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この世界の台地で  作者: あの日の僕ら
第三章 見知らぬ世界へ
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XIV 枯れた森

 夜が明け、太陽が辺りを橙赤色で染める。

 テントから出て、辺りを見渡す。台地の端からの景色は霧が消えたことにより、ゲーム時代とはまた違った顔を見せていた。

「良い景色だな」

「そうだねっ」

 隣には精霊である、カエデを連れている。結局、あれからずっと話し込んでいて、一睡もしていない。大丈夫だとは思うが、一応眠気覚ましポーションを飲んでいる。

 ちなみにだが、一線は越えていない。どうやっても越えられる身体ではないのだが。


「若、おはようございます」

「お、ヤナギ。おはよう。一晩中見張りさせて悪かったな」

「いえ、儂がやりたくてやったことですので…。カエデ、その顔を見るに、上手くいったようじゃの」

「うんっ。うまく伝えれたよ!」


 ヤナギとカエデは裏で繋がっていたようだ。まあ、あからさまだったから分かることだが。

 今日はいよいよ台地の下に降りる予定だ。


「ヤナギ、タイショー。夜の間、魔物は出て来なかったか?」

「ええ、遠くを移動する魔物は確認しましたが、魔獣避けの範囲には入って来ませんでしたな」

 ──キュウ

「そうか…。魔獣避けは外の魔物にも有効という訳か。全ての魔物がそうとは限らないから、見張りは毎夜交代で立てるか」

「それが良いですのう」


「ねっ!朝ごはんにしようよ!私、お腹すいたよっ!」

 ──キュキュキュッ!

「お、そうだな。…よっと」

 ポーチから調理道具を出し、ヤナギへ手渡す。カエデと話をしていて、ヤナギが料理上手だと聞いていた。俺は料理なんてほとんど出来ないし、これからはヤナギに任しても良いかもしれない。

「料理は嗜む程度ですが、この爺に任せてください」


 朝食はトマトリゾットだった。この世界に米は一応あるのだが、今回持ってきた食材の中には、日本でよく見る短粒種の米ではなく、外国で食べられているような長粒種の米しかない。短粒種は貴重で、手に入りづらいのだ。

 この世界のトマトはカラフルで、このリゾットは赤黒い色をしていた。味は普通のトマトなのだが。

「ヤナギ料理上手いな」

「趣味とか言ってちょくちょくやってたよねっ?」

「料理とは奥が深いモノですな。つい熱中してしまいます」

「これからも炊事はヤナギにお願いしても良いか?」

「勿論です。この爺にお任せを」


 野営道具を片付け、降りる準備をする。

 眼下には枯れた木々がまばらに立っている。生き物の痕跡はなく、薬剤等で死んだ森を連想させる。遠くは雲に隠れて見えない。

「魔物…居るか?」

「ふむ。何も居るように見えませんが…」

「居ないとみせかけて、地面にもぐっているのかも?」

「降りてみないと分からないか」

「じゃあ昨日言ったようにして、降りるか」

 ──キュキュッ!

「ん?どうしたタイショー」

「自分が先に降りて、索敵すると言っております」

 タイショーは索敵を得意にしている。光学迷彩よろしく姿を消すことも出来る。透明化すると屈折も起きず、水の精霊なので体温も感じられない。もっとも、姿を消しているだけで透過は出来ないのだが。


「うーん。それじゃあ、タイショー、俺、ヤナギの順で降りていこうか。ヤナギは上を頼む。下に降りたときに、対処出来ない魔物が出たら上に戻ろう」

 俺の言葉に異議が無いようで、皆が頷いた。


 タイショーが台地の壁のでこぼこに身体を這わせ、下に降りていく。

 俺もそれに続く為に結界を生み出し、足場にする。大きな装置を用いずに生み出した結界は余り強度が強くないが、二人分の体重くらいは支えられる。結界は展開した空間から動かせず、常に一つしか同時に生み出せないので、消して、落ちて、消して、落ちてを繰り返して降りていく。カエデも飛行は出来ないが、それっぽいことは出来る。魔力消費が無視できない量なので、あまりやらないらしいが。

「ほら、カエデ」

「うぅ、怖いなぁ」

「結界を消すけど、落ちるのは一瞬だからね?」

「う、わかった」

 乗っていた結界を消し、直ぐに結界を展開する。

「きゃっ!」

 カエデが抱き付いて来て、スーツとローブごしでも大きな胸が押し付けられるのが分かる。残念ながら細かな感触は分からないが。

 カエデのこの行動は天然なのだろうか。それとも計算なのだろうか。

「あ、ごめんっ。離れるね?」

「…別に離れなくて良いよ。バランスさえ取れれば良いから」


 台地の壁は石壁だと思っていたが、石では無いようで、叩くと金属のような音を出した。こういう謎物質の壁は、ダンジョンの壁と似ているな。攻撃を幾ら加えても破壊出来ない。壁を壊してショートカットするというズルは出来ないのだ。


