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64.決着

 どれほど戦っていただろうか。

 今朝方、唐突に始められた成人の儀は気付けばすでに日が沈むまでの時間を要していた。



 満身創痍、とはいわないが無数の傷を負い、肩で息をするクルスとクロナ。しかし相対しているウラドであった物はアンデッド。傷を負わされ、腕や足がもげようとも、どれほど激しい動きをしようと疲れも恐れも知らず、機能を停止させられるまで命令に従う。



 ここまでの戦いで双子にも戦果はあった。斧を持っていた腕、腹部から生えた片腕、さらには頭を半分ほど吹き飛ばしていた。しかしこれ以上時間をかければ確実に体力差で負ける。




 次の一撃で決められなければクルスたちは負ける。



 成人の儀としては十分な成果ではあったが、肉迫する戦闘に誰一人として言葉を発することはなかった。




 いつ終わるのかと思われた戦い、それでも勝負は一瞬でつく。





 クルスが風魔法を併用し、追い風を受けて勢いよく槍をウラドに投擲するが、槍を回転しながら華麗に避け、その勢いのまま一気にクルスに詰め寄る。そしてリッチがいつの日か見た光景のように、メイスが高らかに振り上げられている。

 3姉妹は言わずもがな、リロとアウラまでも飛び出しそうになるが、次の瞬間には全員が目を見開いていた。



 ゴシャ




 鈍い音を立ててメイスは振り下ろされた。

 しかし直撃した先はクルスではない。握られたメイスは残っていた腕ごと切断され、武器は地面に落下していた。


 クルスは腰に差していた短刀で腕を薙ぎ払い、腕を失いバランスを崩したウラドの身体に深々と刃を突き立てる。それでもなお腹部に残った腕から炎を形成し、同時にクルスの頭に喰らいつこうとあらゆる抵抗を試みるウラドの身体を、いつの間にか接近していたクロナが双剣で背後から瞬時に切り刻んでいく。



 その場に残ったのは地面に横たわる元ウラドであった肉塊と、倒したという現実にいまだ身体が実感できず、激しく息を乱した双子の姿であった。




「……勝負あり!」





 リッチの一言によっていつ終わるとも分からない長き戦いにやっと終止符が打たれたことに気付き、その場でクルスたちは腰を抜かして地面に座り込む。


「うわぁあーーーーーん!!」


「うえぇーーーん、心配したよ~!」


「だ、い、じょ、ぶ!?」


 座り込むも休む暇はなく、3姉妹の奇襲によってウラドにすら取られなかったダウンを易々と取られてしまうが、2人は愛おしそうにいつまでも泣く妹たちの頭を撫でていた。





「2人とも本当によく戦った」



 3姉妹がやっと泣き止み、泣き疲れからそのまま就寝したのちにリッチからクルスたちに労いの言葉を投げかけられた。その顔には愛しい妹たちが産まれた時と同じ表情が浮かんでおり、久しぶりに見たその顔にいつの日か両親が話していたある言葉を思い出す。先程繰り広げられた死闘が何のための儀式だったのか、察したクロナたちは緊張の面持ちで押し黙る。

 対照的にアウラは声を殺して泣いており、その背中を優しくリロが擦る。



「これで安心して2人は[巣立ち]が出来るよ…おめでとう」


「「巣立ち、ですか?」」


「子供はいつか親許から離れて自分の道を探さなければいけない時がくる。アウラと2人で話し合ったことだ」



 父親の言わんとしてしていることは理解している。しかし、それでも理屈では説明しきれない感情が込み上がり、激戦の後であることを忘れさせるほどのものがあった。


「…ち、父上と母上にはもう、僕たちが必要がないと言うことですか?リウムやアニス、カトレアがいるから本当の子ではない僕たちはもう…」



 思っていたが長年決して言い出そうとはしない言葉を、つい口に出してしまう。クロナも同じ思いなのか、俯いてはいるが無言でその言葉を肯定する。


「僕らは父上と母上、それにリロ先生も尊敬しています。だからこそ自慢の子だと、胸を張ってもらえるように毎日頑張って……毎日頑張ってこれたんです…」



 俯いていた顔を上げ、妹たちが寝ていることも忘れて声を大にして叫ぼうとした時、2人の前にはいつの間にか父親が憮然とした表情で浮遊していた。




 クルスとクロナはウラドとの激闘でいまだかつてない疲労が全身を支配し、傷だらけであった。




 それが回復してもらえるわけでもなく、まさかいままで一度も暴力を、少なくとも本人からは直接振るわれたことがなかった2人は、頭に振り下ろされた不意の拳骨に反応できずに目に星を散りばめることになった。


 星が消え、やっと目の前の男に注意を向けられるまでに回復した時、怒声が周囲に響く。

 


「成人の儀の功を取り上げるぞ!バカ息子にバカ娘が!!」


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