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この世界の台地で  作者: あの日の僕ら
第三章 見知らぬ世界へ
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XIX Eランク免除試験

「では、ランクについての説明をしますね。宜しいですか?」

「ええ、お願いします」

 台地のギルドでは星、という名前だった。星無し、一つ星、二つ星、三つ星、と上がっていくに連れて、受けられる依頼が増えていく。俺は最大の三つ星で、殆どのプレイヤーは時間を掛ければやがて三つ星になる。それは復活(リスポーン)があったからだ。今はそんな真似は出来ないが。


「ランクは下から、E、D、C、B、A、そしてS、です」

「あなた方は現在、最低ランクのEです」

「このランクを上げる際には試験が必要になります」

「この制度は戦闘経験が未熟な者が、危険度が高い魔獣や迷宮に殺されないようにする為の制度です」

「Eランクの場合は、ギルドの職員と戦い、多少の戦闘が出来ることを示せればDランクへの昇格試験は免除出来る制度があります」

「Eランク免除試験をお受けになりますか?」


 Eランクを免除するにはギルドの職員と戦闘しなければならない。必要以上に目立つということは無いだろう。一ランクだけだ。

「この免除試験って、皆受けているんですかね?」

「ええ、ほぼ全ての人が受けていますね」

「では、お願いします」

「分かりました。少々お待ち下さい」

 受付嬢が立ち上がり、書類を奥に持っていった。


「準備が整いました。修練場へ行きますので着いてきて下さい」

 職員がカウンターから出て来た。既に窓口には受付嬢が戻って来ており、別の冒険者の案内をしている。

「あちらの方々と一緒に受けていただきますが、宜しいですか?」

 書類を持った男性の職員が指す方向には、別の職員に連れられた、あの少年達が居た。彼らも試験を受けるようだ。

「構わないです」

「そうですか。ではこちらへ」


 ******


 目の前を歩く職員の足が止まる。周りを見渡してみると、歩いてきた方向に他の冒険者同士が戦っている。持っている剣は、刃が潰されているようで、鈍い輝きをしている。

 結構広いスペースだな。ここが修練場と呼ばれている場所のようだ。


 奥から革鎧を着た男が歩いてくる。無精髭が生えており、だらし無い印象を与えてくるが、目だけは違い、鋭い目付きをしている。

「初めまして。俺は教官のジュネスだ。本日のEランク免除試験、試験官を担当させて頂く。宜しくな」


 渋い声だ。恐らく元は歴戦の冒険者で、怪我か何かで引退した所をギルドに雇われた…って所だろうか。今は後進を育てているのかもしれない。全部妄想だが。

「おいお前ら、返事は?」

「はい」


 返事は?と言われて返事をしたが、声を出したのは俺だけのようだ。少年達を見ると、この職員の年期の入った凄味にやられたのか、硬直して動かない。このような歴戦の冒険者は、一つの街に一人か二人は居ると思うんだが。


