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この世界の台地で  作者: あの日の僕ら
第三章 見知らぬ世界へ
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XXII Cランク昇格試験

 会議室で待機していると、扉の開く音が聞こえた。見ると三人の冒険者らしき者達が入ってきた。

「アルビナ、イアンナ、ナタリア、ですね。掛けて下さい」

 職員が声を出した。入ってきたのは、全員女のようだ。

「揃いましたので、今回の試験の概要を話したいと思います」

 もう片方の職員が説明をし出す。この職員達は息が合っているが、血縁だったりするのだろうか。

「皆様はある場所に行っていただいて、特定の魔物を討伐して貰います。が、不正を防止する為に、詳しいことは現地に着いてからお話します」

「なお、試験期間は五日間ですが、手に負えない魔物が出て来た場合は撤退を視野に考えます。決して無理はしないで下さいね」

「馬車を用意しておりますので、着いてきて下さい」

 部屋を出ていく職員の、後ろに続いた。


 街の外に停めてあった馬車に乗り込んだ。乗った馬車は通常よりも大きく、片側五人まで座れる席が備え付けられている。

 ヤナギ、カエデ、俺、女職員、男職員、の順に並び。反対側には、女冒険者A、女冒険者B、女冒険者C、一席空けて男冒険者だ。馬車に乗り込んでから、会話が一度も発生していない。


「ね、ねぇ。アンタ達。折角だから自己紹介しとかない?」

「そうだよ。ね?」

 馬車の空気に耐えかねたのか、女冒険者Aが声を上げた。その声に冒険者Bも続く。

「じ、じゃあ私から。名前はアルビナよ。得物は剣。将来はAランクを目指しているわ」

 女冒険者Aはアルビナと言うらしい。装備は革と鉄の複合鎧で、無数の傷が確認出来る。髪色は茶色で、利発そうな印象を与える。

「あたしはイアンナ。弓を使うわ。将来はあたしもアルビナと同じよ」

 女冒険者Bはイアンナと名乗った。余り見ない朱色の髪色をしている。目尻は下がっており、アルビナと比べると穏和な印象だ。

「…」

「ほらっ、ナタリア」

「…私はナタリア。武器は短剣。将来は隠居生活をしたいの。今はその為に頑張ってるの」

 ナタリアと名乗った女は、俯いたまま話す。髪色は紺で、背は三人の中で一番低い。全体的に覇気がない。

「私達は同郷なのよ。村にはいい男が居なくて、出てきちゃったの」

「やっぱり都会は良いわよ。あたしはそう思うわ」


 三人の自己紹介が終わったところで、再び沈黙に包まれる。

「…ちょっと」

 誰も反応が無い。ここはこの冒険者に合わせようか、立候補する。

「では、私が。…イブキです。宜しくね?」

 A、Bの二人が俺を観察しているようだ。大抵の物はポーチの中だし、何も分からないと思うが。

「あっ、次は私かなっ?カエデだよ」

「ヤナギじゃ」


「…え?もう少し詳しく教えてくれない?」

「別にいいじゃろ」

 Aは何か言おうとしていたが、口を閉じた。諦めたようだ。

 順当に行くと、次は男冒険者だろう。

「私はコスタカと申します。以後お見知りおきを」

「私はリリアと申します」

「「え?」」

 え?と声が出そうになった。A、Bは実際に出したようだが。このタイミングで職員が自己紹介するとは思わなかった。冒険者だけで充分だと思うが。

「お互いの情報を把握していると、話の伝達が早くなります。冒険者や職員といった役職名は関係ないと考えております」

 一理ある…かもしれない。この職員達は、よく分からない感性を持っているな。


「…」

「アンタの番よ。ほら」

「…グウィンだ。お前達と仲良くする気は無い」

 冒険者の男は、ぼそりと呟いた。艶のある黒髪をしており、全身を真っ黒な装備で固めている。腰には白い剣を携えており、ゲーム時代に見た、中二病プレイヤーを連想させる。


 ふと馬車の外を覗くと、色とりどりの花を付けた木々が目に入る。たしか『移り木』だったか。花を咲かせるが、初めは白色で、近くの別の種類の花と同じ色に変化する。上書きも可能で、同じ配色は無いと言われている。綺麗な花だが、毒がある。機会があれば是非採取したいと思っていたが、ファーの街周辺には自生していなかったはずだ。ということは、かなり遠くまで来ているのだろうか。

