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07.行き着く先

 [冒険者ギルド]から受けた依頼は1つ。所属不明の集団が森の中を徘徊しているのが目撃され、ただちに調査を要する。山賊か魔物か、判断は出来ないが非常に危険である可能性があるため調査だけに留めること。なお、殲滅が可能であると判断できる場合、全責任をもって対処にあたること。

 森から離れた街にて受注した依頼を胸に彼らは慎重に歩みを進め、そして発見されるよりも前に目標の軍勢を発見することができた。あまりにも異様な風貌の集団に一瞬たじろぐも、気を引き締めなおしてすぐさま迎撃のための配置へとつく。


 気付かれることなく彼らの進行方向へと回ると茂みの中へ隠れ、その時が訪れるまで息を殺して待ち続ける。やがて標的の足音を感じるようになり、茂みにあと数歩で届くという距離に差し掛かった時、冒険者たちが持つ2つの杖から光が放たれた。




「大したことなくてよかったぜ」


「いや、あんた最後の数体倒しただけでしょ」


 5人の冒険者は目の前の黒焦げた消し炭の野原を歩き回りつつ、撃ち漏らしがいないかを確認していた。あれだけの数の魔物を瞬時に燃やし尽くしたつもりでも中には着火したまま襲ってくる者もおり、恐ろしい光景に怯みつつも近付いてきた彼らを次々と切り伏せて行った。

 やがて草を踏みしめる音や地面をのたうち回る魔物の姿が完全に静止した時、一方的な戦闘が終わりを告げたことを知る。


「調査して殲滅できれば追加報酬…か」


「やっぱり…おかしい…よ」


「アンデッドがあれだけの数出現して…しかも隊列を組むなんて聞いたことがないよ」


「偵察……ゴブリンと獣…加わってた」



 弓をもつ女性、そして剣と杖をそれぞれ所持する男女が魔物の死を確認していると残る2人の男女が放った唐突に作業が中断されてしまう。戦闘に勝利したことを祝うでもなく、先程まで立ち並んでいた魔物たちの姿を思い起こしながら腕を組む。

 アンデッドの出現自体が稀であるというのに軍隊のように森の中を突き進み、さらには魔物や獣のアンデッド化が起きている前例は彼らの知識にはない。あれだけの数が自然発生したとは考えられず、そうなれば考えられる理論は1つだけ。それを無意識に示唆する2人に対して、探索を中断した2人の男女が応対する。



「…つまり誰かが復活させて指揮を取ってたってことか?」


「あ、あんな意思のない奴らを従えるってなら今頃人間はとっくに滅んでるって!それにアンデッドなんてほとんど見ないし、たまたま集まっただけでしょ!」


 全員いまだに釈然とすることはなかったが、少なくとも脅威が去った事実だけでも安堵を覚える。あれだけの数とはいえ動きは緩慢であり、さらに不意打ちを仕掛けたことで一切の被害もなしに任務を終えることも出来た。過ぎ去った緊張に再び安堵し、不安を打ち消すかのように次々と言葉が入り混じる。



「難しいこと考えんな!さっさとギルドに報告して酒場に行こうぜ!」


「…そんなだからいつまで経ってもボロイ装備のままなんだよ」


 陽気な笑い声を森に響かせ、すでに街へ向けて歩き出し始めた一行の背後を遅れて弓持ちの女性がついていく。しかし彼女の顔には他の冒険者が浮かべているような笑顔はなく、誰に聞かせるでなくぼそっと呟く。

 


「…1体、確かに私たちと目が合った時に逃げ出したように見えたんだがな」









 一方その頃。


 アンデッド2体を抱えながらなりふり構わず、今もなお続く森の中を疾走するローブ姿のアンデッドがいた。幸いなことに体力が底を尽きることはなく、目的地もなくがむしゃらに前方へと向かうが一瞬で軍勢を壊滅させたあの人間が追ってきていると思うと恐怖で足を止めることができなかった。

 抱えられているアンデッドが振り回されているせいで滑稽なことになっていたが、本人はそれどころではなかった。




 そして無心で走り続けた先の木の数が減っていき、やがて完全に開けた場所へと出たことを認識した時に洞窟が見えてきた。徐々にスピードを落とし、ゆっくりと確かめるように洞窟の前で足を止める。抱えているアンデッドたちを下ろすと彼らもゆっくりと立ち上がる。


 一刻も早く隠れたい、そう思っていた彼にはそこが聖地のように見えた。




 だがまだ安全とはいえない。アンデッドによって勝ち続けたのは質よりも量のため、今の手持ちは2体のみ。戦う心得がある者が目の前の素敵物件に先に住みついていた場合勝てる可能性は低い。先程の苦い敗戦が何度も頭の中を駆け巡るが、これ以上逃げ回ってもまたいつ、他の敵に出会ってしまうか分かったものではない。

 どれほど恐れても前に進むしかない、そう自分に言い聞かせながらまずは剣持ちのアンデッドを洞窟へ先行させ、弓持ちのアンデッドに周囲を警戒させる。本人は洞窟前でいつでも走り出せるようクラウチポジションで待機し、中から異音が発すればいつでも森の中へと失踪できる準備をしていた。



 しかしいつまで経っても異音も同胞も洞窟から戻ってくる気配が感じられず、集中は乱れ始めた頃に全く関係ないことを考え始める。この2体のアンデッドに名前をつけるべきではないか、と。装備を見る限りではミランダ砦を攻め込んできた兵の物ではあったが過去のことは忘れ、悩むこともなくあっさりと剣持ちを[トム]、弓持ちを[ジェリー]と名付けたことに満足する頃に足音が聞こえてきた。


 一瞬身体が強張るが、ゆっくりと振り返るとそこには無傷で洞窟から悠々と出てくるトムの姿があった。その様子から洞窟内部が安全であることを確信し、2体について来るように命じると我が物顔で洞窟へと入っていく。


 しかしその足は大地を踏みしめることはなく、空を蹴ったかと思うとそのまま下方へと落下した。

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