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この世界の台地で  作者: あの日の僕ら
第三章 見知らぬ世界へ
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XVI 荒野

 何もない荒野を進む。地面は押し固められておらず、デコボコしているので、かなり歩きにくい。モグラでもいるのだろうか。

 空を見上げると、遠くに鳥らしき姿が見える。大雑把なシルエットからして奇死鳥では無いようだ。動きを観察していると、円を描くように飛行していることがわかる。俺達が弱るのでも待っているのだろうか。


「何もない大地ですな」

「これずっと続いてない?」

 目の前には、一面荒れた大地と青い空しかない。どこまで続いているのだろうか。食糧は枯渇しないだろうが、何時になったら人の居る土地に着けるのだろうか。

「…取り敢えず進むか」


 ******


 丸二日経過した。景色は全く変わらず、天候も晴れ続きだ。暇な時間に空の様子を観察したが、真っ白な雲ばかり流れている。白い雲というのは雨粒が小さく、黒い雲は雨粒が大きい、というのを聞いたことがある。この土地は極度に雨が降らない地域なのだろう。飲み水もなければ、生活出来る生き物も限られてくる。

 南側を選んだのは失敗だったかもしれない。台地の周囲全てが荒野ならしょうがないが。

 上空を旋回していた鳥だが、野営をする為に魔獣避けの魔道具を使用した直後に消えた。単純に寝床に帰ったのかもしれないが。


「二日か…」

「あれっ?何か居るよ?」

 カエデが前方を指差している。その場所には何かの塊が蠢いていた。


 塊の正体は巨大なミミズだった。原型の分からない肉塊に、我先にと群がっている。

「ワーム系ですな、これも魔物でしょうか?」

「調べてみたいが…どうする?」

「やめといたほうが良いと思うなー」

「地の利は向こうにある。得策では無いでしょう」

 ミミズは地面から這い出し、今も数を増やしている。どうみても他者に関心が無さそうだが、もしかしたら仲間意識が強く、手を出した瞬間足元から同種が噛み付いてくるかもしれない。ここが荒野でなければ手を出していたかもしれないが、ここではやめておこう。

 未知の生物に心引かれるが、こらえて先に進む。


 ******


 ミミズとの接触から三日が経過して、やっと荒野の端に着いた。正確な距離は分からないが、もし外の魔獣や人間が台地に攻めてくることになっても、時間は稼げるだろう。

 荒野は徐々に背丈の低い草に侵食されており、そこから先は草原が広がっている。さっきの土地よりも生活しやすそうなので、人の集落がありそうだ。


「やっと抜けたな…」

「広かったですな」

「あのワームが居るから荒れ地なのかなー?」

 外から確認して、空には鳥は飛んでいるが、草原には獣らしき存在は確認出来ない。奥に行けば何らかと遭遇しそうだが、黄色の細長い葉をした草の背丈も、奥に行くほど長くなっている。かき分けて進むか、刈り取りながら進まなくては行けないだろう。

 環境がコロコロ変わるが、ここでじっとしていても仕様がない。気を付けて進んでいく。


 二時間ほど歩いた所でタイショーが何かを見つけた。

 ──キュッ!

「こっちか?ふむ、そうじゃの。余り刺激せんほうが良い」

「台地で見た魔物も居るらしいよ」

 精霊同士の会話には中々入りづらい。精霊にとって言語は飾りみたいなモノらしく、お互いが精霊なら言葉を交わさずに会話出来る。人のカタチを取っていると言語を多様するらしいが。


「む、居たぞ」

「あれは…縞牛?」

「縞牛か?アレ」

 視線の先には、体毛の長い生き物が猫のような生き物に襲われている光景があった。襲っている生物は見たこと無いが、襲われている動物は見覚えがある。縞牛といって縦縞の模様の牛だ。シマウマっぽい模様をしている。この動物は魔獣ではなく普通の動物で、魔法は使ってこない。魔獣と動物の違いだが、かなり曖昧で、魔法を使うかどうかで決められている。中には魔法を使ってこない魔獣もいるが、魔素の充満した世界で魔法と関わらない方が無理だろう。

