見えた場所へ行くと、地面に蹲るカエデを見付けた。

「おいっ!しっかりしろっ!カエデっ!」

「うぇっ…」

「俺は生きてるから、大丈夫だ」

「うええぇぇぇぇぇえんっ!」

 蹲るカエデに声を掛け続けると、いきなり飛び付いてきた。顔はヤナギと同じく蒼白で、触れている腕が震えているのが分かる。ついでに顔が涙まみれだ。…精霊の体液って何なのだろうか。

 カエデの身体を抱き上げ、タイショーとヤナギの所へ戻る。タイショーは相変わらず非難する目を向けており、ヤナギは目を閉じて呼吸を整えているようだ。


「…取り敢えず座るか」

 魔獣の被害が出ていない場所に移動し、カエデを降ろした後、地面に腰を降ろした。後ろからヤナギとタイショーが追随し、同じく腰を降ろす。タイショーは腰なのか胴なのか分からないが。

 ヤナギが呼吸を整えるのと、カエデが泣き止むのを待った。魔獣の死体がそのままだが、先ほどの争いのあった場所に来る獣はいないだろう。それ以外で、何か異変が起きればタイショーが真っ先に気付くはずだ。


「…すみません。落ち着きました」

「…ぐすん」

「…本当に非道な注文をした。ごめん」

 ──キュ

「…いえ、精進します」

「いや、こんな作戦は今後一切立てない。今回が最初で最後だ」

「…もうしない?」

「ああ、しない。する必要がない」

「ほんと?」

「本当だ。あと、俺に従わなくても良い。間違ったというか、ズレた行動をした時は言ってくれ。直すから」

「しかし…」

「あーっと、そうだな。…言われるがままは、俺の為にならない。俺を育てると思ってくれていい」

 この世界で三年だけ。しかも、ログアウトで抜けている時間は換算していない。それに比べて、ヤナギ達は二十年、それよりも前からこの世界で生きてきた。価値観も思考回路も違うのは仕方がないだろうが、俺はそれに合わせなければならない。

 時間もある。今のお互いの考えを共有しておこうか。


「いい機会だ。俺に不満があったら言ってくれ」

「不満だなんてそんな」

 ──キュキュキュキュキュキュッ!!!

 タイショーか急にうねうねと動き出した。内容は分からないが、余程不満が溜まっていたようだ。ついでに尻尾をぺちぺちと当ててくる。

「…何て言ってるんだ?」

「…」

「…」

「教えてくれないか?」

 ──キュルッ!

「…あのね、私はこんなこと思ってないからね?…『魔物呼びはやめろ』とか『もっと剣術とか体術を鍛えろ』『硬いだけで無敵じゃねーんだからもっと回避しろ』『祝福(ポーチ)に頼りすぎだから自粛しろ』『爺さんの仕事量が多すぎるだろ、ポックリいくぞ?』…だって」


 うわぁ、何と言うか。タイショーはかなり毒舌家のようだ。毒などないはずだが。タイショーを見ると、尻尾をカエデの側の地面に打ち付けていた。何か文句を言っているようだ。

 ──キュウッ!

「えっ!?いやっ、最後のは言わないよっ!言わないったらっ!」

 タイショーの目つきがどんどん悪くなっていく。散々不満を吐き出したと思ったが、まだあるらしい。

「私からは絶対に言わないからねっ!?」

 ──…キュウッ!

 タイショーは何かに怒っていたらしいが、カエデは許されたらしい。タイショーだけでこんなに文句があるなら、カエデとヤナギにも有るかもしれない。いや、絶対有るだろう。


「カエデも俺に不満があるよな。教えてくれ」

「…うえっ!?そんなのないって!」

「どんなに小さいことでも良い。直せる所は直すと約束する」

「…じゃあね。自分自身をもっと、大切にしてくれる?」

「俺自身を、か」

 カエデから指摘されたが、俺は十分に自分のことを考えている。ただ、カエデ達が怪我をするより、俺が怪我をした方が戦闘が苦しくならないと考えているからだ。カエデもそうだが、精霊は人間よりも強い。魔力量から魔力の操作、筋力も桁違いだ。人の形を取っていても、そもそもの由来が違う。絶対数も少ないし、人間に近い価値観を持っている精霊など探して見付かる者ではない。

