I 未完
──【 skillful world online 】──
このタイトルは大人数参加型オンラインゲームのタイトルである。
フルダイブ型の装置を用い、意識をゲーム内に落とす。何年か前はただの夢物語であったが、医療、軍事と続き、遂にゲーム業界に進出した。
開発の難しさもあってか機材を揃えるのはかなりの資金力が必要な為、ゲームと言えばVRとは未だなっていない。
このゲームは同時に出た他のタイトルと違って、戦闘がメインではない。
プレイヤーがゲーム開始時に手にする能力は、所謂生産職しか存在しない。生産職と言っても戦うことは出来るので、互いに協力しあいダンジョン等を攻略していくのだ。
ゲームマップは広く、地図の端っこは垂直の崖になっている。眼下は濃い霧に包まれており、それ以上先に進むと死亡判定となってしまう。
そんなゲームだが今日でこの世界は終わり。
サービス終了なのだ。
俺は24歳の頃だっただろうか。βテスターを募集する広告を見て興味を引かれて購入したのだ。このゲームは気が良い人が多くてチャットで会話するだけでも楽しかった思い出がある。三年間というのは短い気もするが、かなり初期のVRゲームなので、今出ている他のゲームに比べてマップが狭い、何もない空間に壁がある等の問題点が幾つか出ていたのだ。それゆえなのかアクティブ人数はそこまで多く無かった。
グラフィックはとても良かったのだが。
俺は今、この世界の最後を見届ける為に"イリギスの街"に来ている。この街はゲームを開始すると初めに訪れる街だ。周りには見知った顔が多い。
初心者の頃は道具屋のおっさんにはよく世話になった。初心者を脱したら余り訪れることが少なくなってしまったが。この街に集まるのは公式イベントで集まる位だろうか。
ちなみに街から街への移動に関しては、"転移"が使える。転移にはゲーム内通貨が必要になるが特定の街や場所にワープすることが出来るのだ。費用が掛かるが一瞬で移動出来る為とても便利、しかしダンジョン内等からは転移出来ない制限がある。
今の俺の分身である姿は中性的な顔立ちをしており、長い金髪を後ろで束ねている。所謂ポニーテールという髪型だ。リアルで俺はこんな長髪はしたことが無い、こんな髪型をしてても似合わないもんな。ちなみに初期のキャラクター設定から長髪だ。
顔には小さいがタトゥーが彫られている。両目の少し下に黒い逆三角を特徴をつける為に入れた。
タトゥーは課金項目から設定出来る。別に何の効果も無いが。
周りを見渡す。外部サイトで呼び掛けていたからこの街に来たのだが、思ったよりプレイヤーが集まってないな。ざっと数えてこの区間だけでも三十人ちょっとって位か。これが過疎化という奴だろうか。
キョロキョロ辺りを見回して居ると、見知った顔が此方に駆けてきた。
「イブキ殿っ!やっと見つけたでござる!」
全身黒づくめの美丈夫が其処には居た。コイツは忍者ロールプレイをしている奴でこのゲームでは一番古い間柄だ。
コイツが言うには自分の顔に似せてキャラを作ったとか、実家が忍者屋敷だとか、名前は本名だとか。本当かよ。
「おう、ソータ。相変わらずだな」
「クランの皆は支部に居るでござるよ」
「おお、あそこか。ありがとさん」
このゲームで良く御世話になる施設がギルドだ。ギルドでは魔獣の討伐や素材の採集を受けて資金を稼ぐことが出来る。また、ギルドを通して他のプレイヤーに依頼をすることも出来る。
貢献度を稼ぐ事によって自分のクランを立ち上げることも出来るのだ。
俺が入っているクランは人数こそ他のクランに負けるが、全員店持ちだ。店はNPCを雇っているので維持は簡単だ。
よくパーティーを組んでダンジョンに潜ったりしているので戦闘力だけで考えたら上位に食い込んでいるだろう。
「ここも久し振りに来たな…」
「イブキ殿、そうなのでござるか?」
「ああ、基本は王都を拠点にしているからな」
「ではカナリア殿とも久し振りでござるな。新規ゲストも居るでござるよ」
「へぇ、よく知ってるな。俺はそんなに戻って来なかったからな…」
「拙者も知ったのは数時間前でござるよ。カナリア殿の弟子になって現実でも使える服飾を学んでいるでござる。」
