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この世界の台地で  作者: あの日の僕ら
第三章 見知らぬ世界へ
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XX 資料室

「こちら、お返しします。現在Dランクからのスタートとなります。何かご質問はありますか?」


 銀色のタグが戻って来た。台地のモノとそっくりだが、うっすらと魔方陣が刻まれており、感じる雰囲気は全然違う。タグの真ん中には、大きく『D』と書かれていた。

 色々質問したいことはあるな。


「魔物や迷宮を記録した書物とかってありますかね?」

「それでしたら二階の資料室にありますが、Dランクでは閲覧できる範囲が狭まります。これはランクを上げることで、解消される問題です」

「へぇ、あとは…。従魔について聞きたいのですが」

「従魔、ですか?その魔物の脅威度にもよりますが、こちらで首輪を発行するので、連れてきて下さい」

「その従魔については、ギルドや国は干渉しませんよね?例えば取り上げたりとか」

「そのようなことは許されていません。安心してください」

「そうですか。それは良かった」

「すいません。少しお聞きしたいのですが」

「…?なんです?」

「魔物を、従えているのですか?」

「いえ、道で弱っている所を拾ったのです。そしたらなつきまして」

「ふむ、そういうことが…。無くは無いですが…」

「あー、もしもし?資料室って所に行きたいのですが」

「あっ、すいません。二階に上がってから右折して、左手です。扉に書かれているので、直ぐに気付くと思います」

 従魔の件はタイショーの為だ。もっとも、見た目は大蛇だが本質は精霊なので、魔物なんかでは無いのだが。本人もそこに文句があるらしく、さっきから背中をつついてくる。ずっと姿を消しているのも大変だと思って、提案したのだが、それからずっと不機嫌だ。後で甘い果実でも献上すれば、機嫌を直してくれるだろうか。