「分かった。ただ、俺はお前達を大切に思っている。対処しきれない問題に直面した時は、俺に守らせてくれ」

「えへっ。…でも、私もイブキが大切だからね?その時は私も戦うよ」

 その約束は確約出来ないな。俺一人の方が都合の良い戦い方もある。連戦出来る方法ではないのだが。


 ヤナギの方に身体の向きを合わせる。まるで、孫を見るお爺ちゃんのような顔になっているが、どうしたのだろうか。

「ヤナギ?何か良いことでもあったか?」

「いえ、ただ若様が私達のことを大切と言ってくださって、嬉しくてつい」

「…そうか。ところでだが、ヤナギは俺に不満とかあるか?」

「いえ、ありません」

「カエデにも言ったが、小さいことでも何でも良い」

「不満などありません」


 ヤナギは不満はないようだ。だが、絶対有ると思う。例えば、尊敬している上司が居たとして、つまらないことでも目についたりする。人間関係はマルかバツだけで分けられることではない。ここは俺からも意見を言わせてもらおうか。

「じゃあ、俺からも意見がある。敬語を止めないか?」

「敬語、ですか」

「ああ。タメ口なら、時間のない時でも最低限のことは伝わる。逆に、敬語は回りくどい所があるから時間が掛かる。冒険者として大切なことだと思うぞ」

「…ですが、長年染み付いた癖ですから中々…」

「思い出した時だけで良い。どうだ?」

「そうで…そうだな。分かったイブキ…様」

「…難しいなら、取り敢えず名前からとか、それでどうだ?」

「…それくらいなら。分かりました…イブキ」


「そういえば、ヤナギはいつから敬語だったっけ?出会ったときは敬語じゃなかったよな?」

「そうですな。確か、わ…イブキに教えて頂いた覚えがあります。"若"という呼び名もその時でした」

 …ヤナギと出会った時。ただの初老NPCとしか思っていなかったし、老人に呼ばれるなら時代劇で見た『若』と呼ばせてみたのだったか。結構自然で、この時まで意味もなく若呼びだった。考えて見ると、痛いことしてたな…。


「皆、他にも無いか?戦闘のことじゃ無くてもいい。日常生活の不満とか」

「それでは。私が」

「お、ヤナギか。何だ?」

「イブキ…様は、偽物とは言え荷物を背負っています。儂が今後背負いたいと思いますが」

「…いや、それは俺が継続して背負うよ。いざとなればポーチに仕舞えるし、ヤナギ達が動けた方が良い」

「そうですか?…分かりましたイブキ様」

 そもそもダミーだ。中身は全く入っていないので軽いし、安物なので壊しても問題ない。確か物運び専門の冒険者は"ポーター"と言うのだったか。甘く見られるのは気に入らないが、その分油断を誘えると思えばいい。

 いつの間にか、"若"呼びから"様"呼びになっている。急に直せと言われても、長年続けてきたことは簡単には変えられないだろう。今はそれで良いか。


「他に──」

 ──キュッ

「ん?タイショー、まだあるのか?」

 タイショーはタイショーで文句がありすぎて、聞くのが少し怖くなってきた。言っていることは正論なのだろうが。

「えっ!?だか、ら。それは…」

 ──キュキュッ!

「ヤナギが居るじゃないっ!恥ずかしいからやだっ!」

「カエデが言わんと意味がないじゃろ」

「えっ…」

 どんな会話をしているのか分からない。分かったのは、恥ずかしい内容ということだけか。


「え、えっとね、イブキ。…ぎゅっとして欲しいんだ」

 ──キュウ…

「はぁ…」

「ん?抱擁ってこと?いいよ?」

「わっ!?…えへへ」

 カエデをそっと抱き寄せ、きつく抱擁をする。カエデの髪が頬に当たり、くすぐったい。なんか甘い匂いがするが、精霊には汗腺があるのだろうか。


「他は無いか?無いなら馬車の所へ帰るが、これからも気になることがあったら随時言ってくれ。いつでも良いからな」

 ──キュッ!

「承知しました。片付けを手伝いましょう」

「はーいっ!」

 魔獣の残骸をポーチに片付ける。

 カエデ達には心配を掛けた。今後はカエデ達の前では、自爆戦法なんて手段は取らない。単独行動なら話は違うが。


 地面に染み込んだ血液以外の素材を回収し、歩き出した。

日差しが、アツゥイ!

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