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53.新たなる仲間、アンデッド版

「たのもーーーー!」


 飛び出してきた女性はランスを地に突き立て、リッチを真っ直ぐ見る。

 その目は炎を宿したかのように爛々と赤く光り、見たものを全て焼き尽くすようであった。防護魔法と召喚を行う準備をしていたが、次の言葉でその動作は全て打ち消された。



「貴方が我が主か!!」


「「…は?」」


 突然の訪問者にアウラ共々何を問われているのか全く理解できておらず、それでもなお彼女は態勢を崩すことなく言葉を続ける。


「我が名はリロ=ホウスナー。ここより北北東のウロボス砦に配属された騎士にして戦に敗れたアンデッド!我が主の召喚に応え、こうして参ったが上に立つ者なれば強くなければならない。私を倒してその力を証明せよ!勝った暁には軍門に下ろうぞ!!」



 ランスを矛先をこちらに向けてくるも、まずは話し合いがしたくて仕方がなかった。

 まず出会ったこともなければ召喚した覚えもない。それに何故アンデッドでありながら生前の人格を宿しているのか?もしかすると転生者か?アンデッドでありながら何故生前と同じ姿を保っているのか?そして砦で死んだ話に若干の仲間意識が芽生え始めていた。


「ちょっと質問してもいい?」


「私を倒せればな!!」


「…どうするの?」


 事態に着いて行けず、首を傾げてアウラがこちらの顔を覗き込んでくるがまず指名されている本人が一番困っている。正直に言えば面倒くさいが、部下の性能テストと自身の能力テストを兼ねることができることに思い至り、あっさり了承する。


「言っとくけど、後ろの3人には手を出さんように」


「騎士はそんな卑劣なことはしない」


「…じゃ、始めようか」


 まずは腕を6本、足を3本生やした剣持ちのトム。同じく腕を6本、足を3本生やした弓持ちのジェリー。それぞれの背面を融合し、1体のアンデッドとして召喚した。


「ほぅ、面妖な」


 ランスを地面に突き立てると重心を低くし、剣と盾を腰から抜き取る。一気に懐に入り込むつもりのようだ。


『手加減不要。殲滅せよ』


 命令を合図に、互いにはじけるように飛び出す。

 剣同士が火花を散らしながら交差するも、残りの腕が彼女に襲い掛かる。しかしそれを察知したのか横に飛び退き、すかさず切り込もうとするも背面のジェリーから矢が飛んでくる。弓は2つ所持しており、残り4本の腕が次々と矢を装填するため、弓矢というよりもマシンガンのような性能を誇っている。


 一瞬怯みはするも再び剣を握り直し、飛んでくる矢を盾で受けつつ剣で切り落としていく。近付けばトムの剣戟の猛攻に見舞われ、距離を取ればジェリーの弓撃ちが待っている。2人の視界は共有させているので、遅れを取ることはまずない。




 アンデッド同士、疲れを知ることはなく、永遠に続くかとも思われた戦いも矢を撃ち尽くしたことで一瞬トムジェリに隙ができた。その一瞬の隙をついてジェリ方面に近付き、弓で薙ぎ払おうとするも避けられたところであっという間に腕をいくつか両断されてしまった。

 すかさず剣を腰に差し、ランスを回収して一気にトムジェリの身体を貫く。




 そして彼女は動けなくなった。

 彼女の背後から突然出現した凶暴な腕が6本、彼女の四肢をへし折らんばかりに掴み、ランスをトムジェリの身体に残したまま地面に引き倒される。

 奇襲をかけた素体への名付けは行っていないが、前回採集したミノタウロス2体を繋げた、二足歩行をするケルベロスのような見た目をしている。


 地面に倒れ伏した彼女にトムジェリは噛みつこうと顔を近づける。


『そこまで、解放せよ』


 ピタっと動きを止めると2人はその場を離れ、名無しには貯蔵庫に戻るよう命じ、トムジェリには落ちた腕を回収して研究室に行くよう命じた。


 戦闘なぞなかったかのようにそれぞれが移動を開始すると、しばらくうつ伏せのまま地面に寝ていた彼女はゆっくりと立ち上がった。


「…私の負けだ」


「部下をけしかけるのはズルいとか言わないの?奇襲までかけたし」


「それも含めての我が主の力だ。私はまだまだ未熟です」


 籠手のせいで握り拳のギリギリとした音が伝わってくるが、やがて手を開くと凛とした表情をしてリッチの前に跪く。


「私はまだまだアンデッドとしては若輩者ですが、どうか私を導いてくださいませ。今後も精進し、主に向けられる剣は全て私が薙ぎ払います…どうか!」


 そこから彼女は動こうとしない。まず導けという意味が分からないが、少なくとも彼女、リロは巡回するアンデッドを駆逐でき、改良型アンデッドの2人分の実力を有しているわけだから申し分ないとは思うんだが…。


