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69.悪夢の再来

 鬱蒼と生い茂る森の中、某自殺名所の樹海はこんな風なのだろうかと背筋に寒気が走りつつ黙々と一行は魔の山へと向かっていた。





 先日、日夜依頼をこなし続けてようやく[ランクB]へ昇格した勇者一行は調査依頼を選択したのち、早速森の中へと入って行った。[チート]を保有する彼らからすれば食糧さえ購入していれば、すぐにでも行動を起こすことができる。


 そして依頼された区域の調査も終えようとしていた。



「さて、調査も終わったし……行っちまうか?」


「…マデンさんのチームみたいにならないでしょうか?」


「彼らを軽視するつもりはありませんが、チートを持つか持たないか、で俺は大分違うと思いますよ?」


「それにこんな所でつまずくようじゃ、あたしたち一生魔王何て倒せないんじゃないかな?」


 ライラ以外が軽快に笑い飛ばす中、リオンとアイリスは慎重になっていた。少し欲をかいて目的地よりさらに奥を進んでいるのだが、先程まで出現していた凶悪な魔物が一切出なくなったのだ。決して邪悪な気配が流れているわけではないが、逆にそれが不気味さを際立てていた。


「どうするリオン?私と同じこと考えてるんでしょ?」


「…[索敵]には何も反応がないって話だよね。慎重に進んでアイリスがやばいって判断したらすぐに離脱できる準備を。スターチ、後方のエスケープルートを確保しておいて」


「おいおい、勇者一行がそんな逃げ腰でどうするよ?」


「あたしらがこんなところでつまずくようじゃ魔王にすら勝てないってことが分からないの?」


「ガイアさんたちの恩恵で攻め勝つのは間違ってないと思いますが、死んでしまっては私の[完全治癒]も役に立ちません。それにここで命を落としても何の意味もありませんし、冒険者ギルドもここから先を禁止区域に指定した事には意味があるはずです」



 普段愛想笑いを浮かべるだけのライラはここぞと言う時にはっきりと述べるため、聖女効果も相まって一行はその説教に頷くしかない。


 [状況次第で即撤退]。しかしそのことを念頭に大胆かつ慎重に奥へと進んでいく様子は、すでに[彼]の縄張りに入ってしまったことで彼らを取り囲む[木]によって観察されていた。







<リッチ様、霊山へ向けて人間が6名、そちらに向かっております>


 ロード一家と[シリトリ]を実践しているとアンデッドの部下を通じて、妖精の代表格ニーシャより伝達が入る。


<始末の許可を>


「へー、人間がここまで来るなんて初めてね…食べていいのかしら?」


「人間って美味しいの?私たちで狩りに行っていい!?」


「む、ム、む~…カトレア~、[む]で始まる言葉って他にあった~?」


「他力、本願、ダ、メ」



 思い思いに話すなか、家長はしばし思案したのち、アンデッドの部下を差し向けることにした。アウラとリウムは不満そうにしていたが、クルスたちが育ってから旅立つまで一度も人間にここまで侵入されたことはない。その事実が彼の決断の根拠であることを示すと渋々2人は従った。


「今回は我慢しなさい。それに戦闘くらいなら見せてやるから」


 2人の前に手を差し出すとソコから青い球体の空間が現れ、侵入者へ全力で向かう部下の視点が複数映し出されていた。また、妖精たちには手を出さないように伝えてある。


「さ~てと、お手並み拝見」









「敵が複数迫ってきて、いやかなり多い!数えきれない!?」


 前方と左右から[索敵]に突如、無数の反応を拾ったアイリスは立ち止まると即座に弓を構える。彼女の異常なまでの警戒態勢に倣って、他の面々も武器を取り出す。


「どこからだ!?数は?」


「左右と正面から!数は多すぎて分からない!」


 緊張が走る中、徐々に敵の正体が見えてくる。鎧を付けている物や武器だけを持つ物と多種多様のソレが全速力で一行に向かってくる。


「げ、アンデッドかよ。しかもあいつらってこんなに早いの!?映画の走るゾンビってフィクションじゃなかったのかよ?」


「バカなこと言ってる場合じゃないよ!左右から来てる集団が背後に回ろうとしてる。このままだと囲まれるよ!!」


「俺に任せてください!」



 布を軽く羽織るアンデッドが次々と彼らの退路を断つなか、雷魔法[サンダーストーム]がスターチの指先から放たれ、雷が雨のように一団の頭上から降り注ぐ。しかし、


「…嘘…!?」


 アンデッドたちは魔法を使うのか、[魔障壁]を一行との間に出現させ攻撃魔法を消し去る。さらに魔障壁の特性上、物理的な接触も防がれてしまい、学院で学んだことに何1つ該当しない魔物の出現に動揺を覚える。


「アンデッドは魔法も使えなければ走る事なんて出来ないはず…こいつら一体…」


 ブツブツ話すスターチをカンナが強引に引っ張り、戦況に集中するよう怒鳴りつける。後方の退路が絶たれた今、目の前の敵に集中するしかないと。

 その言葉に全員が怒声を上げながら敵へ向かっていく。









 無言のアンデッド集団に向かって勇者一行はいまだに戦いを繰り広げていた。


 [剣神]リオンと[憤怒]ガイアは加護を駆使しつつ敵陣の中へ切り込んでいき、アイリスとスターチは2人を援護するように矢や攻撃魔法を的確にアンデッドへ当てていく。少しでも傷ついたらすぐさまライラに回復してもらい、後方支援の3人を[絶対防御]でカンナが守りつつ近付くアンデッドを片手に持つ剣で薙ぎ払う。


 しかし、戦えど戦えど一向に数が減る気配はない。むしろ倒したアンデッドを再び目撃しているような気がするのだが、見た目が単純に似ているのか、それとも…。


「あの、あそこで戦っているアンデッド、さっきも見ませんでした?」


「やはりそう思いますか?」


「…もしかして……ううん」



 前線で戦う2人には聞こえていないが、周囲を窺いながら戦う後方支援組には不吉な予感を考えるだけの余裕があり、自身の考察に不安がよぎる。




[アンデッドを召喚し続けている敵がいるのではないか]



 魔王、いやこんな辺境にいるとは思えないがまさか同格の敵がいるのか、それとも中ボスクラスで本体すら見えないのにこの有様なのか。加護持ちといえど体力もいずれ尽きる、その事実にセーブポイントなどという救済手段もなく、



 死ぬ。



 その言葉が頭の中を駆け巡る。

 さらに相手はアンデッドの、死霊術の使い手。死んだ自分たちもこの物言わぬ集団に参列させられるのか、そう考えると4人の顔にはうっすらと絶望とライラの目には涙が溢れてくる。



 こんなところで終わってしまうのか、何が勇者かと自身を嘲笑していると…


「……え?」


 背後の魔障壁は相変わらず発動されたままだが、アンデッドが攻撃を止めた。それどころかゆっくり勇者一行から距離を取り始めている。




 目の前の現象に混乱している勇者たちは状況を把握する暇もなく、目の前に男が突如出現する。

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