XXI 貢献度稼ぎ
『陽気な猫耳亭』と大きな看板を提げている店の前に来た。外観からは猫耳感が全く無いが。猫系獣人でも居るのだろうか。
扉を引き、店内へ入る。
店内は広々としており、壁が全体的に暖色に揃えられている。ここはロビーだろうか。
受付らしき場所があるので、そこへ行く。
「いらっしゃいませ。ご宿泊ですか?」
受付に立っていたのは、猫耳の…。猫耳のカチューシャを付けた女だ。獣人族には基本的には無い、人族特有の耳がある。要するに耳が四つある状態だ。コスプレだろうか。
「どうかされましたか?…あっ、このカチューシャですか?」
「ええ、猫耳亭と言う名前なので、てっきり…」
「ウチには猫系獣人は居ますが、数が少ないモノですから。これで…」
それでは代わりにはならないと思うが。しかし、この街には、猫系獣人族が居るのか。俺はこの街に来てから通常の人族しか見てない。てっきり、この国が人族至上主義で、他人族を迫害しているのだと思っていたが、居る所には居るようだ。
「いえ、似合っていると思いますよ?」
「あ、ありがとうごさいます…」
女は顔を赤らめて下を向く。それよりも部屋を取りたいのだが。
「ごほん。それでは改めてまして…、ご宿泊ですか?」
「はい。四人部屋があると聞きまして」
「ありますが、四人部屋ですか?」
「はい」
「それでは一日一人40ノーブル、四人部屋なので160ノーブルです」
「ユールでも良いですか?」
「はい、大丈夫です。えっと…80ユールですね」
受付の女は、手で折って数えている。ノーブルはユールと違って、ポーチの枠を取る。しかも、銅貨と銀貨が別々だ。余り溜め込みたくない。ギルドの支払いはノーブルらしいので、次の日からはノーブルを消費していけばいい。
「これが鍵です。この数字と同じ部屋がお客様の部屋です」
「そうですか。ありがとうごさいます」
「あ、それと。食事代やお湯は別料金ですので」
「分かりました」
宛がわれた部屋に入り、ベッドに腰掛ける。ちゃんと四人分あるな。
──キュ
頬を膨らませたタイショーが姿を現す。
魔物呼びは相当嫌なことだったようで、尻尾を世話しなく動かしている。
説得し、機嫌を直してもらうのに小一時間掛かった。
落ち着いた所で、今後の予定を話し合うことにした。
「ヤナギ、頼む」
「了解しました」
声を掛けると、ヤナギは微量な魔力を放出した。どうやっているのかよく分からないが、音を遮断しているらしく、盗み聞き防止の為に発動してもらった。部屋はざっと調べたが、怪しい魔法陣や魔術の痕跡は感じられなかった。俺が調べてわかるのなら、既にタイショー達が気付いていると思うのだが。
「さて、これからの行動を相談したいと思う」
「はーいっ!」
「さて、この国について。どう思う?」
「人種以外見掛けませんでしたな。差別でしょうか」
「でも猫系獣人種は居るって言ってたねー」
「俺達は圧倒的に情報が足りない。逆に情報を得られれば他人より、先手先手を打つことができる。人なり、書庫なり、手段は色々ある」
「ふむ?これからは、現地人と友好的に接する、ということですか」
「そういうことだ。人は選ぶがな」
図書館でもあれば良かったが、この国では確認出来ない。台地には良くあったのだが。他国との関係を聞く限り、技術より力という国柄なのだろう。名を上げれば当然目立つが、より多くの情報が入ってくるだろう。
「ランクは上げてくってことー?」
「まあ、そうだ。力を示し、人脈を築くことで争いを未然に防げる…可能性が出てくる。そんな奴は当然怪しまれるだろうがな」
「儂はこの国は台地に飛び付いてくると思いますな。この大地にとっては未知の土地じゃからの。それだけ魅力的であろうな」
地球の歴史も、資源や土地、宗教が理由で何度も戦争が起きている。異世界でも人間特有の欲望は健在だろう。台地が植民地になるという最悪の展開は防ぎたい。
──キュウ
「ん?どうした?タイショー」
