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48.好奇心、猫をも…

「あ、こら待ちなさいっ」



 アウラの愛情のもと、子供たちは順調にすくすくと育っていった。以前は動かないか泣くかのどちらかしか行わないことに、アウラも少し物足らなさそうにしていた。だが気付けば4つの手足でアウラの巣から這い出し、洞窟内を自由に這いまわっていたことには大変驚かされた。もっとも、まだハイハイが出来ると知らなかった頃に気付けば巣から2人の姿がなく、うたた寝していたアウラを起こすとパニックになった彼女はすぐさま子供たちを発見した。住処の出入り口、つまり山の中層に出来た洞穴の淵まで移動しており、高所ゆえの強い風が2人を攫う。


 慌てて巣から飛び出したアウラはすぐさま子供たちを捕獲することに成功したが、戻ってきた彼女と共に楽し気に笑う子供たちを見下ろすと魔物の両親には笑顔で返せるだけの気力は残されていなかった。



 以後、ブッチを柵の代用として出入り口に常に立たせるようにしたのが今となっては懐かしく感じる。しかし風に攫われたことをものともしない子供たちは二足歩行をするようになり、持ち前の好奇心から何1つ怖がらずに体当たりをするように魔物たちに接していった。


 アウラに触れれば羽毛の感触に歓喜し、リッチに触れると霧のように透けてしまう不思議現象に笑い声を上げる。その姿を見るだけで心が癒されていく気がしてならず、事実アウラが鼻唄を歌いながら子供たちに寄り添う機会も増えて行った。最初は怪我をさせないようにと壊れ物のように接し、赤子が新たな挙動を起こすたびに困惑するアウラも今や人間の母親と相違ないほど子供たちとの触れ合いに喜びを見出している。




 そして……



「はい、では次の問題。3+3=?」


「はいはいっ!6!!確か6!…で、合ってるわよね?」


「…アウラ、一応子供たちの勉強だから答えちゃだめだよ」


「む~、お勉強きら~い」


「きらーい」



 熱心に授業に参加するアウラを除き、主役たる2人の人間の子供は興味が無さそうに項垂れていた。また、外の世界を知りたいとゴネ始めるようになったことで草原にアンデッドの監視付きで遊ぶようになったが決して森には入らないように強く言い聞かせた。気のない返答をする2人であったが、ついに生意気になれるだけの年齢に達したのかと無事に育ったことを喜ぶ反面、次第にどう接すればいいのか分からなくなってくる。



 育てる行為そのものが初体験のアウラにとっては苦難の連続であったが、流石に羽根をむしられた時は烈火の如く叱りつけていた。やがて子供たちとの距離感を図ろうとしている期間中に事件が起きる。




 その日はアンデッドの研究に勤しみ、アウラも狩りのために出かけていた。子供たちがアンデッドの監視を嫌がったことで任を解いていたのが命取りとなり、隙を突かれて子供たちが姿を消してしまった。



「ただいま~…あれ、クルス?クロナ?」


「おかえり。静かだったからアウラと一緒に出掛けたと思ったんだけど」


「えっ、知らないわよ?」


「「……クルスー!クロナー!」」



 叫びながら山を飛び出し、草原を見渡すが影1つ見当たらない。残る心当たりは森にしかなく、すぐさま部下に捜索させる。アウラの食糧調達や子供の保護のために縄張りを広げたとはいえ、その先を行かれては守る手立てはない。昔からやんちゃなのは変わらないと深いため息を吐くも、今にも泣きそうな顔をしたアウラがリッチの顔を覗き込む。



「もしかして私たちと一緒が嫌で…人間の元に帰りたいから森に……」


 瞳を潤ませ、今にも大泣きする勢いで唇を噛み締めだすアウラであったが、その様子を静かに見守ると微笑みながら彼女の頭を優しく撫でた。


「もしそうならしっかり森の外に送ってあげないとな」


「…そうね。人間の子がいつまでも魔物の私たちと一緒にいるのも、いけないものね」


「いずれにしてもこのままじゃ魔物の喰われちゃ…」


「それだけは絶対にさせないっ!!」


 思わず目を閉じてしまうほどの暴風に見舞われ、ようやく片目を薄っすらと開く頃にはアウラの姿は完全に消えていた。

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