表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/181

57.新たなる仲間、フェアリー版

悪意に満ち溢れた言葉は身体のすみずみまで刺激し、妖精たちは明らかに動揺し始める。しかし長老は冷静さを維持し、ブツブツと何かを唱え始めると同時に右手が炎のように光り始める。


『拘束』


 次の瞬間、

 

 リッチの言葉とともに長老の詠唱が止まり、右手から光が消えたかと思うと長老は目を見開いてリッチの姿を見る。驚愕した表情からは先程の高慢さが消え失せており、その反応に満足しながらゆっくりと不死王は長老の元へ進み出る。



「な、何をする気だ!私たちはずっとこの地を守ってきたのだ。それをこのような目に合わすなど、無礼ではないか!」


 それでもなお強気の姿勢を崩さない長老に妖精たちは顔を青ざめ、もう一方の人形のような個体も表情を固くする。その集団のなか、長老に近付いて行く男に視線を戻すと手を長老に向けてかざしているところだった。



『この地の力は俺のもの。返してもらうのが道理ではあっても、お前らの自由を奪うつもりはなかったよ?……だがてめぇは俺の子供と眷属を侮辱した。その対価は払ってもらうぞ』



 その言葉を皮切りに、長老がこの世のものとは思えない悲鳴を上げる。


 妖精たちの顔が蒼白に染まりきった頃、長老の身体から見覚えのある青い靄が徐々にリッチの手の中へと吸い込まれていき、やがて最後の靄が身体から抜けきると悲鳴はピタリと止まる。

 周囲を囲っていた妖精たちは力なく項垂れる長老の様子を確認しようとするが、反応は一向に返ってくる気配はない。満足そうに手を引き寄せるリッチの姿を確認した後、心配そうに花冠の妖精が思い切って長老を揺さぶるが、頭を上げた彼はもはや長老ではなかった。


「こ、これは……」


「…アンデッド化、したようだな」


 生気を失い、文字通り生ける屍となった元長老は全く動こうとせず、妖精たちはリーダーが敵側に寝返ったこと、そしてその過程を最後まで見ていたことで今後自分たちがどうなるか不安を抱いた。先程まで敵対していた相手が慈悲をかけてくれることも望めない。


「力ごと魂も無理矢理引き剥がしたんだけど成功ってところだね。見る限り滅茶苦茶痛いみたいだけど、そういう相手にしか使うつもりはないし、自分の立場を見失うようじゃ最期はこんなもんでしょ」



 実験が成功した子供のようにはしゃぐ男をよそに、恐る恐る生き残った花冠の妖精が話しかけてくる。



「あの…我々はどうなってしまうのでしょうか……」


 力を返してもらう、と男は言っていた。一族もろとも長老のような最期を迎えるのか、それだけが心を支配し、ただでさえ色白の顔を一同さらに白くするほかなかった。

 もはや戦意の欠片も残っていない彼女が距離を詰め、懇願するように訴える。しかし恐怖の象徴者はすでに殺意が霧散しており、妖精を軽く一瞥する。



「それは君ら次第だね。もともと偵察させてたら部下が消されてたから原因調査で来ただけだし。いざ原因を発見したら勘違いしてる挙句、俺の身内を侮辱するような集団と出会ったからお仕置きしたってだけ」


 だからあとは君ら次第、笑顔でそう言うもすでに彼に逆らえる者などこの場にはいない。相手はこれ以上敵対するつもりはない。しかし万が一のことがあれば、つまり目の前の男が消滅するようなことが起きればその力を基盤に存在する妖精一族は確実に消滅する。聖なる一族として誇りが脆くも崩れ去ってしまったが、それ以上に長老の最期を見たことで[死]を強く意識してしまっていた。




 妖精たちは話し合うまでもなく、答えはすぐに出た。



「我らの度重なる失言、一族を代表してお詫び申し上げます。夫に関してはその身をわきまえることを忘れた愚かさの代償を払ったものと、我らの戒めとして永劫心に留めさせて頂きます。つきましては高貴なる貴方様のもとより生まれしこの命、貴方様の眷属として我ら一族、仕えさせて頂けることを許可願えますでしょうか」



 堅っ苦しいのが来たな、代表の言葉を聞いて思った正直な第一印象であった。調査に来て鬱陶しいから1人始末しただけで、気が付いたら敷地内に野良犬が増えていた程度の認識しか持ち合わせていなかった。つまり野良犬を全て引き取るかどうかという瀬戸際に立たされているわけで……実力を持った部下が手に入って儲けものと考えればいいかと無理矢理自身を納得させた。



「高慢な態度を改めるなら、それで構わないよ」



 何気なく放った一言であったが、妖精たちにとっては終末を回避するほどの出来事であった。互いに泣きながら抱き合う者、安堵の表情を浮かべたのちに気絶する者。代表格はいまだ未練がましく長老を眺めていたが、やがて目を深く瞑って祈る様に手を組み合わせる。

 その様子を気まずそうに眺めていた不死王であったが、いつまでもこの場に留まるわけにもいかない。それぞれに役割を口早に伝えると早々にアウラの元へと帰って行った。



 また女を手籠めにして、という妻の呆れた表情に迎えられながら。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