「空腹だ、と申しております」
「食堂に行くか?いや、タイショーが食うもんが無いな」
「今日はここでいいんじゃない?昨日の残りがあったはずだし」
毒を盛られる…ということは流石に無いだろうが。この大地特有の毒を研究しておきたいな。調薬師としては、対処出来ない毒があるのは名折れだ。
今日は野営で作った残りで済ませた。
******
あれから二週間経過した。しかし、余り進展は無く、日々魔物討伐の依頼をこなして過ごしていた。今日も魔物討伐の依頼を受ける予定だ。
依頼を探そうとして、踏み出した所で受付嬢に呼び止められた。
「…何か用です?」
「イブキさん達にお知らせかあります。Cランク昇格試験が受けられますが、どうしますか?」
Cランク昇格試験…。ソレを待っていたが、流石に早すぎないだろうか。二週間でそれだけの貢献度を獲得出来たとは考え難い。
「私達、ギルドに入って二週間ですよ?早すぎませんか?」
「イブキさん。昨日だけでもアナタ達は十六件もの依頼を受けました。そして、全てをその日の内に完了。はっきり言って異常です」
確かに受けられる依頼は全て受けた。だが、それにはワケがある。前日に、討伐依頼の魔物を狩り尽くしてポーチに仕舞っていたのだ。依頼を受けて、外で討伐証明部位を切り取って提出する。討伐依頼に無い魔物も討伐してしまったので、ファー街の周辺環境は激変しただろう。
それによって引き起こされる問題があるが、そこまで責任は負えない。
「あー、そうですね。じゃあ受けます」
「じゃあ、って…。…まあ良いです。試験を手配しておくので、数日分の野営等の準備をしておいて下さい」
「今からですか?」
「Cランク昇格試験は合同で行います。一番近いのは、明後日です」
「明後日、ですか。分かりました」
目的は達成したので、今日と明日は休みにしようか。と提案したが、 三人とも部屋から出ていかない。
「別に好きにしていいんだぞ?」
「やることが無いですからな」
「私も。べつに観光しに来たわけじゃないから」
──キュ
ヤナギは刀の手入れをしており、カエデは俺の作業をじっと見ている。タイショーはベッドに身を投げ出し、寝ている。
確かに、休日だからと言ってこの街で行きたい場所なんて、俺も無い。好きにやらせておいてもいいだろう。
消費したポーションを補充する作業を続けた。
******
二日後、Cランク昇格試験日だ。試験には他の冒険者も同行するようなので、ポーションの使用や魔道具の使用は出来るだけ避けたい。この街を歩いていて、ポーションや魔道具は殆ど見掛けなかった。あったとしても、高価なモノしか無い。怪我をしたら教会へ行くのが普通のようだ。
ギルドの窓口へ行く。特別な準備はしていないが、ダミーの荷物にテントや食糧を詰めてきた。足りない物はこっそりポーチを使うことにする。
「あっ、イブキさん達!お待ちしてました。私に着いてきて下さい」
いつもの受付嬢が他の冒険者の相手を終わらせたようで、声を掛けてきた。その窓口には直ぐ様別の受付嬢が入る。こういう動きは良くあることなのだろうか。
受付嬢に着いていく。どうやら二階に行くようで、目の前を短めなスカートがチラチラしている。気が散るな。
「あの、どこに行くんですか?」
「会議室です。今日は試験の待合室として使われています」
「へぇ、そうなんですか。今回の試験は何人位で行うんですか?」
「今回の試験はイブキさん達を抜いて、四人です」
「ルールとかって聞いてもいいですか?」
「着きました。私が話せることは少ないです。ルールに関しては、中の職員に尋ねてください」
受付嬢がドアを開けて、中へ入るよう急かしている。一度に質問をし過ぎただろうか。
中には、冒険者らしき人が一人と、男女の職員が二人居た。ということは後三人か。
「イブキ、ヤナギ、カエデ、ですね。お掛けになって、少々お待ち下さい」
女の職員が機械的に言う。言われた通りに、椅子に腰掛けて待つことにした。




