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60.〇〇の貴重な出産シーン

 長老を引き取ったうえで妖精の代表を[ニーシャ]と命名し、巡回アンデッドともども縄張りの管理を任せたところ張り切って任務についてもらえた。

一連の騒動は終息を見せ、再び日常が彼らの元を訪れる。



 クルスたちはいつものように稽古を行う一方、出産間近と言われ我が子を見るためにアウラの真横に待機するリッチ。食事はいつも通り部下に運ばせているが元が巨大なため、身籠っているか肉眼では確認できない。アンデッドである自らの魂と彼女の生殖器を回復したことで辿り着いた境地。理論上は問題ないはずだが、これで万が一化失敗した場合彼女以上に立ち直れないかもしれないと出産とは別の不安が背筋を凍らせる。



 しかし当の本人は愛おしそうにずっと目を閉じており、彼女に会話を仕掛けてもいいのか、何かしてられることはないかとチラチラ視線を送ることしかできない。死後に涅槃から覚醒して幾星霜、これほどヤキモキしたことはあっただろうか。いや、生前にもなかっただろう。

 そんな父親の悩みをよそに、母親は一瞬身じろぎをしたかと思うとゆっくり目を開ける。



「……生まれたわ」



 嬉しそうに語る彼女をよそに固まるアンデッドの王。

 オギャー、という産声を聞くでもなく、かといって子を産む苦しみを聞くでもなく、唖然としているなかアウラはそっと身体をどける。


「………卵、産むんだ」



 時節彼女がハーピーであることを忘れがちだが、考えてみれば下半身は鳥そのもの、卵が出てきても何ら不思議もない。


「後は5日温めれば孵るはずよ」


「5日って、早くないか?鶏でも20日くらいかかるよ?」


「鶏と一緒にしないでよ」


 ハーピーとは群れて行動することで身の安全を図っているが、彼女らをエサとして襲ってくる魔物も当然いる。そのため、無防備となる妊娠期間は早期出産と孵化が当たり前なのだそうだ。ここは安全なのでもっとゆっくり産んでもらってもよかったのだが、生まれ持った生態までは変えられない。



「子供たちに報告しなくていいのか?」


「ううん、孵ってから教えるつもり」



 卵見せてもつまらないでしょ?と笑っている彼女の笑顔には、すでに元気な子供が孵化できる想像がついているのだろう。念の為確認すると生命の気配はあったので、[何が]出てくるかはともかく、孵化は確定事項のようだ。


「リッチ」


「ん?」


「ありがとう」


「…あぁ」




 その日の稽古が終わり、彼らが狩ってきたオークが食卓に並ぶ。いつもならば山の前の草原で食事をし、寝る時はアウラに乗って住処に戻るようにしていた。

 アウラは気を利かせなくていいと申し出たが、どうしても全員で食べたいとクルスたちは狩ってきた獲物を2人で担いで登攀して住処まで持ってきていた。鍛錬の一環だと本人たちは主張していたが、一度アンデッド化させれば持ち込みも楽になると余計なお世話を働いた結果、食べたくないと非難された経緯があっての出来事でもある。



 産まれる子供が化物ではないことを祈っているが、クロナたちが多少苦労をしつつも最終的には息を切らしながらいつも通り無事に食糧を運び込めた姿を確認し、すでに目の前に化物がいたことに安堵する。

この子らを超えることはまずないだろうと。


 その後ろから着いてきたリロは誇らしげに子供たちを見ながら、修行の成果です!と言い放っていた。そうか、元凶はお前だったのか。いや、多少は体力作りの面に関しては無茶なトレーニングを課したことは否めない。



 就寝時、子供たちはいつも通りアウラのそばで寝ていたが、結局卵の話が上がることはなかった。

 



 なお、護衛の強化の意味合いを兼ねてリロにはこっそり打ち明けたのだが、漆黒が世界を包んでいるなか、山の周囲を鬼の形相で休まず徘徊する頭部と鬼気迫る胴体を別行動させているデュラハンの姿は主から見てもただただ恐ろしかった。





