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81.焚火を囲んで

「とまぁ、俺らの冒険譚はこんなところだな!」


 リオンが王族であることを隠し、それぞれの出生から今に至るまでの経験談に目を輝かせながらクルスとクロナは話に聞き入っていた。なお、リロは周囲を油断なく警戒しており、聞いていたのかどうかは怪しい。



「皆さんの経歴もなかなかですね」


「はははは、まぁね。ところでクルスさんたちはどうして冒険者になられたのですか?」


「そもそもお生まれは!?」


「え、えっと、僕らは…」


「私たちは森で素晴らしい両親に育てられ、見識を広めるために冒険者となりました。いずれは両親の元に戻りますが」



 キリっと返答をするクロナの気迫に圧されるも、クルスがその後に続く。


「父上も母上も、先生も妹たちも僕たちを愛してくれました。先程調理されたものは美味しいと言いましたが、味を足さずとも家族みんなで食べるご飯が一番美味しかったです」


「……素敵なご家族だったのですね」



 懐かしむように微笑むクルスを恍惚とした表情で見るライラに構わず、話題に一切入ってこないリロにスターチが話しかける。


「リロさんの身のこなしや装備から歴戦の騎士といった風格が漂っていますが、どういった経緯でクロナさんたちとお会いになられたのですか?」


「私が仕えていた国が亡び、行き場を失った私に我が主…クルス様とクロナ様の父君が新たに居場所を与えてくださったのだ」



 慣れ合う気はないといった表情をしていたが、静まり返る場と向けられる視線に仕方なしと問いを返す。しかしそれ以上の言葉を発することはなく、見回りに出るためと森の中へと消えて行った。


「…リロさん、聞いてはいけないことでも聞いてしまったのでしょうか?」


「いえ、普段はもっと余裕のある方なのですが」


「弱体化しても元はあのヤバ気な森だったからな。気を張ってるんじゃないか?俺らがいれば安全なんだがな」


「…今日はもう寝ましょうか。明日早朝に出発しましょう、皆様お休みなさいませ」


 不意にクロナが不機嫌そうに立ち上がり、自分たちのテントに戻ろうとするとクロナも挨拶をして慌ててクルスもついていく。後にはいまだ轟々と燃え上がる焚火と転生者一行が残されるのみとなった。



「あまり詮索するのも良くないと思うわよ。それにクロナさん、ガイアの守ってやる発言に怒ってたっぽいし」


「え゛、俺!?」


「クルスさんたちは私たちと違ってチートに頼らず上り詰めた方々ですよ?まるで私たちより弱いように聞こえるじゃないですか」


 クルスが早々にテントに戻ってしまったことに明らかにガイアに敵意をむき出しにしている少女を抑え、リオンが溜息を吐く。


「明日には目的地に着く予定だから、もっと互いの事を知ってからフォーメーションとか打ち合わせをしようと思っていたんだけど…」


 自然と視線が一点に向き、申し訳なさそうに体躯のいい男が肩を落とす。


「あの山はアレが出てきたからところだからね。あたしらも万が一に備えて準備は怠らないようにしないと」



 結局火の番の順序はいつも通りとし、これといった会話もなくその日の打ち合わせは終了した。








 焚火からかなり離れた距離、周囲を警戒しながらもリロは交信を試みる。


「………我が主。聞こえますか?」




<…はいは~い、聞こえてるよ~。みんな元気してる?>


「おかげさまで」


 真剣そのもののリロとは別に、愉快そうに語り掛ける男の声がリロに響く。


「以前ご教示頂いた強者6名、現在クルス様たちと合流しております」


<マジで!?>



 リロたちが山を去ったのち、入れ替わるように森の中心部、すなわちリッチたちの住処に誰よりも近付いた人間がいると連絡を受けていた。念の為注意するように、とだけ言われたがギルドで出会った瞬間に彼らであるとすぐに理解した。


「始末しますか?」


<何でそんな話になるのさ>


「注意せよ、と伺っておりますし本殿を侵略できるだけの力があるようでしたので」


<だからって始末しろとは言ってないでしょうよ?戦力としては単純に強いし、クルスたちも一応親が…まぁ俺たち魔物だからね。リロの正体含めてバレないようにしないと割と面倒なことになるな、と>


「なればこそ今すぐにでも始末を!!」


<…あの子たち魔王を倒すためにこの世界にいるんだよ?>


「魔王…ですか?」



 転生者であることは伏せたが、彼らが魔王を倒すために日夜修行に明け暮れ、単純にリッチの縄張りへの侵攻もその一環であったこと。そしてリッチが部下を止めなければ確実にアンデッドとして今頃配下になっていた旨を伝える。まだ何か問いたげに言葉を紡ごうとするが、しばしの沈黙の後、リロが気の抜けたように息を吐く。


「分かりました。我が主の脅威にはなりえない存在であること、そして我らの背景を明かさないこと、以上で宜しいでしょうか?」


<オーケー>


「知られてしまった場合の処遇は?」


<リーダーの子は話せば分かると思うし、リロもクロナたちも遅れを取ったりしないでしょ?可能な限り穏便に>


「承知しました…ところでクルス様やクロナ様の近況は本当に報告しなくてもよろしいのですか?私の目を通して知ることも可能ですし…」


<リロやあの子たちから直接聞きたいんだよ。旅しろって言ったのに両親がくっついてたら成長もしないでしょうよ>


「…貴方は本当にアンデッドを総べる者なのですか?」


<不満かい?>


「いえ、不死王というよりは父親という印象の方が強いので…こうして話しているだけで私もたまに立場を忘れてしまいそうに…」


<それでいいんだよ。俺もお前さんも元は人間なんだから。主従関係の前に俺の子供たちの先生でアンデッド的には俺の子供みたいなもんなんだからさ、もっと肩の力を抜きなよ。この際[我が主]なんて言わずにパパって呼んでもいいんだよ?>





 死を超越し、君臨する者。会話をすれば不死王としての面影はどこにも見えないが、こうして出会えたこと、そして人間として主の家族に接せることが彼女にとっては何よりの宝であった。非業の死を迎え、怨念によってのみ突き動かされていた自分の死後にも意味があったのだと。

 感傷に浸っていると、主に名を何度も呼ばれていることに気付く。


「も、申し訳ありません!少々考え事をしてまして…それでは我が主も忙しそうですし、このあたりで」


<あいよ。折角のアフターライフ楽しみなよ、我が娘よ~♪>


「はい、お元気で…………お父さん」


<はー…、い……え、ちょ、リ!?>


「失礼しました!!」



 強引に通信を切り、自分らしくもないと早歩きで焚火を中心に森の中を周回する。しかし、周囲が闇に包まれようとも彼女の顔の赤らみを誤魔化すことはできなかった。

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