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93.不死王との邂逅 2

 激戦が繰り広げられる中、感心したように傍観するリロの腕が不意に引っ張られ、視線を下ろすと心配そうにしているクルスとクロナが見上げていた。


「あの、止めなくていいんですか?」


「何かあれば私が止めます」


「何かって、互いに負傷してますし…」


「回復魔法が使えるので問題ありません。もっともライラ殿の能力は異質ではありますが…」



 取り合う気もないリロに不服そうに頬を膨らませていると、仕方がないとばかりに肩をすくめる。


「リウム様たちはお2人に強くなったところを見て頂きたいのですよ。我が主より日々精進しているとお言葉を頂いておりますし」


「で、でもだからって…」






「は~い、そこまで~」


 牙をむき出しにして戦う妹たちと、死力を尽くすかのように戦う冒険者仲間たち。どちらかが死ぬまで続くのではないかという戦闘は1つの間の抜けた声によって終止符が打たれた。リロが立つ真上の空間が一瞬歪んだかと思うと、深い青色の靄と共に1人の男が出現する。


「おっす皆さん久しぶり~!」



 2言目にはつい手を止めてしまい、宙を浮く化物に一斉に視線が注がれる。かつて魔の山に辿り着くことなく敗退し、あまつさえ見逃されたあの屈辱的な日を。当人もそれを察してか勝ち誇ったような笑顔を浮かべるが、両足を双子に掴まれることでその表情は脆くも崩れ去る。


「お父様お久しぶりです![巣立ち]のあと、私たちカンジュラに向かったんですよ!!あと冒険者にもなりました!」


「父上の武勇伝もしっかりと伝承に残されていましたよ!あと、お土産もたくさん買ったのでみんなで是非!!」



 地面まで引きずりおろされた後、揺さぶる様に矢継ぎ早に声を掛けられるが[お土産]という単語を敏感に拾い、アニスたちも混沌とした再会へと混ざる。

 戦闘は終了した。これ以上続けるにも意欲が完全に霧散してしまっており、魔物3人も戦闘の意思がすでに見られないことから武器を下ろす勇者一行。しかし突然周囲が影に覆われたことで再び緊張が走る。



「クルス!クロナ!それにリロも!みんな元気そうで何よりだわ!!」


「母上!!」


「お母様!前より大きくなられましたか!?」



 美しい上半身を生やした巨大な鳥、ハーピーの襲来に一同は困惑を隠せないが当たり前のように迎え入れるどころか、母親としてその魔物を慕う姿に本格的に戸惑いを覚える。置いてけぼりの勇者一行を忘れ、ひとしきり再会を喜んだ後にリッチがクロナたちの[お友達]を城へと迎え入れる。




「何で素直についてきちゃったんだろ…」


 歓迎するからついてこい、との一言に拒絶もせずに街へと入った。噂で聞いた通り、難民であった子供から老人まで忙しなく再建に向けて逞しく働いており、時節徘徊するアンデッドに思わず身構えるが周囲の様子は怖がるどころか、むしろ居て当たり前のように振る舞っている。なかには挨拶をしたり、クリスマスツリーのように装飾品を勝手に装備させる者までいた。

 混沌としていながら活気に満ちた街並みに相変わらず混乱しているが、寄り道をせず真っ直ぐボロボロの王城へと向かう。内装も外観同様の姿を晒していたが、彼らが通された応接室だけはかつての姿を取ろ戻したかのように新調されていた。



 それからどれほど時間が経っただろうか、まさか罠にでもかけられたのではと意識し、万が一に備えて脱出の方法や、もしかするとクルスたちが魔物に洗脳されている可能性があってどのように救出するかまで綿密に作戦は立てられた。しかし罠とはいえ、あまりにも待たされた時間は長く、とうとう集中力が限界を越えたところで何名かコクリコクリと頭を揺らしていると閉まっている扉を通り抜けてクルスたちの[父親]が姿を現す。


