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この世界の台地で  作者: あの日の僕ら
第二章 この世界で
10/52

X 竜

「───良いですか?これは商機でもあります。外の世界は可能性に満ちているでしょう。情報を、出来るだけ集めて来て下さい。手段は問いませんが、出来るだけ穏便な方法を選んでください」

「外来種の危惧がありますので、今回遠征に参加しない者はそちらに当たって貰います。それとポーションの高騰に備え、貴族に売り付けるときは値段を高くしてください」

「出向日は、準備が出来た順から、です。出来るだけ急いでください。脅威は待ってはくれません」

「ここまでで何か質問は?」


 ルティエラに付いてきて、傭兵への説明を隣で聞いている。

 傭兵達は驚きながらも、外界に興味津々、といった表情をしている。当然、一部を除いてだが。

 傭兵は基本的に貴族や商人への護衛として付けられる。しかし当然、人以外の生物と戦うことも無い訳ではなく、馬車の護衛といった依頼のときには、戦闘の殆どが魔獣であることも少なく無い。

 この傭兵達はルティエラ商会でも、特に力量があるらしいので未知の魔獣にも対応出来るだろう。


「国はこのことを知っているのか?」

「私は恐らく把握していると思いますよ、南端は兵士の巡回ルートに入っていますので。何を考えているか分かりませんが、このまま閉じ籠っていても待っているのは破滅だけです」


「不安だな…」

「良いじゃないか。そそるねぇ」

「オレは行くぞ。ここには守るべき者達が居るからな」

「行きたくねぇなぁ。でも敵は相手から来るんだろ?」


「以上です。出来るだけ早期の決断をお願いします」


 ******


「オーナー、ヤナギさん、カエデさん。夕食は、僕の自室で食べませんか?遠征の計画を話し合いたいのですが」

「ああ、俺はいいぞ」

「爺も良いですぞ」

「私も良いよ!」

 ──キュッ!

「あっ、タイショーさんもですね。それでは行きましょうか」


 見たことのない通路を歩く。ここまでは来たことが無かったな。

 前から歩いてきた二人の職員にルティエラが声を掛けた。

「君、自室に食事を運んでくれるかい?三人分、あとは果物を幾つか。頼むよ」

「君はシュミさんにポーションを増産させることを伝えてくれるかい?頼んだよ」

 職員は軽く頭を下げて、去っていった。


「ここが自室です。オーナーは初めてでしたよね?広くは無いですが、どうぞ」

 部屋は前に見た応接間と同じように落ち着いた雰囲気だった。社長室のような机が奥にあり、手前に平たく低い机の周りにソファーが囲んでいる。調度品には食器や茶筒が置いてあり、嫌味にはならない程度の高級感を漂わせている。


 ──コンコンッ

「商主様、料理をお持ちしました」

 職員が料理を台車に乗せて押して来た。昼食のときより、量も品数も多い気がする。

「ああ、ありがとね。下がって良いよ」

 職員は扉の前で一礼して去っていった。


「で、計画ってどんな内容だ?」

「どこから降りていくか…って所ですかね。オーナー達には降りるついでに影狼(シャドウウルフ)の居た森、に存在しているであろう魔獣の対処をお願いしたいのですが」

「俺達は南側から…ってことか?」

「ええ、ヤナギさん達はその森の位置を把握しています。見付けるのも割かし簡単でしょう」

「ふむ、そうですな。見付けさえすれば対処は容易でしょう」

「あれ?そういえばあのワンちゃんは?」

「あの子狼は僕の寝室です。上手く育てれば番犬くらいにはなるかな、と思いまして」

「へぇ、ルティが育てるのか。躾は大事だぞ?」

「わかっていますよ。ちゃんとしつけますから」

「私が育てたかったなぁ…」

「カエデは若に付いていくのであろう?犬が良いなら残れば良い」

「それはいや!もー、なんでそんなに極端なの!?」


「そういや名前はあるのか?あの子狼」

「あるよっ!全身真っ黒だからね、"クロ"って名前にしたの!」

「単純だな…。ああ、いや良い名前じゃないか?名は体を表すって言うしな」

「でしょー!」


「それでは水や食料は集まりしだい出発、で宜しいですか?」

「ああ、良いんじゃないか?水はいざとなったらタイショーが要るしな」

 ──キュウッ!

「そうですね。では食料多めで、あとはテントとか寝袋とか…あとは鍋と魔獣避けの魔道具。それもこちらで用意しておきますね」

「あーっと、そうだ。ポーチにしまった備品、俺の部屋に置いておくからな。その分お土産詰めてくるよ」

「ええ、分かりました。オーナーが帰ってくるまでに移動させておきます。お土産楽しみにしてますね」


 この日はそれで解散となった。


 ******


 翌日。太陽が真上に位置する頃、ルティエラから準備が出来たと知らせを受けた。

「思ったより早かったな」

「ことは一刻を争いますからね。倉庫に荷物があるので持っていってください」

「倉庫か。分かった」


「それじゃあ、行ってくるよ。ルティ」

「いってきまーす!」

「ルティエラ殿、若のことはお任せを」

 ──キュキュウキュッ!