「む?まあいい。これからルールを説明する。よく聞けよ」

「はい」

「むう。…俺と一対一で模擬戦闘をしてもらう。一太刀でも俺に当てれば合格だ。魔術は使っても構わないぞ。制限時間は無いが、見込みが無い奴は途中で終わらせるからな」


「…武器種は問わない。ただし、此方で用意した物を使ってももらう。安心しろ。刃は潰してある。それに、怪我をしても神官の所に連れていってやるから大丈夫だ」


「ルールはそれだけ。さて、誰からやる?」

 誰も声を上げないが、こういうのは立候補した方が良いのだろうか。

「ふむ。ではそうだな。そこのチビ達から来い」

「うえっ!?」

「じゃあ今声出した奴だ。そこのお前だよ」

「え…っと。はい」

「準備を整えろ。武器はそこに立て掛けてある。壊したら弁償だから、乱暴に扱うなよ?」


 少年が準備を整えたようで職員と向かい合う。暗い茶髪の少年は、槍を手にしている。対して職員は武骨な直剣だ。

「良いぞ。掛かってこい」

「ぅ…」

 少年は弱気な声とは裏腹に、ジリジリと間合いを詰めていく。そして、一気に職員へ飛び掛かった。

「ふんっ!」

 職員は直剣を一回転させ、槍を絡めとってしまった。

「拾え、まだやれるだろう?」


 少年達は職員に、徹底的に叩きのめされた。

 茶髪の少年と同じ様に、剣と盾を選択した赤髪の少年と弓矢を選択した青髪の少女も、試験を突破出来なかったようだ。

「お前らは弱っちいが、素質はある。後でここに来な。俺が鍛えてやる」

「「「ハイっ、教官!」」」

 いつの間にか、絆を強めていたようだ。まあ、彼らも鍛えれば結構強くなりそうだな。

「次はお前らだ。誰から来るんだ?」


「誰から行く?」

「私が行くよ」

「儂は何時でもいいですぞ」

「じゃあ、カエデ、ヤナギ、俺の順番で」

 カエデが武器を取りに行く。短剣を使っているのを見たことあるが、短剣だろうか。


「よし、ルールは覚えているな?じゃあ来い」

「…」

 カエデは短剣を選んだようだ。魔法は余り人前で使わないように口裏を合わせているから、心配だな。本来はバリバリの後衛だし。

「ぬっ!?」

 カエデは直剣の腹に向けて、連撃を加える。一打一打が重いようで、直剣がみるみる下がっていく。そして、手首に刃をそっと添えた。

「カエデ、と言ったか?合格だ」


「なんか強くなってないか?」

「そうですかの?元々ああでしたが」

「…そうか?」

「次は儂じゃな」

 ヤナギが武器を取りに行った。ざっと見たところ刀は無いようだが。他の剣でも取り回し大丈夫はなのだろうか。

「わー、すっごい…」

「あのお姉さん、凄い強いね!」

「おれもあんな剣さばきしたいぜ!」

 少年達がキラキラした目でカエデを見ている。だが、彼女は精霊なので真似は出来ないと思うが。


 ヤナギと職員が向かい合う。ヤナギが選んだのは細い長剣だ。直立し、それを居合の構えのようにして立っている。

「いいぞ。掛かってこ…」

 ──ヒュンッ!

「終わり、ですな」

 始まった瞬間、ヤナギの長剣が職員の首筋に添えられていた。これで魔法も使っていないのだから、呆れる。

「ご、合格だ…」


「終わりました、若」

「ああ、ご苦労さん。準備してくる」

 武器を小さな片手剣で良いか。振り返ると少年達が口をあんぐりと開けて、アホ面を晒していた。職員は目をパチパチしながら、直立している。ヤナギの剣筋が見えていなかったようだ。…まあ俺も分からなかったのだが。


「…教官?」

「…あ、ああ。試験だな。始めるぞ」

 職員の目の前に行っても反応がなかったので、声を掛けた。試験は無効でもう一回とかのたまう人物では無いようで、良かった。

 片手剣を左手に提げ、右手を前に出し、職員へ近付く。俺は剣術が上手く無い。試験に落とされるのは嫌なので、混乱している隙に勝負を決めされて貰おう。

 職員は警戒しているのか、ジリジリと後ろに下がる。が、俺の方が早い為、差はどんどん縮まっていく。


「はぁっ!」

 剣を構えない俺に警戒して、攻撃して来なかったようだが、右手が職員の直剣に届きそうになった瞬間、直剣で右手を切りつけた。

 刃は無くとも、鉄だ。そんな物で斬られたら、切断はされなくとも、骨折は容易にするだろう。だが、そんな柔に作ったスーツでは無い。直剣を手で掴み、引き寄せる。そして、職員の身体に片手剣を押し当てる。

「…」

「教官?」

「…っ。合格だ…」


「お疲れ様です。若」

「イブキ、お疲れ様っ!」

「いや、時間掛かっちゃうね」

「若。失礼を承知で聞きますが、剣術は習わないのですか?」

「うーん。俺は剣は上手くならない気がするんだよね」

「そうですか。もし、ご入り用なら儂にお申し付けください」

「うん、その時は頼むよ」


「…合格者は窓口でタグを更新してくれ。不合格者はそのままだ。より上のランクへ行けるように、努力してくれ」

 この場所へ連れてこられたのと同じ職員の後ろを着いていき、窓口へ戻った。別の窓口へと案内される。

「…こちらで少々お待ち下さいませ」

 なんだか周りがザワザワしている気がする。別に試験で不味いことなんてしていないと思うが。


「あの子供達は強くなりそうだ。今から唾付けとくか?赤髪の奴が良さそうだ」

「それよりもあの爺さんだろ。あの鬼教官が瞬殺だとよ。断然、即戦力が大事だろう」

「バカ野郎。いくら教官でも、たかがEランク免除試験で本気だす訳ねぇだろ?」

「俺はあの巨乳姉ちゃんが良いと思うんだが」

「アンタ、結局下心しか無いじゃない」

「あの貧乳はよく分からなかったな」

「おい、俺は見てねぇんだ。教えてくれ」

「夕飯奢ってくれたら良いぜ」

「チッ、しゃあねぇな」


 実力を測って、引き抜きをする為だろうか。必要以上に仲良くする必要は無いが、冒険者同士でしか知り得ない情報があるかもしれない。

 情報交換目当てで付き合って行くのが良いだろうか。

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