67.夢の国へ
「つ、着いたーー!」
[城塞都市カンジュラ]
父親たるリッチ=ロードの華麗な活躍によって救われた国。寝物語に何度もせがんで聞かせてもらい、死ぬ前に一度は必ず訪れたいとずっと思っていた…アンデッド化すればと思ったが父親はそれだけは許してもらえない。何年経ったか分からないので滅んでいるかもしれないと、当事者は語っていたが想像していた以上の立派な佇まいに感動すら覚えた。
「ここが我が主が守った都市か…なかなか壮観だな」
「父上は滅んでないかって心配されてましたけど、無事残っていてよかったですね」
「お父様が守ったのですから、何年経とうと廃れているなんてありえないです!」
「…おい、いつまでそこで立っているんだ?」
思い思いに都市を眺めていると、門前に立つ衛兵が不審気に声をかけてくる。到着するや、いつまでも外壁を眺めている傷だらけの3人組は一向に入場する気配がなかった。世間知らずと言った風に見えるが、露出する肌から見える節々の生傷にどれほど過激な戦闘を潜り抜けてきたのかが容易に想像できた。
門番の存在にやっと気付いた一行は彼の元へ向かうが、身分証明や金銭を一切身に着けていない状態であった。このままでは入れることができないと言い放った時の落胆と殺意の波動に一瞬気圧されるが、長年衛兵として働いてきたプライドから、冒険者ギルドに登録することで出入りが自由になる旨を何とか伝え、了承してくれた美形な一行を引き連れ、街の中へと入る。
街の中は活気で満ち溢れており、道行く人も店頭で声を上げている店主も平穏を謳歌している。初めて人の営みに触れる不安もとうに吹き飛び、周囲に溶け込みながらキョロキョロ見回しながら衛兵の後ろをついていく。
「ここが冒険者ギルドだ。後は受付に行けば全部やってくれるはずだからな。頑張ってくれよ」
ニコっと笑顔を見せたのち、元来た道を戻っていくが何かを思い出したように振り返る。
「おー忘れるところだった。[神聖帝国カンジュラ]へようこそ!!蒼き鳥の夢幻の鼠による加護があらんことを…」
言い終えると再び歩き出して行き、その言葉を聞いた一行は互いにニヤニヤしながら見合わせる。
「「「青い鳥と夢のねずみ!!」」」
リッチの偉業が今もなお、この国に残っていることに満足した3人は冒険者ギルドへと入っていく。
室内は酒場のような様相をしているが、あくまでも待ち合わせや受付待ちとして机が並んでいるだけであって、座っている面々はゴツい強面の男が多い。ちらほらと女性の姿や若い男性の姿もあるが、アンデッドなと凶悪な魔物に囲まれて育った彼女たちからすれば、街で賑わっている人たちより荒事に向いているのだろう程度の認識しかなかった。
「あら、見慣れない方々ですね。冒険者ギルドは初めてですか?」
受付に進むと服をピッチリと着込んでいる豊満な女性が座っており、クロナたちは思わず胸に釘付けになる。
「クロナ様、クルス様。あまり見続けると失礼に当たりますよ?」
その一言に慌てて目線を逸らすも、受付の女性は気にしてないと手を縦に振って笑う。シイラと名乗る受付はざっくりとしたギルドの説明をし、早速ギルドメンバーとしての登録を行ってもらった。
[冒険者ギルド]
前科があろうとなかろうと冒険者になる事は出来るが、ギルドカードに付与される追跡魔法によって今後倒した魔物が自動で追記され、人間を殺害した場合も同様に自動追記される。街に入る場合、またはギルド報告を行う際、確実に見せなければならないため罪を隠すことは出来ない。
ランクはAからFまで。簡単な雑用から凶悪な魔物退治まで、ランクが変われば多種多様な依頼を受けることが出来る。パーティを組むこともできるし、別パーティと依頼をこなすことも出来るが、ランクが違う場合はランクレベルは1つ上か下、または同等でなければならない。
他にも色々教わったが、ここだけは覚えておいてくださいと、シイラはカウンターから身を乗り出してきた。
「カンジュラから少し離れた森の中へは決して入らないでください。あそこに入れるのはランクB以上の冒険者だけです。宜しいですね?」
「わ、分かりました」
自分たちはその森から出てきました、などとても言えず、愛想笑いをしたところで無事ギルドカードを発行してもらえた。これから体験するであろう冒険の数々、そして世界をこれから見て周り、胸を張って両親と妹たちに冒険譚を聞かせるんだといきり立つ中、早速掲示板へ依頼を見に行った。
「む~、魔物退治はまださせてもらえないようですね」
「仕方ありませんよ。我々のランクは最低値、焦らずゆっくりやっていきましょう」
「こうして地道にやることもきっとお土産話につながると思いますし、はりきって依頼をこなしましょう!」
そして薬草採取の依頼を数枚取り、ギルドを出ようとしたところで5人の男に道を遮られた。
「やぁお嬢さんたち。冒険者になるのは初めてなんだってね?よかったら手とり足とり教えてあげようか?」
ニヤニヤと舐めるような視線を投げてくるも、結構ですとスルリと避けて通る。人間も魔物も同じ生き物であり、単純に敵か味方かの違いだと両親に育てられたうえで達したクルスたちの結論であった。目の前の男共がどのような人種であれ、現状は[敵]として相手にするまでもないと判断していた。
しかしそれでもなお3人の前に立ち塞がろうとする男たちに、リロが受付に問いかける。
「シイラ殿。他者の意思を無視し、道をふさぐ輩を成敗することは規則に反するのか?」
リロの問いかけに、何かあればすぐにでも飛び出そうと身構えていたシイラは笑顔で親指を地面へと向ける。
「感謝する」
次の瞬間、ランスを背から抜くと同時に目の前にいた男たちは横薙ぎにされ、建物の反対側の壁に叩きつけられていた。
「お待たせしました。それでは参りましょう」
泡を吹く男たちと、あわよくば間に入って恩を売ろうと考えていた者たちは唖然としながら新人3名が楽しそうにギルドを出て行くのを眺めるしかなかった。