こんな過疎ったゲームに新参者は珍しい。別のゲームの方が人が沢山居るだろうに。
三メートル程もある両開きの扉を引く。
「お帰りなさいませ。皆様が酒場にてお待ちです」
メイド服を着たNPCが畏まった態度で出迎える。
このメイドはクランリーダーの趣味だ。クランの全拠点と屋敷に配置している女性NPCメイド服を着せている。かなりチャラい性格をしている。
「おう、おっせーぞォ!イブキィ!ソータァ!さぁ飲め飲めェ!あっひゃっひゃっひゃ」
「え、何コレは…」
「レン殿!これは一体どういう状況でござるか!?」
クランリーダーであるレンが十数人のメイド侍従させている。
遠巻きに白けた目を向ける女性陣が居た。
「ああ、イブキくん。コレはねぇ…」
「コイツ、サービス終了するからってさあ『オレの城が電子の海に沈んじまうくらいならもう好感度なんて関係ねぇ!好き放題してやるぜぇ!!』って訳わかんないこと叫んでからずっとこの調子なのよ?」
よく見るとレンの手がメイドの胸や臀部辺りをさ迷っている。NPCにセクハラ行為や性的な発言をすると好感度が大幅に低下する。好感度が低いと露骨に嫌がられたり、仕事を辞められてしまうのだ。そもそもセクハラ防止機能で胸や臀部なんか触れない用になっているので意味が無いのだが。
「うひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!ウサ耳ィ!ウサしっぽォ!」
「こわっ、なんか白目剥いてますよ。通報したほうがいいんじゃないですか?完全に変質者ですよね」
「イブキくん~、けっこう辛辣なこと言うねえ~」
「当然ですわよ。今日は特にキモいですわ」
「あはは、毒舌だねぇ!あっはははは」
「死んだほうがいいわよこんな奴」
「俺は良いと思うぞ。性欲に素直で。実に男らしい」
まあ冗談なんですがね。サービス終了で気でも狂ったのだろうか。
「イブキ殿!通報するのは待つでござる!最後くらい見逃してやるでござる!」
「冗談冗談、流石にしないって」
「ふふっ、最期までこのクランらしいですね」
「おっす、イブキ。高山のダンジョン振りか?」
「あ、お久しぶりです。カナリアさん、ベルグさん。」
確かにこのクランらしいな。このごちゃごちゃ感とか纏まりの無さとか。
「拙者はこの感じ好きでごさるよ」
「俺もだ。居心地がいいからな」
「ん、私も…」
「ふん、詰まらん。ただ嫌いではないがな」
【サービス終了カウントダウンを開始します】
【今までこのゲームを遊んで下さり有り難うございます】
【このゲームの開発には─── 】
「年越しと同時にってのも感慨深いな」
「これ終わったら私神社行くのよ、神社」
「え~?なにそれ~?なんで神社なんですか~?」
「えっ?甘酒とか買わないの?家の近所はそうだったわよ」
「拙者の実家はそういうことしてないでござるな」
「僕は録画したテレビ見ようかな?アレ面白いんだよね」
【 ───ここまで続けられたのもプレイヤーの皆様のお陰です】
【スタッフ一同から改めてお礼申し上げます】
【カウントダウン10】
【9】
【8】
『7!』
『6っ!』
『5!!』
『4~?』
『3!』
『2ぃ!』
『1!』
『0ォ!』
「うわぁぁぁぁん!お前らァ!最高だったぜぇーーー!」
「あっ、正気に戻った」
「今頃…遅い」
「ふん、でもソコは同意しますわ」
視界一杯に眩い光が広がる。
「うわっ、眩しいでござる!」
「なんだか面白い演出だね~」
そのまま光は身体を包み込み───
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真っ黒な空間、目の前には文字が浮かんでいる。
【このゲームはサービス終了しました】
【そのままゴーグルを外してください】
ゴーグルをはずせば、薄暗い部屋だった。
テレビがつけっぱなしになっており、除夜の鐘の音を中継し、垂れ流しになっていた。
「寝るか」
独り言を呟き、横になった。
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