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55.不可視の森

「私もお父様の子供が欲しい!」


 アウラの懐妊を告げると同時にクロナに迫られる。血が繋がっていないとはいえ、むしろアンデッドとはいえ、それはどうかと思う。そもそもアウラが怒るのではと助け船を求めたところ、


「確かにリッチ以上にいい男はいないかもね」


 と嬉しそうに語っていた。むしろ挟み撃ちにあった件について。

 その後の決死の説得により、成人までに眼鏡に適う男がいなければ考えてもいいという条件をつけた。勿論相手が腑抜けであれば許さないが。



 妊娠騒動も落ち着き、アウラが巣で舟をこいでいる間に子供たちの稽古が再開された。互いに武器を一切使わない組手の速度を驚愕しながら見学していると横に立っていたリロが誇らしげに話しかける。


「クルス様とクロナ様は大変素晴らしい腕前をお持ちです。生前に出会っていれば私の隊に首根っこを掴んででも編入させていました。そろそろ次の段階に進むべきかもしれません」


「リロの指導の賜物だよ。初めて会った時は爆弾みたいな娘が来たからどうしようかと思ったけど、お前さんが立派なナイトでよかったよ」


「…その頃の話はもうお忘れください」


 この話を持ち出す度に赤面するリロの反応もまた彼女の魅力の1つであり、アンデッドでも赤面できるのかと毎回感心させられている。しかし話を中断させてしまった直前の言葉を思い出し、いまだに俯いている彼女に再び声をかける。


「ところで俺に何か話があったんじゃないの?」


「はっ、失礼いたしました。お子様の件ですが、そろそろ森の中で実践経験を積ませるのはどうかと思ったのですが」


「いいよ」


「承知しました!」


 念の為森への侵入は縄張りの範囲までとしていたが、部下だけを従えてその外を歩くことは禁じていた。万事のことを考えての判断であったが、最近のクロナたちは親バカなつもりはなくとも強いと評価しえた。リロという優秀な教官のおかげもあり、組手の速さが段違いになっている。

 しかし何処まで強いのかは以前として分かっておらず、部下に組手をさせるにも手加減ができないため殺し合いを前提にすることになる。通常のアンデッドでは相手にならないが、それでも改良型の部下を子供たちに差し向けるのは憚られた。



 その点、森の魔物であれば部下の援護や監視もあり、何よりも森を突き進んだリロの存在もある。問題はないだろう。

 以前から考えていたことを先にリロに言われたが、願ってもない申し出だった。










 実際問題はなかった。


 ゴブリン他、リザードマンや他にも見たことがない魔物に多く出会ったが、リロは背後で見ているだけで基本的にクルスとクロナの2人で蹴散らしていった。防護魔法を掛けてはいるが、敵が2人の速度についていけないためそもそも攻撃が当たらない。


 アウラに教わった風魔法、リロの剣技、向かう所敵なしであった。しかし同時に戻ってきた時に自らの力を過信し、多少調子に乗るのではと心配していた。食事中、それとなく聞いてみる。


「どんな相手にも全力でかかる、危険な時は逃げる。父上や母上、リロ先生のお言葉です」


 俺には優秀すぎる子供だといい返事をもらうと思わずほくそ笑むも、猛獣の如く喰らいつくアウラの勢いによってすぐにその思いも霧散する。懐妊を発表して以来、食欲が当初の頃に戻ってしまい、クロナたちの修行という名目で食糧集めも開始された。












「「本当ですか!?」」


 様子を見つつ、兼ねてから約束していた強敵エリアに2人で行ってもらうことにした。リロにも事情を説明し、視界に捉えられない敵を想定してトムジェリにも同行させることにする。前回矢切れによって勝敗が決したことから魔力の無限供給による魔力の矢の無限射出が実現し、その性能を試したいと考えたこともある。

 一方、ロード夫妻は寝床にて現場を見守ることになった。





<そろそろだ>


 常時巡回しているアンデッドのおかげで順調に目的地へと近付き、リッチの一言で緊張が高まる。樹海の中の不気味さも去ることながら、相変わらずの静寂がそれぞれの警戒を解かせることはない。


