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この世界の台地で  作者: あの日の僕ら
第三章 見知らぬ世界へ
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XV 水色

 あれから数羽の奇死鳥を討伐した。それぞれ別の群れらしく、氷針で貫かれたり、羽を焼かれたり、魔力の剣身を投げつけたりして落とした。どの群れでも、一体討伐すれば逃げていくので非常に楽だ。知能が高そうなので、餌でも用意すればテイマーにもなれるかもしれない。


「景色が変わりませんな」

「特殊な結界とかは…別に無いね」

「思ってたより、広いな…」

 ──キュルル…


「どれ、儂が空から見てみましょう」

「ああ、頼む」

 ヤナギが上昇気流を作り、宙に浮く。浮遊する原理は分からないが、ヘリコプターみたいなモノだろうか。まあ、全部魔法だからで済んでしまうのだろうが。


「……?」

「ヤナギーっ!何か見えるーっ!?」

「ふむ?多いな…」

 ヤナギが降りてきた。風の操作は見事なモノで、下に居た俺達に強い風が当たらなかった。ダウンバーストとかは起こらないらしい。

「ここから近いのは向こうですな。見たこともないモノですが」

 そう言って指した方向は、俺達が進んでいる方向から見て、左だった。


「見えたのは…水色の物体?でしょうか」

 ヤナギの話を聞きながら、一番近い謎物体の場所に向かっている。

「水色か。何か特徴とか無かったか?」

「うーむ。複数集まっているようでしたな。それ以外は…」

「あっ!水色みえてきたよっ」


 水色の物体がある空間。枯木が途切れ、そこだけぽっかりと開けていた。水色物体は頭でっかちで白い斑点があり、体は白い。水色物体の正体は巨大なキノコだった。大きさは様々で、中心付近に大きく、外側に行くに連れてサイズが小さくなっている。


「キノコだね」

「キノコだな」

「キノコじゃったか」

 ──キュ

 水色のキノコとは、余り見ない色だな。しかも、白い斑点。前の世界での知識に当てはめると空色茸とかだろうか。それでも斑点がある時点で違うし、ここまで巨大では無い。一番大きなモノは、小柄な人間の背丈ほどもある。


「採取してみるか?」

「脅威は感じませんが…」

「ねぇ、なんか動いてない?」

 カエデの声に、水色キノコの方を見る。が、変化は無い。

「あれ?止まっちゃった…」

「本当に動いたのか?風かもしれないぞ」

「風は吹いてましたが、アレが揺れる程では無いですな」

「うーん。ほんとだよ?」

 ──キュ?


 この大きさは普通の茸ではないだろう。魔茸の一種だろうか。動くというのも、生息範囲を広げる為に行っているのかもしれない。

 採取しなければ正体が分からないし、ちょっと刺激してみるか。

「石とか投げてみようか」

「それいいね!石…、石は…」

「ありましたぞ、若。この石も余り見ない色ですな」

 手渡された石は真っ黒で、煤でも付いているようだった。手に持っても黒色が付着するようなことは無いので、煤で覆われている訳では無いようだ。一瞬だけポーチに仕舞い、名前と説明文を読む。

『墨石』『立枯木の落枝が長い時間を掛けて水分を抜かれ、石となった物。砕いて水に溶くとインクの代用になる。大変燃えやすい為、取り扱い注意』

「墨石…。元はこの木らしい」

「ではこの土も全て墨石とやら、ですか」

「へぇーっ、すごいねぇ」


「じゃあ投げるぞ。…念の為に下がっていてくれ」

 落ちている石も面白いな。色んな使い方がありそうなので、目に付いた墨石は回収しようか。

 ──キュル

「気を付けてくださいな」

「襲ってくるしれないよーっ!」

 石を一番大きなキノコへむかって投げ付ける。投石なんて滅多にやらないので、狙いは外れて少し手前のキノコへ落ちた。

 キノコは石が当たると、ぷるりと震えただけだった。

「何も──」

 ──プシュウウウウウウウウウウッ!

 石が当たったキノコの傘の裏から何かを噴出した。

 その白い煙の向かってくる速度は早く、このままでは飲まれてしまうだろう。結界を展開すれば、煙を吸うことは無いだろうが、移動が出来ない。

 ──キュッ!

 煙が眼前に迫り、結界を展開しようとした瞬間。何かが巻き付き、俺の身体を後ろへと引っ張った。新しい魔物か、と後ろを振り返ると身体に巻き付いたモノはタイショーの身体だった。どうやら異変をいち早く察知して、助けてくれたらしい。


 ──キュキュ!