 この縞牛だが、台地の上に居た縞牛は体毛は短かかった。ここの縞牛は模様こそ同じだが、体毛が長すぎてモップのようになってしまっている。この地で生きやすいように進化したのだろうか。


 縞牛が大型の猫らしき生物に噛み付かれ、押し倒される。縞牛は首付近から血を流し、やがて動かなくなった。不躾に観察していたら、猫が顔を上げ、こちらを睨んで来た。バレていたようで、一旦元の道に戻ることにした。

「あれ縞牛だよね?」

「そうだな。多分同種だ」

「あそこまで行くともはや亜種じゃのう」

 原生生物に喧嘩を売りに来たわけではないので極力無視して来たが、サンプルを入手するべきだったのだろうか。情報は出来るだけ入手したい。次に縞牛を見つけたら討伐することを決め、先に進んだ。


 ******


 あれから一日経過した。この地域は生き物が多いようで、色々な魔獣が襲ってきた。前に縞牛を襲っていた『風迅猫』。鋭い二本の角で突進してくる『刀鹿』。水辺に潜み、近付いてきた生き物を丸飲みにする『大口重馬』。それと、食べ掛けの死体を拾っただけだが、『縞牛』も確認出来た。説明文を読んだが、ゲーム内と変化がなく、同種、ということらしい。

 遠くには低い山脈が見えており、この草原の終わりが近いことが分かる。

「今日中にはあの山の麓に着きそうですな」

「じゃあ、そこで野営して、翌日登山しようか」

「ぜんぜん人が居ないねー」

 水場があれば人が居ると思ったが、痕跡すら無かった。出てくる魔獣は、台地の一般的なダンジョン中層くらいの強さだったので、住みたくても住めないのだろうが。


 山の麓で一夜を明かす。山の環境は、これまでの土地と比べて緑が多い。見たことの無い植物ばかりでポーチの空きがかなり埋まってしまった。薬に使える物は加工しても良いかもしれない。

 登っていると猪らしき生き物や鹿らしき生き物を遠目に見掛けたが、こちらを見つけた瞬間に逃げてしまった。人里があれば魔獣についての資料があるかもしれない。襲ってこなければ、無理に狩らなくてもいいだろう。


「そろそろ山頂だねっ!」

「ふむ、風が強いですな」

「人が居れば良いんだが…」

 ──キュ?

 山頂近くの岩場を、踏み外さないように気を付けてながら進む。生えている木は荒々しい枝振りをしており、常に強風が吹いているようだ。

 山頂の大きな岩に足掛け、山の向こうの景色が目に入ってくる。

 空の青色とはまた違った濃い青とそれに沿うようにして白い線が引かれている。手前は森の濃い緑と草花の薄い緑が混在しており、その間に茶色や白、緑等のカラフルな色が存在していた。

「海…か」

「すごーいっ!本物の海ってはじめてみたよーっ!」

「風の精霊が荒々しい。ふむ、多少混ざっているのか」

 山の向こうは海だったようだ。海特有の磯臭さは、前の世界より弱い気がする。地球と違って、海の匂いを抑制する要因があるのだろうか。磯臭さを感じれば直ぐに海だと気付いたのだが。


「あっ、見てっ!あそこ!村じゃない?」

 右手の方にちんまりと茶色の壁らしき物が見える。木製の壁だろうか。小さい集落なので結界があるかも怪しいな。

「小鬼の村では…無いようですな」

 集落の近くの海に小舟が何隻か浮かんでいる。一般的な小鬼(ゴブリン)は舟を造る程の知能は持っていない。もっとも台地のゴブリンは基本的にダンジョン内にしか居なかったので、外とは違う可能性もあるが。

 壁も木で作られているにしては綺麗だ。加工された後があるので、九割人間だろう。

「取り敢えず行ってみるか…。人が居れば、"打ち合わせ"通りにな」

 ──キュッ

やっと人が出せる…

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