 孵化は5日と言っていた。

 

 しかし3日後、違和感を感じてモゾモゾしているアウラがその身をどけたことで可愛らしい天使がこの世に降臨していた事実を知ることになる。

呆然としながらも、なんとか正気を保つながらクロナたちを住処に呼ぶと皆同様の反応を見せた。



「可愛いーーーーー!!」


「うぉぉぉぉおおーーーーー!」


 クロナとリロが奇声を上げるなか、問題なく孵ったことに思わず腰を抜かす。アウラはさも当然の結果だと言わんばかりに、不思議そうにリッチを見やる。


 子供たちは全部で3人。100%ハーピー側の遺伝子を継ぐだけあって、母親のように人間の上半身はないが、鳥の頭の代わりにアウラに似たブロンドにオレンジの目をした可愛らしい頭が生えていた。仮に帰り道にダンボールに捨てられているのを発見した場合、捨てた奴を探し出して産まれた事を後悔させていただろう。



 ぴーぴー



 鳴くたびに女性陣からは黄色い声が飛び、クルスは手を伸ばしつつ触ることを我慢しながら目を輝かせていた。アウラは一同の反応を見ながら満足そうに母性に満ちた表情で面々を見やると、最後にリッチに顔を向ける。何も言わずジッと熱い視線を投げかけてくる彼女の思惑を読もうと努力をしていると、先読みしたクロナがじれったそうにリッチの足を引っ掴み、雛の前まで引っ張っていく。


「お父様が最初に抱き上げて上げてください!」


「僕たちの時も父上が最初に抱き上げてくれたと母上が仰ってました!」


「我が主。子を抱き上げて差し上げるのが宜しいかと思います。そしてどうか私めにも手番を、どうか」


 それぞれ勝手なことを言うなか、アウラに再び視線を向けるとニコリと笑顔で返されたため、意を決して壊れ物を持ち上げるかのようにそっと抱き上げる。


 重さは特に感じられず、綿のような感触、そして雛特有の温度が伝わってくる。雛たちは父親と認識しているかどうか定かではないが、3人とも抱き上げた胸元で頭をすり寄せてくるため、アンデッドといえど破顔せずにはいられない。


「あの、私たちもいいですか?」


 足元には手をワキワキさせながら、今か今かと順番を待つ子供たちと眷属がいた。仕方なく1人1雛と配っていき、それぞれが思う存分頬ずりする様を見ているといつしかのエルフの姿を彷彿させられる。今ここにいたら本人は気絶しているかもしれないと、1人苦笑していると途端に雛たちがピーピー泣き出す。


「クロナとクルスもこんな感じだったなぁ」


「お腹が空いたってことね」


「僕たちこんな風に泣いてたんですか!?」


「ご飯はどうするんですか?」


「直ちに私めが仕留めてまいります!」



 光の速さで山を駆け下りていくリロの後を慌てて追いかけるクルスたちをよそに、アウラはヒナたちに母乳を与えていく。


「生肉食べさせるんじゃなかったの?」


「こっちの方が育ててる感じがして好きなの」


 黙々と母乳を飲む雛のうち1人は食いっぱぐれるため、不安そうに鳴いているところを抱き上げて落ち着かせてやる。


「私、幸せよ?」


「約束は守るためにあるからね」


「でもその約束を守れるのはきっと貴方だけよ」




 生身であればきっと赤面していただろう、それとも今もなっているのだろうか。確認しようがない幸福に対する不安に思わず顔を背け、クスリと彼女は笑う。やがて1人が満足し、残りと交代した頃に狩人組の3人が巨大な熊を背負って住処に戻ってきた。



 熊は美味しくアウラに頂かれ、寝る必要もないアンデッド2人も交えてヒナとともに全員寝床で夜を明かすことになった。

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