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この世界の台地で  作者: あの日の僕ら
第二章 この世界で
13/52

XIII 願い

「…イブキ、王都に帰る気はない?」


 帰る?王都に?王都で準備を整えてから、外に調査へ向かう。と言うことだろうか。龍の素材は俺が使いたいが、お土産にしても良いかもしれない。

 だが、今の言葉はそういうニュアンスに聞こえなかった。


「それは、どういう意味で?」

「そのままの意味だよ。王都で、調査がおわるのを待っていようよ。ある程度調査がおわってからでも、おそくないんじゃない?」

「…いや、戻らないよ。少なくとも、今は」

「無茶して、怪我、してたでしょ。痛くないの?」

「別にあれくらいじゃ痛くも痒くもない。ほらっ、現に傷は一つもないだろ?」

 スーツから両腕を引き抜き、肌をカエデへ見せる。傷の一つも無い、真っ白な肌だ。陶器のような白さではなく、ほどよい白さだ。この肌の色はゲームの頃から変わらない。もしかしたら日にずっと当たっていれば日焼けするのかもしれないが。


 カエデが俺の腕を取り、そっと撫でる。

「…龍の雷撃を貴方が受けたとき、貴方のこえがきこえたの。痛みをこらえるような。そんなこえ」

「…あー。大丈夫だって、あんな雷撃。治る傷だからさ。ほら、俺は調薬師だから薬には困らないし」

「でもっ!外の世界に、龍より強いモノが、居たら。しんじゃうかもしれないよ?」

「…」

「イブキがしんじゃったら、私っ…いきていけないよ…っ」

「──なんで、そこまで想ってくれるんだ」

「イブキが私達を護ってくれたのは、覚えているよね?」

「ああ、カエデもヤナギもタイショーもそこから、の関係だな」

「その時も、それからも、身を挺して。護ってくれたじゃない」

「…それは、加護があったからだよ。二十年前なら、死なんてあって無いようなモノだったから」

「それでも…!あのときの私は足手まといだったから、見棄てられるべき存在だった私を、護ってくれたのは、貴方だった」

「それも、加護があったからだよ。加護が無きゃ、見棄てるさ」

「でも、私は助けられた。そんな貴方のことを、いつの間にか好きになっていた。ひとときも、離れたくなかった」

「─」

「貴方が元の世界に帰ってしまうと聞いて、何度も、想いを伝えようとした。でも伝わらなかった。まるで、ことばが届いていないように」


「貴方がかえってきたと聞いて、心が踊った。もう、会えないと思って、貴方が使っていた物を、思い出を、保っているだけの日々から、抜け出せた」


「ずっと貴方のことを想っていた。だから、もう、二度と、はなれたくない。私は精霊で、貴方は人間。どうやっても、貴方の方がはやく逝ってしまう」


「だから、だから、せめて、短い間でも良いから、貴方と一緒に居たい。だから…お願い。私を独りにしないでぇ…」


 カエデが涙を流しながら下を向く。

 精霊にはそういった感情は無い、と思いこんでいた。

 しかし、精霊と人間との恋。そんな題名があったら、間違いなくバッドエンドであろう。

 まず、人間は寿命がある。この世界でも常人は百歳ちょっとしか生きられない。それに対して精霊には寿命が無い。時間の感覚が違うのだ。

 そして、精霊と人間の間に子供は産まれない。精霊は人の形をしていても、子供を産む機能そのものが無い。

 どうやっても報われない、恋。

 だけど。


「カエデ、俺はその気持ちに、答えたい」

「!」

「だけど、俺は王都へ帰らないよ」

「えっ…」

「けど、約束する。お前を絶対に独りにしない」

「うぇ」

「こんな俺で良いなら、だけど。一緒になろう」

「うぇぇぇぇぇぇん!!」


 カエデが前から抱き付いてきた。顔は俺の胸部に涙と鼻水を擦り付けるので、胸部がべちゃべちゃしている。

 なんか前にもこんなことあったような気がするな。今は素肌に鼻水だが。


「うえぇぇぇぇぇぇえん!!!」

 随分長い間留守にしてしまったようだからな。…いくら精霊でも二十年は長いよな。


 ******


「落ち着いたか?」

「うんっ」

「持たして悪かったな…」

「全然、貴方に想いを伝えられたからっ。そっちのがうれしい」

「それで、二十年前にそんなこと知らなかったんだけど、どうしてだろうか」

「うーん。イブキに想いを伝えようとして…、最初嫌がられているのかなっ、って思ったけど、全く違うことが伝わっていたみたい。話題を変えたら普通に伝わったよ?」


 カエデはゲーム時代に告白していたらしい。俺が聞き取れないとはどういうことだろうか。

 …一つだけ心当たりのある機能があるな。

 NPCにプレイヤーがセクハラをしようとしたらブロックされる"セクハラ防止機能"だ。プレイヤーが意識していても、いなくてもNPCや他のプレイヤーの胸部や臀部を触れないようになっているのだ。感触などなくてもブロックされる。

