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41.神託

 神は言われた。




 天と地を創造し、自らに似せた姿の生物たちの他に家畜や獣、そして徹夜明けのノリで影の中を動く魔物や魔族も生み出し、それらが聖なる地にて活動することを許した。


 やがて世界は神の手を離れ、気が付けば混沌と血塗られた歴史が繰り返されていた。問題解決にあたって人間に多少の加護を付与することができても、改善の兆候は一向に見えない。思い切って他所の世界の魂を拝借したうえで加護を与え、彼女らが管理する世界に解き放つと目に見えて結果が出るようになった。



 それからも継続的に異世界の魂を誘致し、今の世界は絶妙なバランスを保っている。魂の選定はよほど穢れていなければ自動で引き抜かれ、業務中のどちらかの女神と面接したうえで希望のスキル(チート)を付与され、地上に贈られる。



「以上が転生システムの話となります。ここまでで何か質問、意見等ございますか?」


『とりあえずこの世界が狂ってる諸悪の根源がお前らだってことは理解できた』


「ちょっ!?」



 人が争うのはどこの世界も同じだとしても、ノリで魔物とか作るなよ。しかも飾りっ気がないからと魔法や剣の世界で構成したらしいし。そこら辺を指摘すると叱られた子供のようにシュンとなってしまったが、それを無視して気になっていたことを尋ねる。



『ところでさっき言ってたスペックってどういうこと?あと転生者はスキルが付与されるってのは、知り合いの冒険者から聞いて知ったんだけど俺そんなもの付与された覚えないんですけど』


「スペックというのは容量の話ですよ。貴方がいらした世界は夢も希望もない場所なので、魂はスッカスカなんですよ。もう何詰め込んでもいいって位スッカスカなんですよ」


『二度も言わんでいい。あと余計なお世話だ』


 周囲を見回すとまだまだノートパソコンが床に落ちていたので追加で2台、彼女の膝の上に置く。それを受け、そろそろ彼女の膝がガタガタ震え始めている。




『それで、俺のスキルはどうなったの?そもそも面接すらしてもらってないけど』


 そう言うと気まずそうに顔を横に背け、深呼吸を何度か繰り返した後、視線を俺に向ける。


「やらかしました!!」


 無言でノートパソコンを3台追加した。





「うぅぅ、冒頭に謝罪させて頂いたのはその件なのです。本来は1人1人会うのが鉄則なのですが…実は交代の時に姉とくだらない喧嘩をしてしまって、腹が立って仕事も雑にやってたらその…」


『俺を見落としてしまった、と』


「…はい。あ、それでも行方は追いましたよ!?ちなみに学院で苦労されていましたが、あれは貴方の努力不足ではなくてこの世界の住人のスペックが高かったからです。むしろあの状態でよく魔法を体得できたなと感心するばかりで」


『とりあえず姉の太陽神を呼んで来い』


「ちょ、本当待ってください!姉にバレたら一生馬鹿にされてしまいます!というかもうちょっと説明させて下さい!こう見えて本当に反省しているんです!!!……えっと宜しいですか?」


 ノートパソコンを4台重ね始める。薄型の物とはいえ、そろそろ彼女の顔が見えなくなりそうである。



「うぐっ…それで貴方が亡くなった時のせめてもの償いに、天に召された際は偉業を成し遂げた方々のみが入ることを許されるVIPルームにご招待しようとしたのですが、亡くなられる直前にその…もう死にたくないと仰っていたので」


『それで俺をアンデッド化したと。素直にVIP連れてってくれよ』


「VIPは一時的な労いであって、しばらくすればまた輪廻に戻されるので。ちなみに解脱という言葉がありますが、あれ嘘です」




 嘘なのか。苦行を成し遂げて辿り着いた先はどこだったんでしょうか先駆者様。






『まぁ済んだことはもういいや。ところで俺はこの後どうなっちゃうの?』


「さぁ…物は試しでやってみたらできでしまったので。いずれにせよ、貴方はすでに世の理から逸脱してしまったので我々にはもう手の出しようもありません」


『…とりあえずお兄さんと約束しなさい。転生者の運用はともかく、二度と雑な仕事はしないこと。あとアンデッド化禁止。分かった?』


「はい!!」


『次やらかしたらド突きに来るからな』


「お、お手柔らかに…」



 そこは「もうしません」じゃないのか。

 深いため息を吐いたところで自身の身体が少しずつ透け、何かに引き寄せられる感覚に襲われる。まぁ何に引き寄せられてるのか、は何となく分かるのだが。



『時間切れってやつかね…俺はゲッカちゃんたちが管理する世界に居続けてもいいのかい?』


「ふふ、今のでフレンド申請が通ったとみなしますよ?貴方の死後の活躍は見守らせて頂きました。手法はアレでしたが、それでも私たちが管理する世界を貴方なりに守って下さいました。もう何も言えることはありませんよ。貴方は自由です…しいて言えばたまにお茶でもしに来てください」


 クスクスと笑う彼女を見ていると、出来の悪い妹が出来たような気がしてならないが、それでも微笑ましいのは変わらない。



 何処かで感じたような意識の遠のきを味わう。

 少しずつ視界が白い靄に包まれていき、眼前には先程の美少女が苦労してノートパソコンを膝から下ろしていたが、その姿も薄れていく。





「それではまたのお越しをお待ちしております。………[不死王リッチ=ロード]」



 新たな魔物としての定義を受けた俺は、ゲッカちゃんの悪戯っ子のような笑みに見送られて徐々に、現世に意識を引っ張られていく。


 それでも挨拶だけは決して忘れない。




『ばい、び~、ゲッカ……ちゃ…ん』



 そこで全てが暗闇に閉ざされた。

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