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この世界の台地で  作者: あの日の僕ら
第二章 この世界で
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II 樹海

 ああ、眠い───。

 心地よい日差しを受け、草の薫りが鼻一杯に広がっている。


 飲み会という文化って何だろうか、飲み会じゃなくて接待という名前で良いと思うんだが。

 幸い今日は休日だ。昼まで寝て───

 は?草の薫り?


 急に意識が覚醒していくのが分かる。

 怠い身体を持ち上げ、関節がパキパキと音を鳴らす。

 なんだ、ここは。誘拐でもされたか?

 見覚えの無い、木々が鬱蒼としている場所。

 僅かな陽光が身体に当たっている。

 太陽の位置からして真昼頃、だろうか。


「ガッ─、───」


 声が出ない。喉はカラカラに乾燥しているようだ。

 寝ている時に口呼吸でもしていたのだろうか。

 水が飲みたい。今すぐにでも。


 辺りを見渡すが水の流れる音どころか匂いもしない。

 だが水の変わりに謎木の実を見つけた。

 その木の実は紫と黄色のボーダー模様でキウイフルーツ位の大きさをしていた。木の実というかフルーツだろうが、見るからに毒々しい見た目をしている。


 夢…だろうか?このフルーツが現実に存在する訳が無い。

 明晰夢という現象なのか?

 身体をつねるが、夢から覚めるなんてことは無くただただ痛みを伝えてくるだけだ。

 そこで気付いた、髪が伸びているのだ。これは何ヵ月も寝ていてその間に伸びた───的なことだろうか。

 心なしか身体が怠く感じてきた。


 夢ではない…かもしれない。ならばここはどこなのだろうか。

 このフルーツを食べればはっきりするだろうが…、日本の神話に死者の世界の食べ物を食べると現世に戻れなくなる─、という話をどこかで聞いたことがある。恐怖系テレビ番組みたいだな。


 というかこのフルーツは先日サービス終了したゲーム、

【 skillful world online 】で入手出来るアイテムに酷似している。効果は毒、酩酊状態になり、MPを回復させる効果がある。


 ハハッ、俺ってばゲーム一つに未練がありすぎるだろ。

 だが夢…にしてはリアルすぎる。そして喉の渇き。身体の節々の痛み。

 このまま突っ立ってても埒があかない。

 実験として"ポーチ"を開く。

「───!」


 目の前にアイテム欄がずらっと並ぶ。

 本当に出やがった。一番効果の低い治癒用ポーションをとりだし蓋を取る。

 …飲んで大丈夫なのだろうか。

 口を付けると口一杯に青臭さが広がる。うわ、キツっ。


「あー、あー、テストテスト」

 声が出た。それで確信に変わった。

 俺の声では無い。出た声は俺の声よりずっと高音で、変声前だったらこんな声をしてたかなー、という声だ。


「ステータス」

 声を出した直後、新しい画面が広がりポーチ画面を塗り潰していく。


 name:イブキ


 ああ、これは俺の生きてきた世界では無い───。

 どういう訳か、不思議と、すんなり理解出来た。


 ******


 装備の確認を済ませ。獣道を歩き出す。

 この毒々しい見た目のフルーツはルカラ王国の東端に存在する樹海に自生している。この樹海は"植物の国"とか"熱帯雨林"とかプレイヤーには呼ばれていた。樹海の深部に進んで行くと植生がガラリと変わり、人をも丸飲みにしてしまう食虫植物や高速で動きまわる寄生植物が闊歩している。

 採集出来る素材には興味があるが、正直今の状況でそんな所に行きたくない。なので逆方向に向かっている。外側に近いほど出会す魔獣は弱くなる。


 ──ぐるるるるる…

「コイツは…ホーンウルフ?なんでこんな所に」

 ホーンウルフは角で戦う魔狼である。角の長さで自分の強さをアピールし、強いオスが何頭ものメスを従えハーレムを築く。

【 skillful 】の世界ではメジャーな魔獣で広範囲に生息していた。しかし、生息区域は草原でこんな森の奥で出会すような魔獣ではないのだ。


 ──ぐるる、がうっ

「おっと、そんな場合じゃねぇな」

 ホーンウルフが突進してきた。この突進は中々素早く初心者では容易に死亡判定(ゲームオーバー)となってしまう。

 防具が強いとはいえ余り当たりたくない。少しだけ緊張してきたな。

 対峙していてふと、違和感を覚える。突進が全く速くないのだ。

 ゲーム内の速度と比べて五割出てない位だ。


 そもそもホーンウルフが草原で暮らしているのは助走を十分に取るためだ。森の中では木々が邪魔で満足に動けない、また攻撃に使う角が木の幹にめり込んでしまうのを避ける為に遮る物が無い草原で暮らすのだ。


 おかしい。はぐれ狼だとしても森には来ないはずである。見たところ手負いでもないようだ。今考えていてもしょうがないか。

 ホーンウルフの突進を余裕を持って避け、腰に提げていた武器を取り出す。


 この武器の見た目は完璧に黄金色の拳銃だった。最も中身の構造は違い、内蔵された魔方陣が水と風を生み中の液体を飛ばす。簡単に言うと水鉄砲である。

 もっとも、飛ばすのは調合した融解毒で下手な拳銃よりよっぽど魔獣に効果的なのだが。


 木の幹に角を突き付けたホーンウルフがもがいている。動かない的に照準を向け引き金を引いた。

 ──ぐるぅあ!ぐるぅぐるぅ!!


