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40.月花神

 ここは…どこだ。


 最期は愉快な仲間たちに見送られて意識が遠のいて…





 いや本当にココどこだよ。



 さっきから白い靄をまるで夢の中にいるように漂っているのだが、最初は夢現とした気分に興奮していたが段々飽きてきた。本当に夢の中なのか、あるいは天に召される途中なのか。


 万が一後者だった場合、例のバカップルに彼岸で再会した時の言い訳を今からでも考えておかなければならない。なぜだろう。生きている時よりも死んだ後の方が悩みが増えた気がする。


 あながち地縛霊とか幽霊が存在する理由ってそこなのかもな…アンデッドも同じ類なんだろうかね。




 当てもなく彷徨っていると下の方が靄が薄いことに気付き、景色の変化を求めて下降してみる。視界が少しずつ開けてきたかと思うと、森に出た。正確に言えば鳥の巣がある枝の真上に俺が出現した形だ。


 何が起きているのか混乱していると卵が孵化し、元気な雛が親鳥に養われていた。なお、空中に浮遊する男には一切感心がないようであった。

 まるで最初からソコにいないかのように。


 そしてその雛は無情にも木を蔦ってきた蛇によって、その翼で飛ぶ機会に恵まれることなく胃袋の中へと押しやられていった。

 すると景色が、風に吹かれる砂のように移り変わる。



 次は水辺で亀が孵化するところからだった。

 先程の雛と違って環境に恵まれたのか、外敵に遭遇することもエサに困ることもなく、苦痛ともいえる長い時間を緩やかに過ごしてその生涯を川底にて閉じた。



 再び景色が移り変わる。







 その後も脈絡のないドキュメンタリーを俯瞰して見ているような状況が続いた。

 犬であったり、人間の女であったり、幸福な人生を送ることもあれば、生まれてきたことを後悔するほどの悲惨な結末を迎えた者、多種多様な人生を見送り続けてある一つの結論に辿り着いた。




『飽きた』




 他人のホームビデオをひたすら見せつけられるような拷問に近い感覚にいい加減飽き始めていた。最初はもの珍しさにしっかり見ていたが、休憩もなしに延々と実録話が再生されることに嫌気が差し、視線は画面に向けているが、頭の中では過去に見た映画をずっと流していた。



 そして何本目の映画を流したろうか、見覚えのある光景を見ることになる。

 自分の両親、最後に見た時よりかなり若く、嬉しそうに赤んぼを抱き上げてあやしていた。その後も大きな病気や事故もなく温かい家庭が続き、青年が成人を迎える頃に母親が病死した。悪性の腫瘍で、発見された時にはもう手遅れだったらしく、葬式を終えた後の父親は魂が抜けたように生活し、その後間もなく後を追うようにその生涯に幕を下ろした。


 青年は身内を失い、もともと目標もなく生きてきたこともあって大学卒業後は無難に就職し、いずれは独身の叔父と同様に心筋梗塞にでもなって最期を迎えるのだろうと楽観視している時に交差点で…。





 ノイズが画面に走り、場面が切り替わる。





 それなりにいい身分の家に生まれた赤子は前の映像の赤子に負けない位の愛を注がれ、そして世界情勢に巻き込まれる形で一息入れる暇もなく勉学に励み、戦場へと駆り出された。

 砦の中で恐怖に身をすくめ、一大決心でもしたかのように行動を起こすと…欠伸が出るほどあっけない終わりを迎える。


 ここまで来れば某漫画の知識もあって、というかその知識を前提に今回の涅槃を決行したわけなんだが、流石に何を見てきたのか気付く。




『俺の輪廻転生録ってことか……そう考えると誕生の第一歩が蛇の腹の中とは…複雑』


 何とも歯切れの悪い冒頭と終幕に目頭を抑えていると画面が砂嵐のように荒れ、やがて白い靄に周囲が包まれると目の前に藍色のドアが出現していた。




 近付いてみると木製の何の変哲もない扉であったが、生前の習慣で思わずノックしてしまう。


 コンコンッ



「入ってま~す」


『お邪魔します』


 何のためにノックをしたのか、問答無用でノブを回すとあっさり中へと入る。


「ちょ!入ってますって言ったじゃないですか!!」


 そこは相変わらず白い靄に包まれてはいたが、床にはノートパソコンが散乱している。

 扉から2メートル離れた地点にその内の1台を膝に抱えた、夜空のような色合いの長髪を揺らしながら怒声を飛ばす美少女が座っていた。











 ノートパソコンを静かに床に置き、先程まで怒声を上げていた少女が流れるような仕草で俺に土下座してきたことに戸惑いを覚える。


「この度は本当にすみませんでした」


『いや、まず何で謝っているのかを説明願いたい』


 美少女の土下座に罪悪感を覚え、必死の説得の末、膝にノートパソコン7台乗せた上での正座で妥協してもらえた。

 どうしてこうなった。



「改めて名乗らせて頂きます。私、この世界の管理人を勤めております[月花神]と申します。まずはこの世界の理について」


『ちょっと待て』



 俺が転生した世界では双子の女神が信仰されていた。

 1人が慈愛と光陽を司る[太陽神]、もう1人が宵と暁を司る[月花神]である。この小娘が言っていることが正しければ、俺はこの世界の神との接触に成功したことになるんだが…初対面の土下座がその全てを台無しにしていた。


『本当にあの月花神…様?』


「その月花神です。そんな硬くならずともゲッカちゃんって呼んでくださっても構いませんよ?」


 あっけらかんとしているが、一応嘘ではなさそうだ。というのも剣と魔法が跋扈する中世のような世界に対し、白い靄空間でノートパソコンを持った女に他に納得のいく説明が浮かばなかった。


「話を戻しても宜しいでしょうか?コホン。先程も申し上げましたが私はこの世界を管理している者です。正確にはヨウちゃんと12時間交代で業務をこなしているんですがその内の1つに輪廻転生も入っています」


『ヨウちゃんって太陽神のこと?』


「本人はその呼び方は硬っ苦しくて好きじゃないそうですよ?それで転生の件ですが、こちらは自動化に成功したことで私たちの労力をかなり軽減できたんですよ!いままでは書類の山から選定していたのですが、必要な情報を入力することで情報を抜き出し、異世界の魂をこちらに誘致して世界のバランスを保ってもらっていたんです」


『異世界、ってようは俺がいた世界の魂ってこと?この世界の人たちの魂では駄目なの?』


「スペックの問題です」


『何のスペック?』





 その後も神様による直々の説教は続いた。

重ね重ね、ブクマ及び評価いただき、ありがとうございます!

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