 それとプレイヤー同士で検証した結果、性的なことを言おうとすると別の意味の言葉に変換される、ということがわかった。しかし、隠語には反応せず、ごく一部で引っ掛からないで会話出来るか、で遊んだ時期があったらしい。俺は知らないが。

 もし、この機能が、プレイヤー同士やプレイヤーからNPC以外。NPCからプレイヤーにも適用されるとしたらどうだろうか。確証は無いが。


「ちょっと聞きたいんだが…、二十年前に何て俺に伝えたんだ?」

「えっ?えっとねー。は、はずかしいんだけどね」

 カエデが頬を赤く染め、俯く。

「ひ、ひとつになりたいの…って…」

「…ひとつにって、それはどういう意味で?」

「だ、男女の…そういう…関係」


 グレーゾーンな単語だな。単語じたいは問題ないが、込められた意味が卑猥な言葉として機能が遮断していたのかもしれない。仲間内でしかわからない隠語と違って、受け取る人によって意味が変わってくる言葉だ。

 まあ、今更昔のことを考察していても仕様がない。

 ゲームが現実となって機能が消えたお陰で対話することが出来たのだ。だが、他の機能が消えて、ポーチ機能が残っているのはどうしてだろうか。考えても仕方の無いことだし、使えれば問題無いのだが。


「それで…。イブキに聞きたいことがあるんだけど。」

「ん?何?」

「今のイブキって女の子だよね?その、営むことできないんじゃないかなーって思ってね?」

 カエデが股関部分を凝視している。スーツには男特有の飛び出た物体が無く、のっぺりしている。

 本来の俺の性別は男だ。だが、スーツを制作するときに、もっこりしているのは嫌だ、という理由で見た目をそのままに性別を変更していた。

 スーツを作り始めたのはゲーム内だ。ゲームでは裸になることが出来ず、何も着ていない状態では、インナーを必ずつけていた。なので下着の構造を工夫し、ブツを無理矢理押し込むという手段が取れなかったのだ。ちなみに、このインナーは何故か汚れないので、今の今までこのインナーを下着として使ってきたのだ。


 性別のみを変更するなら課金で100円(課金項目の内最低金額)の宝珠(オーブ)を購入する必要がある。最大一個までしかストック出来ないので、そうホイホイと性別は変えられない。

 俺は裏技染みた方法で、性別を変えるすべを見つけたので、ストックを使いきっても問題無いのだが。


「大丈夫だ。性別を変えるすべはあるから」

「へぇー、訪問者って凄いね!」

「いや、中々取れない手段だから、あんまり期待しないでね」

「ふーん。でもこれで、するとき困らないね!」

「え?!うん、そうだねぇ」

「─!」

 自分のしたストレートな発言に気付いたのか。顔を両手で覆い、蹲った。耳の裏が真っ赤になっている。


 かなり可愛い反応するな。

「えっ!?今かわいいって言った?」

「あ、口に出てたか。うん、可愛いよ」

「~~~!」

 こういうのをノロケというのだったか。悪くないどころか、なんで人前でイチャイチャ出来るのか疑問だったが、こういうことか。

 お互いのことを話ながら、夜はふけていった。


 ******


「若とカエデが気になるのぅ。…ちょっとだけじゃ」

 風が蠢き、テントから音を運んだ。


『うえぇぇぇぇぇぇえん!!!』

『…よしよし。遅れて、済まなかったな』


 風は音を届けるのを止め、テントの周囲を回り出した。ヤナギは手で顔を覆う。

「ぬぅ。罪悪感が凄いのぅ…」

 ──キュウッ!

「ぬおっ!…なんじゃ、タイショーか。いや?さぼってはおらんぞ?」


 大切な者同士、関係を修復して欲しいと祈りながら、もう一組の夜もふけていった。

このリア充が

(゜д゜)、ペッ!

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