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52.成長

クルスとクロナが少し成長します。

 子供たちも走り回れるくらい大きくなった。

 

 子供ってあんなに速く走れるものだっけと思えるほどに速く、偵察型アンデッドのニンジャにもう少しで追いつけるのではというほどのスピードで、今日も山の周りを2人して周回している。その上を飛んで追いかけるアウラはとても嬉しそうだが、知らない者から見れば今まさに獲物に飛び掛かろうとしている魔物の図式にしか見えない。本人たちには黙っているが…。



 周回もそうだが、まずは前々世に父の転勤でアメリカに住んだ時の体育で習った事柄を再現させた。アメフト選手用のトレーニングメニューだったかもしれないが、今となっては遥か昔の話だ。

 あとは人間社会にも溶け込めるよう、営業部に所属していた経験と腐っても貴族をしていた前世の知識を総動員し、一般教養とマナー、言葉遣いを教えた。あとは防護/回復魔法も伝授したが、アンデッドである部下とも過ごしている時間が長いことから「死霊術は教えてもらえないのですか?」と聞かれた時は本気で焦ったが、物が物なので教えるわけにはいかないと説得した。

 そもそも教えて出来るものなのかも怪しいが、2人の道徳的倫理観がねじ曲がっていないことを祈るばかり。


 同時進行で授業を聞き、アウラもそれなりの人間に関する知識を身に着けることになったが、子供に私も何か教えたいという強烈な要望を主張するようになった頃に歌を教えることになった。

 聞けば彼女の歌は風の精霊の力、つまり風魔法の分類に属するものらしく、飛ぶ時や狩りの時にも使っているのだとか。○年目にして初めて聞かされた事実だが、ここまで使えるようになったのは俺と出会ってかららしい。出会う前は風の精に歌声を乗せて使うので精一杯だったとか。



 この授業によって子供たちは風魔法も習得し、俺も必死に聞き入ったが結局取得には至らず。悔しがっていたら「父上は死霊術が使えるじゃないですか!」とクルスに怒られ、クロナには裾を引っ張られて慰められる羽目になった。功を焦るあまり、危うく父親の威厳が失墜するところであった。


 正直に言えば体術/剣術といった接近戦も教えたがったが、アウラと俺はからっきし。部下に教えさせようにも手加減どころか教えることがそもそもできないため、とりあえず剣道部時代の素振りを毎日やらせることにした。




 赤子から二足歩行型の子供へと成長したクルスとクロナだが、それに伴って大分環境も変化した。


 ます、成長して気付いたが2人が双子であったこと。

 どちらも親の顔が見てみたくなるほど美形であり、クルスに至っては髪を伸ばせば美少女と見間違うほどだ。散髪はアウラに任せているのだが、以前クルスが異様に髪を伸ばしていた時期があり、背中を向けている時にクロナだと思って声をかけたら「騙されましたね!」とクルスがドヤ顔で振り返ってきたのはいい思い出だ。言い訳をするとアンデッドアイではクルスに見えたのに、外見が完璧にクロナだったので戸惑ったのだ。その後あっさり髪を切っており、このドッキリを仕掛けるために3人で入念に準備を進めていたのだとか。

 本当、何やってんの?



 もう1つはアンデッドたる部下の強化。

 子供も大きくなったので、両親はずっと一緒にいなければいけないという縛りを多少緩めてもらい、研究に精を出すことに成功した。子供の行動範囲が広まったことで、安全のために縄張りを山の半径1キロから3キロに拡大したことで手元に来る獲物の種類が増えたのも事実ではある。やっていることは過保護のようだが、自分も親ばかになったのかと内心苦笑するしかない。

 いずれにせよ、仕留めてきた部下の視界を通して獲物の能力を知ることも出来、どういった風に改造すればいいか、今日もスプラッタな改造が研究室の1角にて行われている。



 …最後に


「リッチ!ご飯の時間よ。食卓にいらっしゃい♪」


 食事の必要はなくとも、家族揃って食卓に並ぶのは大事なことだと思う。颯爽と俺を笑顔で呼びに来る彼女を見上げるのだが…


「本当、でかくなったよね」


 出会った時は俺の頭1つ分大きかっただけなのに、今では2倍以上の大きさになっている。ただし成長したのは鳥の身体の方であって、人間の上半身は相変わらず美しいまま変わっていない。本来のハーピーより長生きしているからか、それとも飯がいいからかは分からない。。そんな彼女のために何度拡張工事をしたことやら、まぁ部下にやらせているので不満はないのだが。


「私もこんな大きな同族見たことないわよ。でもきっと貴方の愛のお・か・げ・よ♪」



 恥ずかしい台詞と共に上機嫌に去って行くが、この感情表現が豊かになったのも変化の1つだ。分かりやすくいえば、新婚の妻なんじゃないかと錯覚するレベルに親しくなっている。現在マリッジブルーが発生しないように注意を払って毎日を過ごしている、つもりだ。



