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この世界の台地で  作者: あの日の僕ら
第二章 この世界で
11/52

XI 龍

 岩砕竜を討伐し、目的地まで歩く。


「ヤナギ、尾を一撃で切り落とすなんて凄いな。前は手数多めだったよな?」

「ええ、少し時間は掛かりますが。あれくらいなら」

「カエデも熱線の威力が増したか?撃つのも早かったし」

「えへへ、今は連発も出来るよ!」

「タイショーもどこに居るのか分からなかった。頼りにしてるぞ?」

 ──キュ!

 何もない場所から鳴き声が聞こえた。


「例の森はもうすぐか?」

「もうすぐのはずです。─着きましたよ」

 その森は一見普通の森にしか見えなかった。しかし、全ての木葉が黒緑色で、森の内部は薄暗く奥まで見通せなかった。明かりならカエデが浮かべる光の玉があるので問題ない。

「行くか」


 ──キュキュ!

 異変が起こったのはそれから暫く経ってからだった。

 タイショーが警告し、進むと見たことのない魔物が闊歩していた。

 ソレは黒い大きなトカゲやイモリのようで、目が在るべき場所に付いていなかった。口から黒い炎を吐き出し、のそのそと歩いている。


「俺が先に出る。タイショーは周りに他の個体が居ないか注意してくれ。二人は隙を見て攻撃。解散っ」

 俺は無防備にトカゲの前に躍り出る。するとどうやって感知しているのか、顔をこちらに向けてきた。武器は持たずに、少しでも早く攻撃を避けれるように近付く。


 ──ふしゅううう

 トカゲが黒い炎をヘビの舌のようにチロチロと出す。その次の瞬間、頬を膨らまして黒い炎を吐き出した。注意していた俺は余裕を持って避け、着炎点を観察する。

 黒い炎は近くに居ても全く熱気は無く、燃焼物の無い地面でも燃え続けている。魔術的なモノで作った炎だろうか。正体の判明するまで当たるのは止した方が良いな。


 トカゲが再び、頬を膨らまして─その首が落ちた。

 俺に注意が向いていたトカゲに、ヤナギが横から接近して首を落としたようだ。

 黒い炎は首が落ちた瞬間に消えた。トカゲが炎を維持していたのだろうか。


 ──キュ!

 タイショーの鳴き声を聞き、そちらを見ると、もう一体のトカゲが丘から顔を覗かせていた。しかし、既にタイショーによって身体を拘束され、ぐったりとしており、トカゲは既に息が無くなっているようだった。


 トカゲをポーチに回収する。ゲーム時代には存在していない魔物だったので、名前が表示されるか不安だったが、きちんと表示された。

『黒炎蜥蜴の死骸』『魔法で作った黒炎を吹き出して攻撃をする、魔獣の一種。黒炎は獲物を仕留めるか、自身が死ぬまで燃え続ける。エーデハイデ大森林に生息し、幼体を黒焼きにすると精力剤となる、と言われているが迷信である。』


「名前がわかった。"黒炎蜥蜴"と言うらしい。"エーデハイデ大森林"、という場所に生息しているようだ。」

「エーデハイデ大森林、ですか。聞いたことがないですね」

「やっぱり外から来たのかなー?」

「そうだろうな。楽しみだ」

「イブキ、とっても良い笑顔してるね!」

 残りの黒トカゲも回収し、先を急いだ。


 黒トカゲと再び遭遇することなく、森を抜けた。森を抜けた先は霧があった場所。台地の端だ。

「本当に消えてんな…」

「この目が耄碌した訳では無かったようですな」

「ねぇ、どうやって降りるの?私飛べないよ?」

「ヤナギは飛べるよな?」

「ええ、ちょっとした老人の嗜み、ですが」

「タイショーは壁を這って下に降りれるか?」

 ──キュ

「俺は結界を足場にするから、カエデは一緒に乗ってくれ」

「うん!わかった!」

「よし、じゃあ。…ん?」

 目の前のかなり先に、台地の延長線上に何かが見えた。

 ソレはミミズのように蛇行運動をしており、時間が経つに連れ、どんどん近付いてきた。

「あれは…ぬぅ」

「ええー!龍じゃない!なんでー!」

 ──キュルルルッ!


『龍』それは、この世界で最強の生物だ。通常は雲の上に生息しており、普通に生活していて遭遇することは無い。しかし、台地の上を通過するときだけ、地面近くを飛翔し、徐々に高度を上げていく。

 つまり、台地の端っこなら遭遇する可能性がある、ということだ。しかし、その周期は決まっており、今の時期にこの場所を通過する龍は居ないはずである。霧が消えた影響なのかもしれないが。


「イブキっ!どうするのアレ!?」

「龍素材を使いきった直ぐにコレだ。チャンスじゃないか?」

「爺は若に何処までも付いてきますぞ」

 ──キュルゥ!

