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44.覚醒

 

……………………



…………………………………………



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……………………


 身体が重い。



 寝起きだからか、それとも二度目の死後硬直なのか…最期の記憶では冒険者と別れてゲッカちゃんと会って。



[不死王リッチ=ロード]



 俺のオリジナルネームを上書きしたうえにご大層な称号を付けられてたっけな。王ってなんだよ。ゆっくり上体を起こすと身体中に蜘蛛の糸が掛かっていることに気付くが、それだけではない。身体が半分程透き通っているような、それでいてしっかりとした実体があるような、自分自身の肉体がひどく曖昧になった印象を受ける。


 混乱しながらも周囲を見回すと、同じく蜘蛛の巣まみれになっているブッチや他のアンデッドな部下が佇んでいる…あれ、色がハッキリ見える。ここは閉じた洞窟の中、光が一切入らない世界であったが黒と白の輪郭によってはっきり見えていたのが、今では昼間のように全てがハッキリと見える。涅槃の成果が早くも出たのかと内心喜びながらも、まずは洞窟から出ることを優先する。


『ブッチ。入り口を掘り起こせ』


 それまでピクリとも動かなかった6本腕の巨漢がゆっくりと起動し、蜘蛛の巣がパラパラと落ちていくのも構わずに岩壁に向かって拳を突き立てる。重機械のようにどんどん掘り進めていき、後ろに続こうと着いて行くと地に足がついていないことに気付いた。

 むしろ高身長のブッチの目線と同じ位置から命じた時から違和感があり、改めて自身の身体を観察すると地面より少し高い位置を浮いていることが判明した。


「幽霊になった、わけじゃないよね」


 自信はなかったが少なくともブッチはしっかり命令を認識している、つまり自分はこの世に存在している。胸を撫で下ろすと同時に一筋の光が暗闇に差し込む。眩しい、という感覚は目がないため問題はないがそれでも容赦なく壁が崩されていき、やがて洞窟内を光が満たす。




 入り口から外を眺めてみるとそこには一面青空が広がっていた。高所ゆえの風がなびいていて昼寝にはもってこいの環境で…


「違う!違うよ俺!?てかココどこ!?」


 洞窟の外はもはや以前の光景とは全く異なっていたが、その表現も正確ではない。洞窟としての体裁はもはや維持されておらず、高山と化していた。それも並大抵の高さではなく、下方に広がる森が小さく見えてしまう。眠りについている間、洞窟がせり上がったのだろうか。その事実が過ぎ去った年月の長さを物語っている。



【必ず私の故郷を訪ねるのだぞ!】



 青年はともかく、あのツンデレエルフももはや生きていないだろう。しかし約束はエルフの里を訪れること、まずはじっくり身辺整理をして場所を探し当てよう。

 自身を嘲笑しながらも、あれが彼女らを見た最後なのかと思うと胸にぽっかり穴が開いた気がした。


 しかし感傷に浸る暇もなく、下方から聞こえる大袈裟とも呼べるほどの羽音によって無残にも中止させられる。


「ちょっと~!上から岩なんか落としたら危ないじゃないの~」


 苛立ちを含んではいるが、芯の通った美しい声とともに羽音の主が眼前にその姿を晒す。


 黄金の髪に美しい女性の上半身、しかし下乳からは同じく髪の色に似た柔らかそうな羽毛によって覆われており、背中と翼は不自然なほど青い羽根で覆われている。人と同じサイズの鳥の、首から上が女性の上半身。確かハーピーと呼ばれる凶悪な鳥獣だと学院で学んだ覚えがあるが、日差しを背に宙を浮く彼女を見て出た感想は警戒とは程遠いものであった。



「綺麗だ…」







 魔物にそういう表現を使うことが正しいのか分からなかったが、見惚れていると荒々しい羽音と不愉快そうにしている彼女の声によって現実に引き戻される。


「聞こえてる~?折角落ち着けたと思ったのに上から岩何か落としたら危ないって…そういえばあんた、何でこんな所にいるの?」


 先程の怒りも忘れ、ふと疑問が脳裏をよぎる。

 誰もいないことを確認した山の上に巣を構えたというのに、さらに高所から山の中を掘り進んで出てきたような出で立ち。さらにそこに立っていたのは魔物の中でも性質の悪いアンデッド、のはずだが目の前にいるローブ姿の男は何かが違う。