 感慨に耽っていると汗まみれのクルスとクロナが走り寄ってくる。


「父上!今日はペースを落とさず100周走り切れましたよ!」


「約束通り、お父様に人間もーどになってもらいますからね!」


 …まさか本当に走り切ってしまうとは。

 原因は分からないが、縄張りを広げた際に人間だった頃の姿に戻ったことがあった。それでいて相変わらず実体があっても曖昧な感じ、常時浮遊の3拍子は健在だった。

 それを見た3人の反応は様々だった。


「貴方、人間の時出会ってたら絶対食べてたわよ!むしろ今でもイケルわ!」


「父上カッコいいです!」


「お父様…そのお姿の方が……好きです」


 女性陣は頬を赤く染め、息子には輝いた目で見つめられた。見た目は貴族だった両親のおかげではあるのだろうが、気まずさのあまり気合でアンデッド時の姿に戻った時のブーイングラッシュは凄まじかった。


 不満そうにされたので、山の周りを100周走れたら人間モードになってやる、と適当に言い切ったのが事の始まり。言い出した時点では10周未満が精一杯だったので余裕をこいていたら、まさかそれを目標に毎日トレーニングを始めるとは思わないじゃないですか!?


 ニンジャを貸してくれと言われた時は、何に使うのかと様子を見ていたら木の上を一緒に並走する練習をしたり。ブッチを貸してくれと言われた時は山を登攀するのに補助として後ろにつかせたり。



 しかし約束は約束、何度か人間モードを試しても不都合はなかったし彼女らとの約束を遂行した。




「モグモグモグ、やはり父上はそちらの姿の方が神々しいです!」


「普段がダメってこと?」


「ムシャムシャ。お兄様が言いたいのはアンデッドなのは強そうに見えて、人間もーどはカッコいいって言いたいんですよ」


「ゴクン。どっちにしても私はそっちの姿の方が好きよ?さぁ、貴方たちのおかげで実現出来たんだから、今日は貴方たちを労ってお祝いよ!」



 美味しそうに焼いたブラックオークを喰らう面々。アウラが言うには魔法も使う上に体力も相当高いオークの亜種らしいのだが、食卓に並んでいる風景を見ると弱肉強食ってこういうことなのかと考えてしまう。ちなみに狩ってきたのはアウラだ。


 一通り愛でられた後、会話は森の話に戻る。


「そういえば森の巡回は大丈夫なのですか?部下が倒されていると聞いてますが」


「そんな話したっけ?」


「お母様からお聞きしました」


「アウラ?」


「夫の仕事が気になるんだから仕方ないじゃない」



 警戒範囲を拡大した際、一部地域で部下が根こそぎやられている事案が発生している。巡回用の部下を倒せるだけの実力があるのだろうが、同じ場所で起きているので恐らく魔物の住処か何かなのだろう。最近はそこを避けるようにしているが、問題は山に来られる可能性もあるということだ。何故か部下の視界に留まる事もないので目撃情報は一切なし、近日中に直接出向こうかと考えている。


「父上!僕らもご一緒することは出来ないのでしょうか?これでも強くなったと思うのですが…」


「ん~難しいかな。お前さんらの実力と努力は認めるけど、問題は接近戦だ」


「お父様に課された素振りも毎日こなしていますし、今日だって山を100周…」


「それはあくまでも基本を押さえたってこと。そこから今度は技を覚えなきゃいけないんだけど、生憎教えられる人選はここにいないからなぁ」


「…ではずっと行けないということですか?」


 クルスたちは食事の手を止め、俯いてしまった。昔のアウラならば行って来いと言っていたかもしれないが、彼女も大分人間染みてきたのか、そんなことは言わない。


「安心しなさいな。貴方たちのお父さんは立派な方なんですから。きっと解決策を生み出してくれるわ」



 無責任な発言ありがとう。しかし、クルスたちもその一言で少し笑顔になってくれた。その信頼が嬉しい2割、心労を抉るのが8割。とても荷が重い現状に長年鍛えたポーカーフェイスで動揺を隠す。


「アウラの言う通りだ。不死王たるこのリッチ=ロードの名に懸けて必ずお前さ…」


 不意に反応があった。森の中を一直線でこちら向かってくる気配がする。

 巡回中の部下は蹴散らされ、もう間もなくここへ到達する。視界に入ったのは鎧を纏い、ランスを掲げる赤毛の娘。巡回中の部下も決して雑魚ではない。


「3人とも下がりなさい。向こうから敵が来る」


 その一言にクルスたちは目に見えて緊張し、アウラは子供たちを庇いつつ威嚇の態勢をとる。やがて足音が近づいてくると森の方から先程の娘が飛び出してきた。

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