91.vs3姉妹
「何が、どうなってるの?」
「…いつも話している僕たちの妹たちです」
クルスの顔に頬ずりをしながら再会をいまだ喜ぶアニスに、クロナと抱きしめ合うカトレア、そして睨むように6人の冒険者と相対するリロとリウムの姿が和かな草原で繰り広げられていた。
先程まで冒険者仲間だと思っていた美しい双子に魔物の仲間が、いや魔物の一味であり、そのうちの1匹と先生と呼ばれていた女騎士が明らかに敵対している。しかしその背後でじゃれあっている双子の姿はまるで家族そのものであり、異世界に転生して以来いまだかつてない光景に戸惑うほかなかった。
「えっと……可愛くて元気いっぱいの……」
「…はい、3人の立派な妹たちです」
「クルスさん、魔物に騙されているのですか!?」
ライラのその一言に目を見開いたかと思うと、流石のクルスも少し不機嫌そうに彼女を見つめる。
「僕とクロナは妹たちが産まれてからずっと一緒に育ってきた兄妹です。たとえライラさんと言えど、妹たちを、家族を侮辱するのは許しませんよ」
「と、とりあえず落ち着こうよみんな」
一触即発の雰囲気にリオンが中央に立ち、互いに飛び掛からないよう牽制する。
ひとまず場が落ち着いたと判断したリオンは、クルスたちに説明をお願いするも、その先の言葉は信じられないものばかりであった。魔物に拾い育てられ、その魔物が産んだ子供と共に住み続けていたこと……
「それで、他にあたしたちから隠していることはあるの?」
「隠していたつもりはありません。お父様とお母様は確かに魔物ですが、私たちをここまで育ててくれましたし、先生にも…」
「ちょっと待ってよ。ハーピーの両親でもいるっていうの?それとリロさんは一体何者なの?クロナさんたちが冒険者になる前から一緒に行動していたと、稽古をつけていたと仰ってるけど」
「私はクルス様とクロナ様の父君の眷属です。我が主の命によりお2人の従者を務めています」
それ以上話すことはないと、鼻を鳴らして腕を組む。出会った当初より距離感があったのはそのためかと納得しつつ、同時にこれまで少なくともクルスたちが騙そうとした素振りを見せたことは一度もなかったことに思い至り、6人の冒険者は武装を解除する。
戦闘を回避できたことにほっと溜息を吐くクルスだがそれも束の間、3人のハーピーがリオンの前に舞い降り、凝らすように彼と彼の仲間を見て回る。
「……貴方たち、クルスお兄様たちと冒険したんでしょ?」
「当然、強いんだよね~?」
「力、見て、あげ、る」
殺意、はないがそれでも闘志を感じた一行は素早く再び武器を身構え、チラリとクルスたちに視線を送るがリロが頷くだけで事態は改善されることはなかった。
「ちょ、3匹…人とも待ってくださ」
「[エアーエッジ]!」
リオンの第6感が彼女たちを止めるように警告を発したが時すでに遅く、リウムが翼をはためかせた瞬間、風をまとった刃がリオンを襲い掛かる。致し方なしと咄嗟に剣で猛威を薙ぎ払い、すかさず背後からアイリスが矢を、スターチが[ファイアーボール]をリウムに向かって放つも2人のハーピーがリウムの前に躍り出る。
「させないよ~。[エアーウォール]!」
3人のハーピーの正面に風圧で生み出された壁が出現し、支援攻撃が彼女たちに届くことなくはじき返される。
「このまま圧してくよ!」
先程まで壁として役割を果たしていた風圧は3人の強力な羽ばたきによって押し出され、勇者たちの眼前まで迫っていくがカンナの[絶対防御]によって阻まれる。見たこともない人間の防御法に驚く3姉妹に向かい、隙を縫って[憤怒]を纏ったガイアと[剣神]リオンが剣を振りかざしながら飛び掛かる。
「一気に行くぞオラー!」
「悪いけど少し眠ってもらうよ!」
「ま、だま、だ」
取り乱すことなく、再び羽根を力強く羽ばたくと羽根が矢のように2人に降り注ぐ。
「ぐぉ!」
「ガイア!リオン!」
咄嗟に薙ぎ払いをかけるも多くの鋭利な羽根が2人の身体に突き刺さり、やっと与えた一撃にご満悦の表情を浮かべていると油断したところへ矢と雷の一閃[ライトニングアロー]が空を浮かんでいる3人に叩き込まれる。
「ギャーーーー!」
「き、効く~~~!」
「油断、大、敵……痛い」
しかし3人は衝撃を受けてはいるが、矢と雷魔法によるダメージをほとんど受けているようには見えない。防護魔法と風を常時纏っていることに気付き、舌打ちするスターチの背後からライラの[完全治癒]によって負傷から復活した2人が戦線に戻ってくる。
「2人とも!あたしが防御して近付くから後ろからついてきて!」
「女の後ろでコソコソ隠れてられるか!」
「ちょ、ガイア今戦闘中…」
「がーー!ムカツク!!」
「手加減~無用~!」
「……[エアーウェーブ]」
3姉妹が大きく息を吸い込むと轟音のような悲鳴が咆哮となって周囲を包み、思わず場外にいるクルスたちも耳を塞ぐ。当然相対していた一行に直撃した衝撃はその比ではなく、身体が引き裂けそうな痛みに耐え凌いでいると前方から凄まじい勢いで回転しながら突撃してくる3姉妹の一撃を、辛うじて発動したカンナの[絶対防御]で威力を軽減する。
「げっ、[スリービッグショット]防がれちゃった!!」
「え~、この攻撃技名あったの~?」
「すぐ、来る!」
ダメージを負うも、3姉妹の轟音を喰らった時点で自身に[完全治癒]をかけ続けたライラは早々に復帰し、仲間たちを急いで回復する。
互いに回復魔法が使え、一撃が一撃として決まらない目も回るような戦闘が、止めに入るに入れない兄と姉の前で引き続き勃発していた。