 煙が届いていない場所、ヤナギ達の元へと降ろされる。

「助かった。ありがとな、タイショー」

「イブキ、大丈夫っ!?」

「ああ、煙を吸う前だったからな。タイショーのお陰だな」

 ──キュッ!

「…後で秘蔵の果実をあげようか」

 ──キュキュキュッ!

「現金な奴よのぅ…」


 石を当てたキノコを中心として、煙のドームが出来ている。近くで見ると、煙というより霧に近い感じだ。

 タイショーが鼻先を煙に近付け、まじまじと観察している。

 ──キュウ

「ふむ。普通の霧、らしいぞ。毒も無いそうじゃ」

「えっ、ほんと?胞子だと思ってた」

「へぇ、ただの霧なのか」

 この白煙は煙でも毒ガスでも胞子でも無いようだ。消えた霧と関係あるのだろうか。

「ふむ、風で散らせそうじゃの」

「お、出来るのか。じゃあ頼む」

 ゲーム時代の霧は何をやっても動かせなかった。なら、関係はなさそうだな。断定は出来ないが。


 ──ビュウウウウウ

 風が四方から吹き付けて、霧を散らす。散らした霧をこちらに当てないようにしており、気遣いを感じる。

 霧が薄くなっていき、キノコの様子が露になってきた。

「むっ」

「うん?」

「ええっ!?なにこれ!」

 ──キュウ!?

 キノコは元の場所には居なかった。キノコが居るはずの場所は陥没した地面しかない。だが、そこから数メートル離れた所にキノコは居た。石突から細長い足を生やして、歩いている。こちらの声が聞こえているのか、振り返って──停止した。

 顔なんて無いので分からないが、なんとなく戸惑っている気がする。


「…」

「なんじゃコイツら…」

 ヤナギが堪らずといった様子で呟いた瞬間、一斉にキノコ達が走り出した。

「あっ」

 キノコ達は森の奥にバラバラに走り去っていった。一体も残らずに逃げた、と思ったら一体だけ残っていた。カラカラに干からびたキノコだ。転んで仲間に踏みつけられたのか、足がピクピクと痙攣している。なんか干し椎茸みたいだな。

 ──キュッ!

 そのカラカラキノコに向かってタイショーが尻尾を伸ばした。そしてキノコの柄を掴み、こちらに持ってきた。


 タイショーが運んでくれた乾燥キノコは全く動かなくなっている。ゲームでは動く魔茸はダンジョン等に生息していた。しかし、こんなに活発に動く魔茸は見たことがない。

 ポーチに入れるために、手を伸ばす。

『霧茸』『多量の水分を蓄えている魔茸。触れたり、驚かせたりすると、溜め込んだ水分を一気に放出し、その間に外敵から逃げる。この種が居る土地は極度に乾燥している。食べても毒はないが、味は全くない』


「霧茸…そのまんまだな」

「奇妙な植物じゃの」

「キノコって植物だっけー?」

「似たようなもんじゃろ」


 ──キュキュキュ!

「…?あっ、果実か。昼飯にな」

 元の道に戻り、南へ進む。といっても道などないのだが。

 ひたすら歩く。途中で霧茸と遭遇するが、無視してあるく。毒がないらしいので、薬の材料にもならないだろう。


 歩き続けた結果、森を抜けた。抜けた先は荒野で、生き物の気配がしない。土は赤茶色で、葉が細く紫色の草が点在しているだけだ。

「荒野か…」

「過酷な環境ですな」

「人の気配がないねー」

「取り敢えず、この森の縁で休憩にするか」

 ──キュキュキュキュ!

「タイショーはくいしんぼうだねー」

 敷物を取りだし、そこに座る。携帯食と、タイショーに与える為の果実を取り出す。

 ──キュキュキュキュキュッ!

「鈴葡萄、珍しいですな」

 鈴葡萄とは人の手が及ばない森の奥等で採取出来るフルーツだ。栄養を蓄えるほど、房に粒が増えていき、甘味を増す。取り出したのは一メートル程の鈴葡萄だ。人工栽培は難しく、三、四粒しか実をつけない。この長さのは野生だ。

「とっても甘そうだねっ」

 ──キュッ!

「タイショー、少し分けてくれないか?」

 ──キュ?キュキュッ!

「元々若の物なので聞く必要ないのでは?と申しております」

「これはタイショーに与えた物だからな。報酬を減らさせると人間でも怒るだろ?」

 ──キュル?


 ほどよい甘味と酸味を感じながら、荒野の先を見つめた。

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