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74.深淵の教団

【死霊術の箱庭】



 さみしいさみしい醜い老人、暗い暗い森をフラフラと。



 ある日カワイイ男の子、もう1人カワイイ女の子、醜い老人と会ってしまい、


 それから可愛い子どもたち、見ることも聞くこともなくなった。





 ある日街に知らない子、1人はカワイイ男の子、もう1人カワイイ女の子、


 2人そろってフラフラと。


 かわいそうにと近付くと、みんなも一緒にフラフラと。



 怖くなった街の人、家にこもって隠れてた。


「連れて行こう、連れて行こう」


 醜いしわがれ声が街にひびき、窓をのぞくと醜い醜い男の顔が……




「イッしョにオイでよ、わしゃサミしいんダヨぉォおオオ!」




 またみんないなくなっちゃった。また誰か探さないと。


 さみしいさみしい醜い老人、暗い暗い街の中、あたらしい友達とフラフラと。


 誰もいない道をフラフラと。



 ~作者~ 不明
















「おおおおぉぉぉ!偉大なる我らが救世主よ、我らの前に御身を遣わされるお心遣い、深淵の教団一同深く感謝申し上げさせて頂きます!!」



 司祭がアンデッド化した後、祭壇の前にいるよう懇願されたリッチは膝間づく司祭と全信者を前に困惑を隠すので精一杯であった。リロはデュラハンとしてのアンデッド、いわば特例であったと認識していたが、いつまでも頭を上げようとしない眼前の司祭はリッチが直接アンデッド化を促した存在。


 いままで言葉どころか、意思を持ったアンデッドは1体もいなかった。しかし司祭は人間のように立ち振る舞う上で会話もこなし、信者たちに至っては復活の呪文を唱えてもいないはずが、司祭と同様に動き回る上に惜しみない称賛をリッチに送っていた。

 なかには感極まって泣くような動作をした者までいた。



「崇拝してくれるのは悪い気はしないけど、頭上げてもらえるかな?」


「「「「おおおおぉぉぉ!なんと慈悲深い!」」」」


「いや、いいから。とりあえず君たちのことを教えてもらえるかな、出来れば始めから」


「…申し訳ございませんでした、改めてご紹介させて頂きましょう。我らは世と名の両方を捨て、偉大なる我らが救世主に救いを求めた哀れな魂の群れ、[深淵の教団]と掲げさせて頂いております。私はこの教団員137名をまとめ、司祭の役割を務めております。重ね重ね、不死王リッチ=ロード様にお会いできたこと、一同を代表してお礼申し上げます」





 始まりは司祭が務めていた小さな村からであった。


 村の規模相応の教会の神父をしていた[司祭]の平穏は、1つの国家間の戦争から始まる。間に挟まれた無関係な村は瞬く間に滅び去り、生き残った者は新たに住める村や町を目指して彷徨う。道中、魔物に襲われることもあれば戦に巻き込まれることもあり、都市に辿り着く頃には生き残ったのは神父ただ1人だった。


 その都市にて神官職につけた[司祭]は再び安穏とした日々を送ることができ、救えなかった村の者たちの分も国につくし、ついには聖人として認定されるようになった。



 自身の努力が、救えなかった村の者たちの分の頑張りが、新たな街で称号として残ったことに誇りを持っていた。



 しかしその努力もすぐに水の泡と帰す。



 魔族の侵攻によりあっという間に国は滅び、彼が長年仕えてきた人々も、毎日挨拶を交わした人々も、一夜のうちに灰となってこの世から消えた。




 この世界にはもう何もない。




 それが彼の辿り着いた結論であった。

 希望も、生きる喜びも、何もかもが無情のこの世界。歴史を紐解いても平和に関する記述は一切なく、滅んでいく都市、新しく生まれた都市、その目まぐるしい血塗れた過去を繰り返すことに意味があるのか?この世界の輪廻に入ろうとまたこの醜く歪んだ世界に戻らねばならないのなら…。



 彼は[終わり]を選んだ。



 輪廻に戻ることなく完全なる無に還るため、縋ったのが永遠の終わりを支配する者。若かりし頃、師の教えで叩き込まれた邪悪という存在、その時の、そしていままでの彼を支えた唯一無二の創造主、[不死王リッチ=ロード]。

この世の無情を説きながら諸国を回り、徐々に集まった137名の信者たちのもとにある時、月花神のお告げがあった。


 近い未来、必ずや救い主が教団の前に姿を現すであろうと。


 その言葉を聞いた彼らは救い主に近付くべく、最後の試練を決行した。苦しみを乗り越えてこそ混沌から身を清められるのだと滅んだゲシュタルトに身を寄せ、1日2食の木の実以外は飲まず食わず、そしてひたすら不死王リッチ=ロードへの救済を無心に祈り続ける毎日を5年も行っていた。



 次々と物言わぬ身と果てていくなか、その命がなくなる寸前まで絶望に飲まれた者は1人もいなかったという。




「以上が我ら深淵の教団創設の経緯となります」


 137名の信者を背後に控え、淡々と語る司祭の言葉にただただ息を呑むことしかできなかった。



「我ら最後の試練に耐え、こうして[終わり]に触れることができたこと、感謝の言葉を表現しきれませぬが…」


「ちょっと待って」


 人間のように振る舞うどころかガッツリ生前の記憶までも有し、確認しただけでも信者全員が司祭と同様に記憶をはっきり残していた。いまだかつてないアンデッド化に戸惑いつつ、1つ疑問を思い出した。



「今回[最後の試練]を決行したのはゲッカちゃ…月花神のお告げがあったから、って言ったよね?」


「左様でございます。つきましては是非リッチ=ロード様に永劫の終わりへと導いていただきたく」


「ちょっと待てって。そもそも俺はリッチ=ロードではあるけど、そんな大層の存在じゃあないわけで」


「つまり、我らは終わりに値しない存在であるということでしょうか!?もしも間違いがあるのでしたらご指摘くださいませ!お頼み申し上げます!!どうか、我ら一同を永劫の終わりへと!」


 どうか、どうか、と背後にいた信者たちも一斉に不安の声を上げ始める。このままでは悪霊になりかねないと判断したが、だからといって[ほぼ同じ境遇]でこの世界に涙を流し、最後を迎えたアンデッドの同胞を見捨てるわけにはいかない。



 古城に懇願する声が響き渡る中、信者たちを鎮める。




「全員ちょっと待った!!!……ありがとう。君らの思いと俺への忠誠は五臓六腑に染み渡った。しかし、まずは確認しなければならないことがある。それまでココで待っていてほしい」


「確認、でございますか?」



 救世主が何を言い出すのか、ざわざわと話し出すが次の言葉を待つために自然と空間が静まり返る。






「これから月花神に会いに行ってくる」

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