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06.デッドエンド

 先程まで戦っていた敵が仲間に加わった!ただし返事は一切ない、ただの屍のようだ…



 あっという間に起きた出来事についていけず、状況を整理するためにも行軍を停止する。アンデッドの同胞に周囲を警戒するよう命じ、木に背を預けながら腰を下ろして物思いに耽る。アンデッドの身体では気温を感じることがなく、視界は白線と黒に満たされているため昼か夜かも判断がつかない。肉体の疲労もなければ呼吸をしていないことにも気付くが、それでも精神は消耗する。

 それでも深い息を一度吐き、虚空を見つめる。同胞、もはや部下と化しているが彼らの活躍によって遭遇したゴブリンの集団を殲滅し、思いもよらない奇妙な仲間たちがアンデッド軍へと加わった。また、彼らの緩慢な動きとは対照的にその身体は死後硬直と鎧も相まって頑丈であることを知れた。


 しかし同時にアンデッドに関する疑問が深まる。

 

 ゴブリンは死後すぐに復活を果たしたが、アンデッドに殺害されたことが理由なのか。だとしても自身を含むミランダ砦の兵たちが集団でアンデッド化したのは何故か……誰かが復活の呪文でも唱えたのだろうかとも思ったがこの世界での死霊術はおとぎ話程度の扱いであり、魔術として存在も認識もされていない。

 王道である無念の死によるアンデッド化かもっとも論理的に思えるが、魔術学院にてアンデッドに関する目撃例は少ないことが文献に記されていた。この世界であちこち戦火が上がっているなか、自然発生が条件であれば今頃はファンタジーがバイ〇ハザードに早変わりしているはず。

 そして何よりも…


「何で俺だけ意識を保ってるんだ?」  


 転生する前、そして転生して貴族に生まれてからアンデッドになってからの記憶ははっきりと意識に刻み込まれていた。宙を眺めていた視線を落とし、開閉しながらジッとその手を見つめる。気温も疲れも感じないがそれでも手の間隔はある、触感がはっきりと体内に伝わってくる。

 しばらくその状態を保っていたがすぐに拳を握りしめ、アンデッドらしからぬ俊敏さで立ち上がる。自身含め、アンデッドの特性を把握する必要もある。そのためには安全な住居を探さなければならないと、再び進軍を命じる。

 




 その後も住処を見つけるでもなく、代わりに周囲で戦闘音が度々聞こえてくるがしばらくすれば静寂が訪れる。アンデッド軍に挑戦した新たなゴブリンの群れだけでなく、狼や熊のような獣まで取り込むようになった自称最強の軍勢にもはや恐怖を感じなくなっていたが、あるジレンマに気付く。


「隠れ家探しているのにこの大所帯で何処へ行こうと言うんだ…」


 数えるのが億劫になるほど何体いるのか一切分からず、少なくとも増え続けているのは事実である。この調子で万が一人里に現れれば、今は亡き魔王軍と勘違いされる勢いである。どのようにこの問題を解決すべきか、進軍している間も新たな課題に1人頭を抱えていると……





 …眼前が火の海となっていた。


 先程まで前方を歩いてた部隊はもがきながら地面に倒れ伏しており、何が起きたのか頭で理解する前に次々力なく倒れゆくアンデッドの部下の先に人間がいた。





 5人立っていた。

 2人はローブを羽織って先端の形が異なる杖をそれぞれ持って先頭に立っており、1人は身軽そうな格好をして弓を構えていた。残る2人は鎧に身を包み、先程の3人を守る様に左右を固めていた。


「~~~」


 火の轟音のせいか、何を言ってるか聞こえてこないが明らかにこちらに対して敵意を向けている。これだけの魔物集団を率いていれば誰であろうと敵対するのは自明の理であったが、感じないはずの熱気に煽られることで瞬時に現実を受け入れる。

 敵の火力、一瞬で前衛を崩壊させ、言ってしまえば部隊のほぼ半数が壊滅させられた。恐らく破壊魔法を杖持ちの2人によって唱えられたことは想像できたが、その事実が再び意識を別の方向へと誘導しそうになる。



「…俺も魔法使うならあんな感じで使いたかったよ……って言ってる場合じゃねぇぇぇ!弓持ちと杖2人がこっちに照準合わせてる!!やばい、マジやばい!!!」


 

 残る後衛や弓兵全員に特攻を命じ、隊列の横っ腹からの離脱を試みる。スピードが落ちることも懸念したが考えている余裕もなく、万が一に備えて護衛として剣持ちと弓持ちの2体をセットで担ぎ込む。

 ミイラと化した顔に必死の形相を浮かべ、隊列を抜けて茂みに飛び込んだ直後に激しい熱風が先程まで立っていた地点を飲み込む。


 

 これは絶対に勝てない。


 

 前世から今に至るまでの一番の速度で、振り返りもせずただただがむしゃらに走る。



「死んでから本気出すとかマジ勘弁…」

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