「あー岩ね、ごめんごめん。まさか山になってるなんて思わなかったから、考えなしに掘り進んじまったよ」


 陽気に笑い飛ばしてはいるが本当にアンデッドなのだろうか?まるで幽霊のような雰囲気が漂っているが、それでいて実体はしっかりあるように見える。何よりも意思を持たないはずのアンデッドが明確に返答を返している。

 


「お、起きてしまったことは仕方ないわね、うん。でも何でこんな所にいるの?それにあんたアンデッド、よね?隣の、うわ、でか!腕もたくさんある!」


『入り口を広げろ』


 すぐさま拡大工事が6本の逞しい腕によって始まり、あっという間にハーピーが入り込めるほどのスペースが出来上がったところでドン引きしている彼女を招き入れる。始めは渋っていたが、敵意がないことを感じたのかすんなりと入り口に身を寄せて羽根を休める。





「あ、ありがとう」


 どういたしまして、とにこやかに返すが一体何を考えているんだろう。羽根休めのためのスペースまで作ってくれるし、考えてみればずっとこの山の中にいたみたいだしこの山の主?それとも封印されていたとか?


「お姉さんはこの辺に住んでるのかい?」


「え、えと、はい。こちらの山に最近住まわせてもらってます」


「かしこまらなくていいよ。それに俺が所有してるわけじゃないし、その頃はただの洞窟だったからね。時効時効」


 軽くこれまでの経緯を聞いたが正気の沙汰とは思えなかった。いや、だからこそアンデッドにしてはユニークなのかもしれないけども。半信半疑で話を聞き終わると唐突にお腹の音が鳴ってしまい、思わず赤面してしまった。


「おーその表情も可愛いね!お腹空いてるんなら狩りに行くといいんじゃない?」


「余計なお世話よ!…私はもう狩りをする必要はないの」



 激怒したかと思えば、酷く寂しげな表情をしながらそう言う。



[ハーピー]


 歌を愛し、雌しか存在しない鳥獣種。他の種族の種より繁殖するも、生まれるのは100%ハーピーの遺伝子を継ぐ子供。その際に雄の役割を担った者は、滋養として種を受け継いだ者に喰われる運命にある。

 群れで生活し、その中でも最も強い個体がリーダーとなるが逆に言えば強くなければリーダーはすぐに交代され、弱者は群れから放り出される。老いによるものもあれば、下剋上によるものもあり、いずれにしてもハーピーの死因は概ね戦闘によるものか、捕食されることによるもの。


 なお、群れとしての脅威は1個中隊並だが、単体ではそれなりの腕を持つ冒険者が落ち着いて対処すれば始末が可能な存在。


 結果としてこの世界での立ち位置は所詮一介の魔物に過ぎない。




「私は…一時期ハーピーの群れを従えるボスだったのよ?でも何故か子供が産めなくてね。劣化種って蔑まれて追い出されたのよ」


 子を産めない自分に存在意義はない。死に場所としてこの山を選んだのだと、生きている意味はないのだと絞り出すように告げるその表情は今にも泣きそうであった。しかし男は同情するでもなく、ただ静かに話を聞いただけであった。アンデッドには死という概念なぞ関係ないのだろう、そう思っていた矢先にやっと口を開く。


「死んだこともないのに死を選ぼうなんて随分チンケな人生だったんだね」


「な、確かに子供は産めなくても私にはハーピーとして生きたことに誇りを持ってるんだ!アンデッド何かにわかってたまるか!」


「そんだけ元気があるんならもう少し生きてみなよ。今を実感できるならその方がよっぽどいいよ」


 アンデッドとは死を体現化したような存在、それが生きろと言ってくるなど、色んな話を色んなハーピーから聞いたがこんな体験をしているのは自分だけだろう。そう思うと思わず苦笑してしまうが、その反応に気を悪くした男は怪訝そうにする。


「むー、真面目に話しているのに」


「あははは、ごめんなさい。ちょっとおかしくって」


 男は頭を抱えるようにしていたが、すぐに手を取り払い、笑顔で彼女の方を見据える。






「じゃあこうしよう。

 ーー俺が君に生きがいを作ってあげよう!!」

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