 階段を上がり、資料室に行く。右に行って、左側を見ながら暫く歩くと、『資料室』と書かれた扉を見つけた。ドアノブを手前に引き、中に入る。

 中は左右に棚があり、ぎっしりと本が並べられているようだ。中央には机と椅子があり、誰かが座っていた。どうやら先客が居たようだ。


「うん?」

 先客は扉を開けた音に反応したようで、こちらに顔を向けた。橙色の長髪をした女だ。装備は幾つもの修復跡が見てとれる。


「君達、見ない顔だね。他の街の冒険者かい?」

「いえ、新入りです。Dランクです」

「ふむ?それなりに装備は整っているようだが…。訳アリか?いや、詳しくは聞かないよ、冒険者にはそういう輩は一定数居るからね」


 詳しい聞かれないのは有り難いな。設定も甘々だ。他人に、大衆に話すのは、もっと煮詰めてからにしたい。

「ああ、自己紹介がまだだったな。私はシャロン。呼び捨てで構わないぞ」

「はい、先輩」

 俺達も自己紹介をする。彼女は、俺が名前で呼ばなかったことに不満があるようだが、初対面が呼び捨てというのもどうかと思う。


「君達は、資料室に来たと言うことは調べものをしたいのだろう?私がここの使い方を教えてあげよう」

「…ありがとうごさいます」

 資料室の使い方とは何だろうか。普通に本を取り出して読むのではいけないのだろうか。分からないので、ここは従っておこう。


「この本、見てくれ」

 シャロンが近くの本棚から一冊の本を取り出す。革張りの本だ。しかし、ただの本ではなく、表面にうっすらと魔方陣が刻まれている。

「魔方陣?」

「そう。魔方陣だ。これはこのままでは開かないんだ」

 本を手渡される。本を開こうとするが、びくともしない。ポーションを総動員して、全力を掛ければ開くだろうか。こんな所ですることでは無いが。

「これはね。こう使うんだ」

 シャロンは自分の胸からタグを取り出す。その時に大きな胸の肌色がちらりと見える。別に興味は無いが、精神は男なので、こういったとき目を逸らした方が良いのだろうか。

 どうでもいいことを考えていると、シャロンはタグを移動させ、魔方陣に近付けた。すると、魔方陣が淡く輝き、本が開いた。

「このタグで解除出来るんだ。君達はDランクだったな。Dランクはそこからそこまでだな」

「へぇ、凄いですね」

「それと、本の持ち出しは禁止だ。魔方陣に細工がしてあるそうだぞ?」


 ポーチがあるが、魔方陣の文字が分からない。する気は無いが、持ち出すのはよした方が良いな。

「では、私は行く。何かあったら頼ってくれ」

「分かりました。ありがとうごさいます」

 シャロンが扉を開けて、出ていく。さて、調べものをしようか。


 ******


 資料室にて、魔物や植物について調べることが出来た。しかし、ダンジョンは殆どがDランクでは閲覧出来なく、調べられたダンジョンも浅い簡単なモノだけだった。恐らく、初心者が高難易度ダンジョンに行かないようにする配慮だと思うが。

 Dランク以上の書物は、大体がダンジョンだ。魔物はどこでも遭遇する可能があるので、殆どがDランクでも閲覧出来るのだろう。

 ただ、地図は大雑把なモノしか無く、正確な地図はランクを上げなければ見れない。この情報は欲しい。


 という訳でこれからの小目標はランクを上げること、だ。ランクを上げる試験を受けるには、依頼(クエスト)で高評価を一定数得ると、知らせが入る仕組み…らしい。依頼板を覗くと、良さそうな依頼が幾つかあった。

 受けられない依頼もあったので覗くと、討伐する魔物の名前は書かれているが、場所が書かれていなかった。これも初心者が向かわないようにする配慮だろうか。


 依頼を受けるのは明日にして、ギルドの外に出ることにする。宿を探す為だ。流石に街まで来て野営はしたくない。どこにどんな宿があるか分からないが。足で探すしかないかな。

「おっ、さっきの子達じゃないか。調べものは済んだのかい?」

 振り替えると、資料室で会った女が居た。確かシャロン、だったか。

「丁度君達の話をしていてね。ほらっ、私の話は本当だったろ?」

「あの時お前嘘付いたろ。俺は忘れてねえからな」

「噂の彼等にもう唾付けてたなんてな。次の獲物はコイツか?」

 体格の良い男と軽薄そうな笑みを浮かべた男がシャロンと話している。仲が良さそうだが、同じパーティーとかだろうか。

「ちょっと、そんなんじゃないわよ!それにこの子は女の子よ?」

「ほんとかよ?」

「ほんとよ。タグを見せてもらったもの」

「へえー、えらい貧乳だな」

 貧乳なのはキャラクター設定でそうなるように弄ったからだ。はやく宿を探したいのだが。

「アンタ達!ちょっと黙って!」

「なんだよ…」

「迷惑してるじゃない!あっち行きなさい!」

 男二人が奥の方に去っていった。


「ごめんね。あんな奴等で。でも根はいい奴なのよ?」

「いえ、別に気にしてないですよ」

 気にしてないどころか興味も無いのだが。だが、情報源は多いに越したことはない。面倒だが、仲良くしておこうか。それによって利益があるかもしれない。

「うん?どうしたんだい?」

「いえ、何でもないです」

「そうか、それなら良かった」

 話すことが無くなったな。ああ、宿のことを聞いても良いかも知れないな。長く冒険者をやってそうだし、この街にも詳しいだろう。

「あの、先輩。聞きたいことがありまして」

「なんだい?何でも聞いてくれ」

「良い宿、知らないですか?四人一部屋で泊まれるような」

「宿、宿か~。予算は?」

「そうですね…。一日50ユールくらいですかね」

「それなら…、『陽気な猫耳亭』なんてどうだい?あそこは広いよ?」

「猫耳亭、ですか?」

「ああ、ここからなら左だ。大通りだから直ぐに分かると思うよ」

「へえ、ありがとうごさいます。先輩」

「ふふん。分からないことはバンバン聞いてくれ」

 シャロンはそう言うと、大きく胸を張った。

 ──おーい!ポンコツー!来いよー!

 酒場の方から声が聞こえた。先程の男が叫んでいるようだ。

「ぐぅ、あんにゃろ~」

「…じゃあ私達、行きますね。では」

「あっ、じゃあね!」

 ──まだかよポンコツー!

 シャロンは酒場へと突撃して行った。

 さて、紹介された宿へ行こうか。

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