「えっ!?じゃあ私も!怖いけどね!」


 ゲーム時代、毎回龍を相手にするときはしっかりと準備した上で。クランメンバー全員で挑んでいた。役割も分担して、初めて犠牲を出さずに生還出来た。

 龍の鱗は硬い。血や内臓を採りたいなら内部に侵入する必要があるし、そうすれば当然龍は暴れる。生半可な力では突破も出来ない。

 必要なのは動きを阻害する役割、そして硬い鱗を突破する役割だ。血を採集するのは俺が傷口に突っ込めば良い。


「魔力の余裕は?」

「アレを相手取るには不足ですな」

「私も自信ないよー」

 ──キュウウ…

「そうだな…。このポーションを飲んでくれ」

 ポーチから幾つかのポーションを取り出す。魔力回復用のポーションと攻撃力増加のポーションだ。魔力回復用のポーションは素材に世界樹の樹液とその果実を使用しており、飲めばすぐ良質な魔力に変換され、魔力を消費しても暫くはMP自動回復が付与される。入手にはかなり大変で、世界樹の根元に居を構えるエルフと良好な関係を築かなければ採取させてもらえない。攻撃力増加のポーションは一時的に物理、魔法攻撃共に威力が増す。龍の血を使用しており、凶悪な威力を発揮する。五分ほどしか効果を維持出来ないのだが。龍の素材を得るために龍の素材を使うとは、これ如何に。確実性を増すために必要なことだが。


「これは…!有り難く頂戴致します」

「うわー!なんか高そうなポーションだね!」

 ──キューッ!


 俺は龍に一番近付くので保険で『星の雫』を服用する。外の世界は何があるか分からない。定期的に使用しても良いかもしれないな。幸い効果は重複し、残存時間が伸びる。

 …初めてこの世界で使ったときは気にしなかったが、味が微妙だな。土の味というか渋いというか。飲めない訳では無いが美味しくは無い。味なんてしないゲームで作成したのだから当選だろうが。


「ふむ」

「うーん。あんまりおいしくないねー」

 ──キュウゥン


 いや、なんか、申し訳ないな。今度開発するときは味も気にしよう。

「じゃあ作戦を決めるぞ。カエデとタイショーは龍が台地に脚を掛けたら、速度を殺してくれ。氷壁でも熱線でも手段は何でも良い」

「わかったよ!特大のをプレゼントしてあげるよっ!」

 ──キュッキュッ!

「ヤナギは俺が柔らかくした体表に傷を付けてくれ、俺はその傷痕から体内に侵入する」

「それだけですかい?もっとこの老木を使って下され」

「それじゃあ…。時間が余ったら龍の気を引くために鱗の採集でもしていてくれ。」

「承知」

「その承知ってカッコいいねー!」

「じゃあ、行くぞ!」


 龍が近くに接近してきた。近くでみると雷神龍と呼ばれる、雷を操る龍であった。台地に前肢を掛けた、その瞬間だった。


「いーっくよーーーっ!!!」

 光の塊を準備していたカエデは、雷神龍の顔に向けて極太の熱線を放った。雷神龍は避ける素振りを全く見せず、そのまま直撃した。


 ──キュルルル!

 地面から何枚もの氷の壁が出現し、雷神龍の前方を塞いだ。しかし、これも避ける気配が無く、雷神龍はうっとおしそうにしながらも氷壁へと突っ込んだ。分厚い氷がまるで薄氷の如く破壊されていく、タイショーは破壊された分だけ氷壁を継ぎ足していった。


 動きの鈍くなった雷神龍の側面に向け、消化用のホースのようなモノを向ける。そして、大量の毒液を発射した。これは拳銃型水鉄砲を作ったのと同じクランメンバーが作った魔道具だ。消費は激しいが一度に多くの毒液を散布出来る。タンクはポーチに繋がれているらしく、仕組みは知らない。

「ぐぅっ」

 反動で仰け反るが、何とか堪えて、体勢を維持する。龍の体表は煙を上げるが、その形を維持している。


「ぬおおぉぉおお!!」

 ヤナギの周囲を風の塊を高速で回転させているり周りの土埃や小石を巻き込んで回転するそれは、嵐の中に居るようだ。

 ヤナギが現実のテレビ特集でやっていた居合いの構えを取る。

「フゥッ!」

 その姿勢から一閃、いや、キズは十字を書くように入っている。どうやらあの体勢から二閃、刀を入れたようだ。

 居合いの仕方なんて知らないし、教えたこともない。知らない内にプレイヤーとの交流でもあったのだろうか。


 ──グゥ

 キズが入り、龍は呻き声を漏らす。この攻撃は相当効いたようだ。

 あとは身体に入り込むだけだ。その瞬間──。

 ──グォオオオオオオオオオオ!!!!!!

 龍の身体の表面に、稲妻が激しく伝いだした。

 雷神龍は大きなダメージを受けると雷を纏うのは知っていた。しかし、現実となって目の前で見るととんでもない迫力だ。

 飛び込むのに躊躇うが、ここまでやった意味が無い。それにスーツの耐久テストと星の雫の効果を実感する、絶好の機会だ。

 俺は意を決して、雷光の中に跳び込んだ──。

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