「例の森までは馬車で送りますが、あとは歩きですよ!体力管理には気を付けて下さいね!」

「ああ、分かった」

 馬車に乗り込みながら、ルティエラに返答していく。馬車といっても車を引く馬は魔獣なのだが。この馬車は通常よりも早く移動出来るので、とても重宝する。

「気を付けてくださいねー!」


 王都の門をくぐり、街道を突っ走っていった。


 ******


 例の森近くについた。馬車はここまでだ。

「ヤナギ、案内してくれるか」

「御意」

「その御意ってやつカッコいいね!」


 ヤナギが先頭を歩き、俺が真ん中、カエデが最後尾だ。タイショーは既に姿消している。タイショーの役割は人間に当てはめると斥候辺りだろうか。

「少し歩いたが、普通の森だな。二十年前と変わっていない」

「そう?色々変わってない?」

「ムッ──!」

 ヤナギが足を止めた。すると目の前の空間に突然タイショーが現れた。

「敵じゃな」

 タイショーを伴って暫く進むと岩場に出た。転がっている岩は半分に割れている物、粉々になっている物が入り乱れていた。

「岩砕竜か」

「そうですのぅ。若、どうするんじゃ?」

「狩ろう。軽い運動だ」

「よーし!がんばるぞい!」

 ──キュキュ!


 フードを被り、準備を整える。その場から一歩進んだ途端、地面が揺れ、地響きが起きる。タイショーがその場から姿を消し、ヤナギが刀を抜く。

 前衛は俺とヤナギで、後衛がカエデ。遊撃がタイショーだ。


 俺は腰から水鉄砲と、柄だけの剣身の無い剣を取り出す。俺の戦い方と普通の剣は相性が悪い。毒液で剣が溶けてしまうことがあるのだ。オリハルコンやミスリル、純粋に硬度が高い魔獣素材の剣でも、繰り返し毒を浴びることで、溶けることは無くても刃先が潰れてしまうことがある。これはそれを解消する為の剣だ。

 魔力を流すと白い剣身が伸びてくる。毒液が付着すれば溶けてしまうが、再度剣身を生成することで無かったことに出来る。

 これは機械兵が扱う剣で、原理は俺は分かっていない。これを作ったのはクランメンバーの一人だ。


 銃身を地面から這い出てきた岩砕竜の横腹に向け、引き金を引く。

 ──パシュッ

 ──パシュパシュパシュッ

 岩砕竜の皮膚は厚い。岩そっくりの体表は見た目通り強固で、並の攻撃は通らない。なので攻撃を通す為に柔らかくする必要がある。

 跳び上がり、横腹に向け剣を降り下ろす。この剣にはもう一つギミックがあり、魔力を推進力として斬撃の威力を増大させることが出来る。


 ──グオオォォォォォオオオオン

 横腹はパックリ割れ、筋肉が剥き出しになっている。そこに熱線が直撃した。肉の焼ける匂いが辺りに漂い、岩砕竜がよろける。

 カエデは光の精霊だ。光を凝縮して打ち出すといったことが出来、後衛としては十分すぎる威力を持つ。


 ──グオオォンッ!

 岩砕竜が雄叫びを上げ、頭を地面に打ち付ける。地面が揺れ、立っていられずに思わず手を付く。そこに横からハンマーのような巨大な尻尾を打ち付けられた。

 俺はそこから数十メートル程、吹っ飛ばされ、木に打ち付けられて止まった。

「イブキッ!大丈夫っ!?」


 豪快に吹っ飛ばされたが、問題ない。スーツが完璧に衝撃を吸収し、ダメージは無い。俺はゲームの中でもそこまで運動神経が言い訳ではなかった。防具でダメージを抑え、ポーションで即時回復し、戦闘を継続する。そういうプレイスタイルだった。当然、避けられる攻撃は避けるが、大抵の攻撃は食らってしまう。

「大丈夫だ」

 木の幹から身体を放し、立ち上がる。武器は両手にしっかりと握られいる。


「キサマァ!若に攻撃しおってからに!そのような尻尾、こうしてくれるわァ!」

 ヤナギが風を纏わせた刀を尻尾の根元に向け、降り下ろした。

 尾はすんなりと刃を通し、重力に従い、地面に落ちた。

 ──グオォオオオオオォ!

 そこにタイショーが脚に絡み付いた。

 尻尾を失い、バランスの取れない岩砕竜は横になる。

「ハァッ!」

 ヤナギが刀を構え、傷口に突き刺した。纏わせた風が高速で流動しており、小石や砂を巻き込んで傷を抉っていく。


 ──グオォォ…

 血が噴き出すのが止まり、岩砕竜は動かなくなった。


「若っ!」

「イブキっ!」

 ──キュウ!

「大丈夫?怪我はない!?」

「若、何処か怪我は?」

「本当に大丈夫だよ。二十年前もこんな戦い方だっただろ?」

「そうだけど、あの衝撃だよ?内臓とか」

「ダメージは無いよ。これからもああいうことがあっても、敵に集中してね?」

「本当に怪我が無いのですか…。そのスーツは若が?」

「うん、龍の鱗とか使ったからね。在庫は全部消えたけど…」

「すごいね!でも後で、本当に怪我はないか調べさせて貰うからね?」

「え。まあ良いか…」

 一応、異性だからと思ったが、精霊はそういうの薄いんだった。

 安心して戦って貰う為には必要なことかもしれないな。


 竜の死骸をポーチに入れ、歩き出した。

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