「ひとまず俺の質問に答えてくれ。話はそれから」


「はっ!」


 呼びかけに直立で応じ、戦闘は終わったもののいまだに彼女の処遇は決まっていないため、一旦クロナたちとアウラに住処に戻ってもらうことにした。


「じゃあ尋問タイムね。まず、お前さんは本当にアンデッドなの?」


「はい、正確に言えばデュラハンと呼ばれる悪霊の一種になります」


 そう言うと彼女の綺麗な頭が首から宙に浮き始める。しかも首が離れていても身体を普通に動かすことが出来るようだ。


「砦を守ることも叶わず、部隊長であった私の首は切り落とされ、騎士として任務を全うできなかった無念からこのような姿になったのだと思います。それからどれほど時間が経ったのか、ずっと砦に居続けました。主の呼びかけがあるまでは」


「呼びかけ、ね…砦で亡くなった敵や味方はアンデッド化しなかった?」


「いえ、全員丁重に葬りました」


「前世の記憶はある?デュラハンになる前じゃなくて、部隊長として産まれる前の記憶」


「…いえ、そういったものは…」


 転生者というわけでもなければ単純なアンデッドではなく、デュラハンとして蘇ったことで意識を保っていた。

 では呼びかけとは何か?


「何かに引っ張られるような気がしたのです。これまでは砦に近付く人や魔物を倒す目的もない日々でしたが…恐らく主は魔王種なのではないかと」


「魔王種?」


「魔物には多様な種族がいますが、稀に進化するものもいます。その中でも極稀に、その種族の頂点と呼べる種へと進化する者もおり、同族はその者へと集う習性があるようです。それらを魔王種と、私が人間であった頃は呼ばれていました。実際ゴブリンエンペラーの元に集まり、率いられたゴブリンの大軍によって街1つ崩壊したこと前例があります」


「魔王ではないの?」


「魔王は魔族の長の称号ですが、同時に魔の者としては最強の称号を意味します。あくまでも主はアンデッドとして頂点に立たれていますが…もしかしたら魔王に匹敵する力を有しておられるかもしれません」


「ちなみに呼びかけって俺大分前からこの姿で覚醒してるけど来たのお前さんだけだよ?人望というか死望がないのかな」


「アンデッドは発生することも早々ありませんし、仮に向かったとしても私と違って恐らく意思も持たずにゆっくり進むだけでしょうから」


「まぁ確かに普通のアンデッドがそもそもこの森を通り抜けられるとも思えんね。でもそんな下等なアンデッドの頂点って喜んでいいの?他にリロみたいな特殊個体いないの?」


「すみません。私もそれ程魔物に詳しくなくて…あ、でも下等だからこそいままで倒されず、むしろ頂点と呼ばれるまで進化することが出来た主こそ最強なのでは!?」


「物は言いようだな、おい」


 元々特例でアンデッドにしてもらったのもあるけど、一応アンデッド化したことは後悔してないし、何よりも接近戦ならば1秒と掛からず滅殺される自信がある。リロがこうして臣下になってくれるというならばアンデッド的に評価されたのだとそれなりに胸を張ってもいいのかな。一応カンジュラを救った男でもあるわけだし。



「で、もう一度聞くけど本当に俺の配下になっても大丈夫なの?今なら砦に帰ってもいいし、アンデッド辞めたいならさっくり終わらせることもできるけど」


「何をおっしゃいますか。私は主に仕えるためにはるばるこちらに参ったのですよ?実力も十分お見受けしました。是非私を傘下に加えてくださいませ」








「……了解。元人間同士今後とも宜しく」


「はぃ!」


 リロからの返答が終わる前に突如暴風が巻き起こり、気付けば俺の両端には身体を押し付けてくるアウラとクロナがおり、遅れて山から走ってくるクルスの姿が確認できる。


「貴方は夫の部下、私は夫の妻!それだけは覚えておきなさい」


「…お父様を守るのは私です」


「ぜー、はー…ま、待ってくださ…い」


 肩で息をしているクルスに対し、威嚇全開の女性陣に慌てふためくリロの姿をその日は拝むことが出来た。

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