「我が主、敵の検討はつきませんか?」


<視界に入る前にやられてるから分からんね>


「感知なら任せてください」


 クロナが風魔法を唱えると周囲にさざ波のようなそよ風が吹く。風魔法の応用により空気の振動をキャッチするレーダーの役割を果たすことが出来る、遥か昔に某魔女っ娘から聞いていた手法だが、オリジナル魔法だから誰にも言うなと釘を刺されていたりする。しかしすでに著作権は切れていてもおかしくはないと信じてアウラはじめ、クロナたちにアイデアだけを伝えていた。


  

「…今の所気配は感じられません」


 センサーを作動させてからしばらく歩くも、気配は一切感じられない。トムジェリ視点のアンデッドアイにも何も映らず、警戒して出てこないのかと思っていた矢先、ジェリの背後視点にて木の根が音もなく持ち上がるのを捉えた。


<後ろだ!!>


 すかさずジェリーの矢が迫りくる太い根を地面に貼り付けにし、その動きを合図に次々と木の根が襲い掛かってくる。トムジェリはともかく、リロにクロナ、クルスは互いに背中合わせになり、それぞれの戦法で根を順次潰していく。

 やがて攻撃の勢いが鎮まるとリロは周囲を見回しつつランスを地面に突き立て、見覚えのある立ち姿で大声を挙げる。


「正体を現せ!この地は我が主、不死王リッチ=ロード様の領地なるぞ!!」



 さも当然のように叫ぶ彼女に子供たちも呼応するが、そんな宣言をした覚えは一度もない。アウラに念の為確認を入れるが、横で何の心配をすることもなく映像を眺めていた彼女は物思いに耽ると首を捻りながら返答した。



「アウラ。俺あんなこと言ったことあるっけ」


「ん~……、一応部下に巡回させてるんだから貴方の縄張りではあるんじゃない?」


「なるほど」



 閑話休題。その発言をもってして、今その地は不死王が征服する土地と化した。


 高らかなリロの宣言の後に再び沈黙が訪れるものの、風も吹いていないのに次第に木々がざわめきはじめる。その様子にクルスたちは再び身構えるが、リロは依然として構えを変えることはない。

 やがて周囲の大木から光の玉が次々と現れ、光に目を凝らしていると徐々に羽を生やした小人の姿を型取り始める。その姿を確認し、リロはポツリと呟いた。


「…妖精か」




[妖精]


 亜人の一種であり、木や水、大地などより自然発生する一族。主に魔素の密集によって魔物は発生するが、妖精は自然物を媒体に発生する。魔物は器なく生まれるため知性を宿さないが、器を持った妖精は知性かそれ以上のものを持ち合わせることもある。なお、精霊とは神格と魔物の中間の存在であるが、どのように発生しているかは本人たちも理解していない。



 そんな妖精たちは全裸に近い姿を晒しているなかで2体だけ布を軽く羽織っていり個体がおり、片方は髭面に頭上に花の王冠を被った長老のような印象を醸していた。そしてもう一方は西洋人形のような美しい姿をしており、長老と同様に花で作られた冠を被っていた。。


 彼らの背後にいる妖精たちがリロたちの前方を漂うなか、その2体が前に進み出ると髭面の個体が話しかけてくる。



「我らは木と大地より育まれし者。遥か昔よりこの地に住み、森を守り続けている。邪なる下賤な魔物ども、この地を去るがよい。そして二度と姿を現すな」


 有無を言わせない物言いにリロは険しい表情をし、呼応するようにランスを強く握りしめる。クルスたちは神秘らしさを醸し出す妖精に対して若干気後れしているが、彼の発言によってリロと同様の表情を刻み込む。

 一方、画面向こうのアウラは子供を[下賤]と言われたことに対して歯軋りをしており、それぞれが思い思いの反応をするなかでただ1人、冷静に疑問を覚える者がいた。



<ちょっといいかな妖精さん?>


 背面を融合させ、腕や足が無数に生えた異形のアンデッドの突発的な発言に妖精たちは怯えを隠せないでいるが、代表の2体は物怖じせずに対応する。


「貴様と話すことなど何もない。早々に立ち去るがよい」


 主への物言いに今にもリロはランスを妖精たちに突き立てそうになるが、次の一言でその動きも制される。




<お前さんらってもしかして俺の眷属かね?>

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