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この世界の台地で  作者: あの日の僕ら
第三章 見知らぬ世界へ
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XVIII 本家ギルド

 村の子供に着いていき、籠や魚介類を買い付けることが出来た。

 村長宅に案内してくれた村民、ハクザンから背負子や籠、木箱、縄を。案内を依頼した兄妹の父親や漁師仲間から、魚介類を。

 驚いたことに、台地で使用されている通貨の"ユール"が使えた。この通貨は国が発行している訳では無く、特殊なダンジョンでドロップするので、台地以外にもこのダンジョンが存在しているのだろう。通貨の全体量が増えすぎると極端にドロップ率が落ちるので、非常に安定した通貨といえる。ここには国が発行している通貨もあるらしいが、大国でもなければ相場が安定しないらしい。

 交渉した結果、全部で銀貨一枚以内に押さえられた。この世界の相場を知っていなければ取引なんて出来ないだろうが、曲なりにも自分の店を持つ商人だ。変な金額で取引してしまえば、当然目立つ。今はまだ台地のことは隠していたい。


 宛がわれた空き家の外で火を焚く。周囲は日が陰り始めており、あと一、二時間で闇が落ちるだろう。

「明日はファーの街に向かうのですか?」

「ああ、この大地にもギルドがあるらしいからな。そこで力を示せば、図鑑や地図の閲覧を許可されるらしい。それを小目標にしよう」

「ここのギルドってどんな感じなのかなー?」

「台地より歴史が古いんだってな。まあ、幸い時間はある。気軽にやればいいさ」

 ──キュウ

「ああ、タイショー。飯か、ほらっ」

 ──キュキュキュッ!

「よし、出来ましたぞ」

 辺境の村での夜は更けていった。


 ******


 早朝、何も言わずに出ていくのもどうかと思うので、村長に声を掛ける。村民は既に起床しており、船出の準備をしているので、彼に会いに行っても迷惑では無いだろう。


「村長さん、居ますか?」

「うん?…なんだ、昨日の。もう行くのか?」

「ええ、早めにギルドへ行きたいので」

「そうか。奴等から聞いたぞ、魚を買ったそうだな」

「そうですが…。何か問題でも?」

「いや、むしろ感謝してぇくらいだ」

「…?感謝、ですか」

「…ああ。実はな、アルベージの商人どもはこの村を下に見ててな、毎回買い叩いて帰っていく。利益なんて出ねぇんだ。正直生活もキツかった」

「私が払った対価は、適正でしたが?」

 今回、銀貨一枚も支払っていない。俺が取引しても利益は微々たるモノであるはずだ。

「それでもだ。オレはこの村で生まれ育って、外に出たことがねぇ。だけどな、オレは(がく)がねぇからよ。少しでも経営を良くする為に、本を取り寄せて(まな)んだんだ」

「…それで?」

「貨幣ってのは腐らねぇ。奴等は搾り取るだけ搾り取る。何も残さない。金はあるだけ困らないんだよ」

「…私は必要だったから彼らと取引しただけです。善意なんて欠片もありませんよ」

 実際、ただの通りすがりの寂れた村だ。怪我をしている村民にも薬なんて売らないし、海獣に困っているという話を聞いても干渉しない。何でもかんでも助けるお人好し、もとい不審人物は記憶に残ってしまう。どこから来たのか調べられれば、最終的には台地にたどり着くだろう。それは避けたい。

「ふん、まあいい。次に村の近くに寄ることがあれば、新鮮な魚でも買い付けてくれよ」

「…機会があれば」


 村を後にし、北西に進む。木々の隙間を暫く歩くと、薄くなっているが街道らしきモノが見えてきた。この道に沿って歩けばファーの街に着くはずだ。

「この道は余り使われていないようですな」

 街道は馬車の車輪跡らしきモノはあるが、草が入り込んでいる。馬車はここまで長らく来ていないのだろう。あの村に来る商人は徒歩なのだろうか。

 魔獣を警戒しながら歩を進めた。


 ******


 遠くに石壁が見えてきた。街道はあれから他の街道と合流し、大きな街道になっている。時たま馬車が通るので、この街は流通の要なのだろう。

 石壁を近くで見ると、表面に魔方陣らしきモノが等間隔に刻印されていることが分かる。台地で流通している紋とは違い、見たこともない紋式だ。紋式は分からないが、効果は『防御力上昇』とか『結界生成』といった所だろうか。


 入り口らしき場所には、人の列が出来ている。馬車と徒歩は別らしく、馬車は七台ほど並んでいるが、人は三人しか並んでいない。基本的に徒歩で来るような場所ではないのだろう。並べば直ぐだ。