「いや~ごめんごめん。ちょっと話したらすぐこっち来ようと思ったんだけど、予想以上にクロナたちが冒険者やってたみたいでさ。つい聞き入っちゃってね~……君らとも色々依頼をこなしたって聞いてるよ。その節は俺の息子と娘がお世話になりました」


「あ、いえ、とんでもないです」



 相手の丁寧な物腰に反射的に日本人の対応を取ってしまい、自分が魔物に対して何をしているのかと一瞬固まっていると食事が乗せられたトレーを抱えた女性が何人か入室し、各自の前に添えると頭を下げて退出する。


「この町の生産品で出来た食事だよ。味は知らんけどみんな美味いって言って食べてるから大丈夫でしょ」


 仕切りに食べるように促してくるなか、毒の心配をしつつ恐る恐る口をつけていく。最悪[完全治癒]に備えてライラはあえて手をつけなかったが、仲間が美味しそうに次々と口に食事を運ぶ光景に負け、自身も食事にありつくことにした。


「ふ~。ごちそうさまでした」


「美味かったな~!」


「……あの、そろそろお話を聞かせて頂くことは出来ますか?何故俺たちを呼んだのか、も含めて」


「クルスたち呼んだら友達も連れてくるっていうから連れてきただけだけど?」


「…え、それだけ?」


「それだけ」



 相手が勇者一行であると知っていながら打算もなく、自らの居城に呼び込んだのは自信の表れか、それとも自惚れの結果か。半信半疑で眉をひそめていると男は呆れたように溜息を吐く。


「あーもう面倒くさい。ネタバレすると俺も君らと同じ転生者!だから敵対の意思もないし、女神様の[崇高な使命]を邪魔するつもりもないよ」



 ………………



 ………………………………



「「「「「「え゛え゛えええぇーーーーーーー!?」」」」」」







 アウラに応接室を風魔法で覆ってもらうことで防音対策はバッチリといえ、流石に王城に響くのではないかと心配するほど唐突に大声を上げられるが、上げ終わると置物のように固まってリッチを凝視するだけになってしまった。その沈黙をリオンがやっとの思いで破る。



「転生者…?リッチさん、リッチ様が転生者?」


「そ。さん付けでええよ」


「転生者ってことは…私たちと同じで女神様と出会った、とか?」


「ははは、会ったけど君らとは別ルートなんよなぁ」



 その後紡がれた言葉は決して信じられるものではなかった。

 女神の[間違え]で異世界に生まれ、ミスを覆い隠すためにアンデッドとして復活された男が山中で涅槃を試み、後追いの形で月花神(ゲッカちゃんとしきりに呼んでいたが…)と出会う事になった。その後、リッチ=ロードとしてパワーアップしたのちに先程の巨大なハーピーと運命の出会い(当初は人間サイズだったと語る)を果たし、クロナたちを拾い育て、自身の出鱈目な能力を駆使してハーピーとの間に子供を儲けた。その後は山を離れ、ゲシュタルトに居住を移したという。



「……そこで新たな魔物の配下を手に入れたうえに、太陽神様に説教までしたと」


「あいつらがゲーム感覚でこの世界を作った、ってのはアンデッド以上に間違った倫理観だからね。しかも魂拉致って尻拭いさせようとするし、アホの子だよ……一応俺らの世界の神様の娘らしいけど」



 転生者の末路にショックを覚えるなか、トドメに刺された衝撃の事実。[使命]と謳って剣を握り、チートを授けられたとはいえ、自分たちなりにこの異世界を生き抜き、魔王を倒せとここまで精進してきた。それを、[たかがゲーム]と…



「そ、んな……じゃあ魔王を倒せっていうのも」


「あ、魔王なら会ってきたけど意外と話が通じそうだったよ?」



 その言葉を皮切りにライラが気絶し、その事態に気付けない程勇者一行は真っ白に燃え尽きてしまっていた…

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