76.新たなる仲間、アンデッド版2
「ただいま~」
神の領から帰還し、アンデッド化した信徒たちの姿を確認したことで無事元の場所へ戻ってきたことを確信する。プチ涅槃を実施し、再び何十年と時間が流れていないか不安ではあった。しかし司祭はほんの数時間しか経っていないこと、そして女神に当たり前のように[お会いできる御業に感激した]旨を伝える。恐らく数時間しか経っていないのは、前回3000年分の輪廻転生歴を確認してしまったためだと推測できるが、この世界で涅槃など試した者が存在するわけがないため、確証に至ることは出来ない。
しばらく考え込んでいたが、[御業]に感動しきりであった信徒たちのでざわめきで満ちた教会内を落ち着かせた後にゆっくりと話を切り出す。
「月花神、と太陽神もか。2人に確認取ったところ、君らは俺の眷属に当たるんだと」
[ワイト]という魔物、である部分は伏せたが眷属と聞いて全員が嬉しそうにどよめきを挙げる。努力が報われた、世界の理から外れることができた、などなど感想は様々。しかし最後にもっとも困る質問を司祭に投げられ、苦虫を噛み潰したような顔を悟られないようにするので精一杯であった。
「我ら深淵の教団一同、リッチ様の眷属として認められたことを心から感謝申し上げます。つきましては先程もお願いさせて頂きました件、お導きのほど何卒ご教示いただきたく」
女神たちとの会話で失念していたが、この質問から逃げるためにも簡易涅槃を実行していたことを思い出す。縋るように見てくる138名の信者を前に、教団が崇める偉大なる神にして救世主は英断を下す。
「人に迷惑をかけない限り、やりたいようにやりなさい。ただし攻撃された場合は度合に従ってやり返してよし」
つい数時間前に誕生したばかりの眷属に対する過激な育児放棄であったが、意思がはっきりしているアンデッドの集団を住処に連れ帰るのも問題かと考えた。その言葉を受けた信者たちはどう捉えたのか、祈るような姿勢を無言で続けた後、司祭だけが進み出ると足元に膝間づく。
「慈悲深い我らが王にして神よ。貴方様の思慮深いお言葉、確かにお受け取り仕る。それでは我ら一同、貴方様の教えを広めるために荒野を巡礼して参りますゆえ、これからも加護のほど、どうかお与えくださいますよう何卒宜しくお願い致します」
「……へ?」
「この土地、荒れ果ててはおりますがアンデッドたる我らが神の貫録を見せるには相応しい古風な佇まいと存じます。この地をもってして教団は根を下ろし、リッチ様のための神殿を築きたく」
救世主との呼称から神格化され始めていることに疑問を感じたが、彼らの口ぶりからすると[この国を治めろ]という風に聞こえる。空耳かと思い、聞き返すとその通りだと返事が戻ってくる。
確かに好きにしろ、とは言ったが崇めている神まで巻き添えにしろとは言っていないと声を大にして言いたかったが、盲目かつ狂信的な信者への恐怖は前々世の世界から変わっていない。
本当に自分が教団のトップの存在なのかと疑問に思いながらも、渋々彼らの言い分を承認した。外の世界で何をやらかすか不安は尽きないが、この世界がバカ女神たちのおかげですでに世紀末化しているなら問題ないだろうと半ば現実逃避気味に下した決断であった。
それにそろそろ古巣を離れ、アウラや娘たちに新しい景色を見せるのに引っ越しをするのもありだろう。妖精たちは木で生い茂っているエリアに住まわせればいい。そう自分に言い聞かせ、可能な限り物事をいい方向へと考えるように努める。
その後、女神から聞いた深淵の教団の特性、そして使用可能な魔法を伝えると[リッチの加護]であると嬉々として旅立っていった。紫の神官のような服を着込んだ集団がゾロゾロとゲシュタルトの街を出ていくのは圧巻であった。
「…本当に何しに行くんだか」
溜息を吐きつつ、いままでのやり取りをアウラたちにもすでに共有されていることで部下にふと視線を移す。新居が見つかったことを喜べばいいのか、教団という厄介事に巻き込まれたことを悲しむべきなのか。
いずれにせよ、すでに決まっている答えに関してやきもきするのもおかしな話。煩わしそうに後頭部を掻きつつすでに引っ越し先の間取りをどのように使用するか思いを馳せ、そのまま家族の元へと転移する。