「次っ!」

 いかにも兵士といった格好の者が声を張り上げた。前に並んでいた少年達と兵士との会話に聞き耳を立てていたので、大体は理解した。


「身分証は?」

 身分証とはギルドの発行したタグや領主の許可証を持っていると入街税が免除されるという制度、らしい。俺達は当然、そんなものは持っていない。

「持っていないです」

「ふむ、そうか。では入街税として100ノーブルか50ユールだ」

 ノーブルというのはアルベージ帝国で発行されている通貨である、らしい。実物は見たことがないが、ここまで来るのに何回かその名前を聞いていた。ユールよりも価値が低いらしいのでわざわざ両替する必要は無いだろう。

「はい、どうぞ」

「…後ろは連れか?」

「ええ、そうです」

「ふむ、まあいい。入街を許可する」

 案外あっさりとしているな。まあ、面倒な手続きがあったら人の流れが止まってしまうから、必要なことなのだろう。


「おーい!手が空いたならこっちを手伝ってくれ!」

「あ?ちょっと待ってろって」

 後ろで兵士の声が聞こえる。馬車には人とは別に税を掛けているようで、一台に時間が掛かっている。それがこの行列だろう。


 街の中を進む。街は活気があり、大通りに面して店が並んでいる。ざっと見たところ、武器防具の看板が多いようだ。戦争で領土を広げているこの国ならではであろう。

 ギルドは大通りを真っ直ぐ行って、左にあるらしい。そこで登録すればほぼ全ての街で入街税が掛からないというメリットがある。ギルドは独立した組織らしいので、それはどの国でも基本的に変わらない。


 ギルド、と看板に書かれた建物の前に来た。台地では冒険者ギルドや商人ギルド等に別れていたが、ここではそれは無いらしい。そういったのを総括して『ギルド』であるようだ。

 中に入ると綺麗に掃除されており、酒場が併設されていた。受付の形態は台地のと若干違うが、ほぼ同じで、依頼板のようなモノも確認出来る。ギルドという文化が台地に伝わってからこのシステムは変わっていないのだろう。


 受付の方を見ると、先程門で見た少年達を見つけた。田舎から出て来て冒険者に、という感じだろうか。

 少年達が居る受付とは別の受付に行く、受付窓口には、黒髪で地味目の女が座っていた。眼鏡を掛けており、レンズを作る技術があるようだ。


「本日はどんなご用件で?」

「登録をしたいのですが」

「登録…ですか?すみません。ではこちらの用紙に記入して下さい。」

 差し出された紙には、名前や性別、使用する武器等を書く欄。それとギルドのルールが掛かれていた。

 ギルドは独立した機関であることや同じ冒険者を殺してはいけないといった常識的なことが書かれていた。ざっと目を通すが変なことは書いていない。大丈夫だろう。

「武器と魔法は一番得意なモノで構いません。通常はパーティーを組む時の参考として使われます」

「分かりました」

「こちらは連れの方、ですか?…では順番に記入して下さい」


 書類に備え付けのペンを使って記入していく。

 名前。性別、…どうしようか。空白で良いかな。出身地、も空白。使用武器。使用魔法、使わないから空白だな。

 こんなものか。

「出来ました」

「はい、確認させて頂きますね。…えーと、他は空白でも構いませんが、性別は記入してください」

「あっ、はい」

 一応今の身体は女なので、女と記入する。これで良いだろう。

「…はい。では読み上げるので、差異がありましたら、申し付け下さい」

「はい」

「イブキ様。女性。出身地は白。片手剣。魔法は白。…宜しいですか?」

「はい」

「ではタグを発行します。こちらに指を置いて魔力を流してください」


 差し出されたのは薄っぺらい銀色の板だ。台地のタグと似ているが、台地のタグは魔道具に手を置いて作るのに対し、こっちのタグは直接タグに魔方陣が刻まれており、そこに魔力を通すようだ。

 タグの上に指を起き、魔力を通す。すると魔方陣が輝き、消えた。

「無事登録出来ました。ではお連れの方、どうぞ」

 ヤナギが前に出て来て、書類に記入していった。


「ヤナギ様。男性。出身地は白。刀。魔術は風。宜しいですか?」

「うん?…ええ、それで」

「では最後にそちらの方──」


「カエデ様。女性。出身地は白。杖。魔術は光。…珍しいですね。内容はこれで宜しいですか?」

「…うん。だいじょうぶだね」


「では、ランクについての説明をしますね。宜しいですか?」

「ええ、お願いします」

梅雨は嫌いです…

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