 外を眺めながら、馬車は進んでいった──。


 ******


 移り変わっていた景色が止まる。馬車が停止したようだ。

「降りてください。外で試験内容をお話します」

 前に降りた冒険者Aに続き、外へ出た。外は丁度、移り木が密集している森の中だった。赤、青、黄、紫、白とカラフルな花はとても美しい。花の形を残したままポーションに出来ないだろうか。染み出た色は違うが、毒は同じ種類。いいじゃないか。


「試験内容を発表します。混沌大熊(キメラ・ミドヴェージ)を討伐して貰います。討伐証明部位は頭部です」

「手段は、問いません。が、他の冒険者を襲って奪う。闇商人から購入した物を持ってくるのは、禁止とします」

「一人につき、一首。パーティーを組む予定の者達は、連携していただいて構いません。しかし、試験の突破には人数分必要になりますので、ご了承下さい」

「これから解散となりますが、日没前までにはここに戻ってきて下さい。戻ってこなければ、評価に影響しますので」

「試験期間は五日間です。それを超えると失格となります。何か問題が起こった時は報告して下さい」

「それでは、解散」


 日の入り前。今は十二時なので、あと六時間程か。

 混沌大熊(キメラ・ミドヴェージ)はギルドの図鑑で読んだことがある。大きな熊の姿をしており、そこに他の動物の部位がくっついた魔獣だ。体の大きさに対して、動きが素早いらしい。

 適当な方向に見当を付けて、色とりどりの森の中を進んでいった。


 ******


 三十分ほど歩いた所で、タイショーに声を掛ける。相変わらず姿は見えないが、大体どこに居るか分かるようになった。"大体"だが。

「タイショー、頼むぞ」

 ──キュッ!

 前方の茂みに切れ込みが出来た。

「キレイな場所だねっ!」

「本当だな」

 歩きながら移り木の花を、花弁ごとポーチに収納していく。色は違うが、移り木の花は色が違っていても同名扱いらしく、一枠で済むのは嬉しい。

「これが全部、毒物になるのですか」

「…茨に棘あり、だな」

「茨?全然ちがう植物じゃない?」

「ああ、いや。俺の世界のことわざ…、戒めだな。それだよ」

「ふむ、どういう意味ですか?」

「薔薇って綺麗な花だろ?でもトゲがあるから触ると怪我をする。この世界でも、似たような言葉はないか?」

「詐欺師の甘言、みたいなモノですかな」

「似たような意味だろうな」

 ──キュ

 タイショーが虚空から顔を覗かせた。かなり慣れたが、不意打ちでやられると未だに驚く。

「…ふむ。混沌大熊ではないようですが」

 ──キュッ

「くるよっ!」


 ──キ?

 草むらから飛び出して来たのは、白い毛並みの猿だ。尻尾は長く、黒いお面のような顔をしている。確か、能面白猿、だったか。群で生活しているはずなので、おそらく──。

 ──ウキャキャ!

 ──キーッ!キーッ!

 ──シューッ!

 ──ウキャーッ!キー!

 煩い。

 白猿の後ろから、四匹の白猿が追加で現れた。群は小さいモノでも二十匹。大きな群で百匹を超えるらしい。戦うなら、この程度では済まないだろう。

 コイツらは一度得物を決めると、群が壊滅するまで止まらないという習性がある。また、毒の森に生息出来る程、毒に対して強い。調薬師の得意とする毒は効き目が悪と考え、魔力の剣身を近くの白猿に飛ばした。

 ──ギャッ!

 一匹の強さは大したこと無いな。問題は数だ。

 フードを下ろし、本格的な戦闘に備える。


 ******


 辺り一面に白猿の死体が広がる。毒に強いが、溶解性の毒には強くないようで、体がズルズルに溶けている。この種は、肝臓が強かった、ということだろうか。

 フードを上げ、一息付く。しかし、マスクが取れたことで、血の臭いが鼻を突き抜ける。死臭が酷いな。


 ──キューッ!

 タイショーの鳴き声が辺りに響く。これは警戒だろうか。

「何か来ますぞ!」

「ねぇ、あれって」

 ──グルアアアアアアッ!

 飛び出して来たのは、大きな黒い塊だ。口には白い物体を銜えており、右脚にも同じ物体を握り締めている。嘴があり、爪は鋭く尖っていて、特徴が混沌大熊と合致する。

 どうやら、血の臭いで誘き寄せてしまったようである。だが、向こうから出向いてくれるとは、ラッキーだな。


「ふむ、コイツは骨がありそうじゃな」

「あと二頭だねっ!」

「まだ倒してないぞ」

 ──キュウッ!


 ──グルアアアアアアアアアアッ!

 大熊が白猿の死体を踏み潰しながら、突進してきた。

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