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66.巣立ち

「傷、本当に直さなくてよかったの?」



 出発直後、心配そうにアウラと3姉妹はクロナたちの周囲をグルグル歩いている。成人の儀でつけられた傷は深くはないが放っておけば痕が残りそうなものであり、顔や腕、身体など所々に傷跡が刻まれていた。アウラたちが回復魔法をかけようとしても、速やかに断られてしまった。


「いいんです。父上や母上との立派な思い出の1つですから…残しておきたいんです」


 歴戦の戦士のように胸を張る2人を前に、DVの痕みたいでちょっと嫌だな、と心中で毒づくリッチの言葉はこの場にいる誰も聞くことはない。



「…それでは行ってまいります」


「あ、待ちなさい!」


 颯爽と出発しようとする3人をアウラが止める。


「クロナ、この世全ての秘宝。クルス、先を照らす光。それが貴方たちの名前……元気にやるのよ?」


「「はい!」」



 泣きそうになるのを堪えながらしっかりとアウラを見つめ、様子を見ながら間に割って入ったリッチは2人にアクセサリーを渡す。


「お守り」


「…カッコいいです…」


 ネックレスのように首にかけられるようになっているソレは、熊の爪が6本ぶら下がっており、中央に彫り物が施された石が設置されていた。


「それ!お父さんに言われて私たちで頑張って彫ったのよ!」


「みんな無事でいてね~!」


「絶対、帰って、きて、ね」



 約束する!そう言って全員で円陣を組むように互いを抱きしめると、3人は森へと向かっていった。クルスたちが父親の偉業を見たい、と主張したカンジュラの方角へ向けて。


「父上!母上!アニスたち!いってきまーす!」


「2人は必ず護衛致しますゆえ、安心してくださいませ!我が主よ!」


「お母様、カトレアたちもお元気でー!私はお父様に相応しい女になれるよう世界を見て磨いてきます!」


 最後に不穏な言葉が聞こえた気がしたが何事もなかったように一行は、旅立つ3名が森の中へと姿を完全に消すまで手と羽を振り続けた。








「…行っちゃったね」


「そうね」


「私たちも~お兄ちゃんたちと一緒に~いつか外の世界見て回れる~?」


「成人の儀で勝てたらな」


「無理、ゲー、でも、頑張、る」


「そうと決まったらすぐ特訓だね!お父さん、部下の子貸して!!」



 ブッチを山の裏に配置した旨を伝えると疾風の如く、3人は消え去った。


「クロナたちが旅立ってすぐだと言うのに、本当元気な子たちだよ」


「…本当に大きくなったわね、みんな。心も身体も」


「本当にね」


「クルスたちを拾ってきた時に捨ててこいって言われた時はどうしようかと思ったわ」


「その話を今持ちだしますか…ごめんなさい」


「いいのよ。今があるんだから」



 意地悪く笑った後、言葉を交わすことなく夫婦はいつまでのクルスたちが去って行った方向を見ながら佇んでいた。


 またひょっこり現れるような気がしながら。













「私たち、もっとおりじなりてぃを育てた方がいいと思うの」


 一通りブッチとの特訓を終えた3姉妹は休憩をしつつ、いつか外に出られる日のことに思いを馳せながら会話を弾ませる。


「おりじな~ってお父さんが言ってた個性ってやつだね~」


「個性、最強」



 クルスやクロナはともに同じ魔法が使えるが、それぞれ槍と双剣という戦闘スタイルを確立している。対して3姉妹は一通りアウラと同じことは出来るが、全て下位互換なうえ、そもそも身体のサイズが違う。


「でも~個性で強くってどうやってやるの~?」


「お父さんの部下の子はかいぞーして強くなってるみたいだけど」


「そ、れ、多分、ウチら、だ、と、死ぬ」



 その後もやいのやいのと議論を重ねたが明確な答えが出ず、ひとまず各自の宿題ということで結論を迎えた。



「でも強くならなきゃね~」


「絶、対」


「ふふん、なんたって」


「「「クルスお兄ちゃんのお嫁さんになるんだからね!!」」」


「お兄ちゃん倒して認めてもらえないと~」」


「その、ため、日々、努力」


「待っててよお兄ちゃん!地獄の果てまで追いかけ回して、お父さんやお母さんみたいに幸せなふーふになってやるんだから!」



 ハーピーの繁殖上の本能と母親の現状の雄との共存スタイル、2つが交わった結果自然と出た3姉妹の回答であった。






「クシュンッ!」


「お兄様、風邪かしら?」


「いけませんよクルス様!まだ出発して間もないのに無理をされては。一度戻りますか?」


「いや、大丈夫。ちょっと背筋が一瞬凍ったような気がして」



 周囲に敵対者でもいるのか。しかし3人はいまだリッチの縄張りの範囲におり、たまに巡回中のアンデッドや妖精を見かけては手を振っていた。



「とにかく無理はなさらないように」


「分かってますよ。ご心配おかけしました」


「さ、お兄様も無事なようですし、早くお父様が救った国を見に行きましょう!」



 引っ張るように2人の腕を引くクロナに、苦笑しながら2人は森の出口へと順調に向かっていく。

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