 上を見るとヤナギが風を纏い、宙に浮いていた。着ている服が風ではためく。ヤナギの着ている服は、和服と軍服が合わさったような服装で、だいたい和6:洋4の割合だ。


 タイショーが地面に降り、索敵を開始する。危惧していた魔物は居ないようで、こちらを見て短い鳴き声を上げた。

 順番に、俺とカエデ。ヤナギと続き地表に降りた。

「魔物は居ないようですな」

「うーん。あてが外れたねっ」

 ある確認をする為に、メニューを開く。地図(マップ)を選択すると、台地の地図が大きく表示される。そして、台地の下の方に小さく飛び出た箇所を見つけた。どうやら台地以外の場所も地図に記録させるようだ。最悪の事態である迷子にはならないで済むな。

 目指す場所も分からないので、台地から直線に進む。


 枯木の間を縫い、道なき道を行く。

「ねぇ、イブキ。この木って生きているのかな?」

「え?」

 言われてみれば、枯木が幾つも立ち枯れて、それが腐らずにいるというのも珍しい。近くの枯木を折り、枝をポーチに入れて確認する。

『立枯木の枝』『枯れているようにみえるが、生きている魔木。日の当たらない地で進化した種で、空気中の魔素を糧にしている。この種は乾燥させなくても薪として使え、よく燃える』

 立枯木という木らしい。魔力で生育出来るように進化したらしいが、この場所が霧で覆われていたからだろうか。今は日が当たっているが、他に草木が一本も無いことを考えるとそうであったのかもしれない。

「この木は枯れていないようだ。珍しい魔木だな」

「えっ?そうなのっ!?へぇー、すごいね!」

「表皮が枯木にしか見えませんな…。儂と同じ様なモノかの」


 立枯木を幾つか根ごと回収しつつ、歩く。

 幾ら歩いても景色は変わらず、異常に黒く固い土と枯木にしか見えない魔木だけ。空はまだらに雲が浮かび、その隙間から透き通るような青を覗かせている。空を見ていると真上に何かが飛んでいることに気付いた。

 ──キュッ!

「鳥か?」

「鳥ですな」

「なんか大きくなってない…?」

 真上を飛ぶ鳥がどんどん高度を落としてきている。近付いて来るにつれ、その鳥の異形がはっきり見えてきた。翼と頭部が異常に大きく、それに比べ身体は小さい。頭部の側面には、オレンジ色の巨大な目玉がついており、どうみても普通の鳥では無かった。


「なんか不気味っ!」

「これはどうみても魔鳥ですな」

 ──キュルルルッ!

「良くこのバランスで飛べるな…」

 異形の鳥が体勢を変え、爪を前に突き出した。趾は紫色をしており、爪の先から汁が滴っている。普通に考えて、毒液、だろうか。


「どれ、儂が相手をしましょう」

 ヤナギが刀を抜かずに構えた。その構えは武術の構えに見えなくもない。異形の鳥は狙いを定めたのか、ヤナギに一直線に向かってくる。

「………」

 ──ガァーッ!

「…ふっ!」

 しゃがれた鳴き声の鳥に対して、ヤナギが魔法を放った。風を収束させたモノと思われる魔法は、鳥の眉間を貫通し、地面に激突した。

「なんじゃ、呆気ない」

 地に落ちた鳥からはどくどくと血が沸き出しているが、ヤナギには一滴の血も付着していない。魔法で鳥を討ったあと、血をどこかに飛ばしたようである。


 上を見るとこの鳥と同種と思われる鳥が散り散りになって飛んでいった。この種の知性は高いようで、敵わないと察知し、逃げたようだ。もしかしたら援軍を呼びにいったのかもしれないが。

 吹き出る血の勢いが収まった死体を回収する。

『奇死鳥の死体』『洞窟等の薄暗い場所に生息し、群れで行動する魔鳥。特徴的な大きな目は、光の少ない場所でも容易に見渡せる。頭は良く、狩りは相手に気付かれないように行い、爪の毒で仕留める。目玉は珍味でマニアに高く取引されている』

「奇死鳥、だってさ。…目玉が食えるらしいぞ」

「えっ!これ食べれるの!?こんな見た目なのに…」

「好んで食べたいとは思いませんな」

 ──キュ

「タイショーも?そうだよねー」


 奇死鳥を撃退し、他の魔物に気を付けながら歩を進めた。

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