 毒液のかかった脇腹から紫煙が上がる。ホーンウルフは角が刺さったまま足掻いていたが、皮膚が溶け地が吹き出し、やがて静かになり動かなくなった。


 殺し。魔獣とは言え命は命。ソレを奪ってしまった。

 この世界がゲームと同じ世界なら今回運良く逃げ出せても、また直ぐに次の機会がやってくるだろう。

 ゲームには盗賊もいた。今すぐは実行出来ないかもしれないが、覚悟はしておくべきだろう。


 ホーンウルフの死体を見つめる。ゲームでは討伐すると光の粒子となってポーチに素材が入っていたが、いつまでたっても光の粒子は現れない。

 ゲームのシステムとは違い現実となった弊害、だろうか。

 解体なんて出来ないので死体を直接ポーチに入れる。

 ポーチには課金すれば容量制限を解除することが出来る。勿論俺は最大まで解除している、のでほぼ無限に収納出来るようになっている。


 戦闘を終え、先を急ぐ。この速度だと野宿は不可避か。

 ログアウト出来ないなら野営するのに魔獣避けのお香を使う必要がある。このお香は安くはない、それに補充も出来るか分からない。

 野営はなるべくしたくないが。この先には街が一切無かったはずだ。

 ルカラ王国には活動拠点がある、そこを当面の目標にしようか。


 ******


 唐突に目の前に夕焼け空が広がる。ここが森の端、無事に森を抜けたようだ。

 草原と夕日はとても絵になる。ちなみにこの世界も東から日が昇り西へ沈む。元の世界より若干赤っぽい色味だ。


 そこで気付いた。遠くの方にうっすらと外壁らしきモノが見える。

 こんな場所に街なんて無かったはずである。少なくともサービス終了の時には無かった。ではあれは何だろうか?魔獣の作り出した幻影という線もあるが、そんな魔獣はこんな場所に来るわけない。


 サービス終了から時間が経過している可能性がある、か。

 気付いた時にはこの世界に居たが、身体の節々が痛んでいた。

 身体に異常は無いがどうなっているのだろうか。

「む、身体を気にし出したら尿意が、やべぇやべぇ」


 ******


 ふぅ、どうにかなったな。この身体が今の俺の身体だ。では前の身体はどうしたのだろうか?

 …あまり考えるのはやめよう。考えても仕様がないことだ。


 魔獣避けのお香を焚き、野営セットを取り出す。

 野営セットはその中でログアウトすると次のログイン時に体力が回復している、という道具である。ゲーム内なら、だが。

 現実の世界となればただのテントである。非常に薄っぺらい。


 今思えばどちらが先だったのだろうか。ゲームが現実に、元々異世界だった。どちらが先か。

 他のプレイヤーが来ていないだろうか。来ていたとしたらきっと誰かが考察していてくれるだろう。ゲームでは世界観を考察するプレイヤーが一定数居た。俺も考察サイトを覗いたことがある。その一人に実際にゲーム内で遭遇したら言動が完璧にヤバい奴だったが。全員がそうでは無いと思いたい。


 ポーチから携帯食を取り出し頬張る。これはクランメンバーの一人が作った物だが、焼いた肉っぽい風味がしてかなり旨い。ゲーム内では味なんてしなかったから新鮮に感じる。

 飲み物変わりにポーションを飲む。これは体力回復用のポーションだ。魔獣が存在する世界なのだ、いざという時に逃げる体力がなければ話にならない。材料費は安くは無いが命には変えられない。


 保険でこのポーションも飲んでおくか。ポーチからあるポーションを取り出す。このポーションは俺が産み出したポーションで"レシピ"にも載っていない。効果は幾らダメージを受けても瞬時に回復すし、それが一定のダメージを受けるか、ある程度の時間が経過するまで継続する。他にも追加効果があるがこれが一番大きな効果だ。破格の効果だが相応の素材を使っているので反動などは無い。その代わり材料がとても貴重で入手すること自体困難で、量産が出来ない物だ。


 このポーションの名称は"星の雫"という。オリジナルのレシピは自分で名称を付けることが出来るが、一般に広めた場合、大多数の認識されている名称が優先されてしまう。これを持っているのは俺だけなので、ずっとこの名称だ。


 凝った瓶の中にピンク色の液体。それと飴玉っぽい丸薬が底に沈んでいる。丸薬が血肉を消費して怪我を治す効果。液体がそのデメリットを肩代わり出来る効果がある。

 瓶の先を折り、液体を飲む。そして口の中の丸薬を噛み砕く。

 この順番で正しい効果が発揮される。


 …何も変わった感じはしないな。

 まあこれで不意を突かれても致命傷にはならないだろう。テントに入り、ポーチから分厚いローブを取り出しそれにくるまる。


 見知った別の世界での一日はこうして過ぎていった───。

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