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39.別れは連鎖して

 その後、涙の別れとともに2人は街を後にした。

 その頃までずっとセシルたちの話を右から左へと聞き流していたゴリアテはサイレントウォーカーの決定を王女たちにも告げ、自らも旅立つことを伝える。


 カンジュラの守護神として離れられることを心配そうにしていたが、これは建国した王子たちにもやったことだから大丈夫と無理矢理言いくるめ、何とか解放してもらう。王家からの涙の別れを受け、颯爽と門を潜る2人の元へと飛び降りるとアミルの肩に止まる。


「やっと解放されたのか?お疲れ様」


<聞き流してたから平気…2人はこれからどうするん?>


「さてな。冒険者稼業を続けようかとも思うんだが…アミルは?」


「俺はティアラに勝手についてくよ」


「本当に勝手な奴だ」


 2人で楽しそうに苦笑していたが、ゴリアテ、そしてゴライアスの中ではすでに彼らの理想の未来を勝手に思い描いていた。


<ティアラ、エルフの里ってのは人間も入れるのか?>


「里?エルフが1人でも迎え入れれば問題ないが」


<じゃあ決定だ。アミル、ティアラと結婚してエルフの里で暮らせ>









「「えっ?」」


 はっきり言ったつもりなんだが聞こえなかったのか?

 互いに顔を合わせると真っ赤になって再びこっちを見てくる…この光景もこれで見納めだな。


「な、なにを言って」


<そのままの意味さ。今回の依頼で一生分の冒険は出来たろ?幸運と夢を撒く鳥とねずみ的にはハッピーエンドを是非実現してほしいね>


「後半適当だろ」


<本心さ。それに互いに別の相手とくっつくのが想像できるか?>


「「出来ない」」


 即答の上、ほぼ同時に言い放った2人は首まで赤くなっていた。それを隠すためにティアラが俺に言葉を投げかけてきた。


「それでお前はどうするんだ!?」


<俺は…ちょっと旅に出るよ>


「旅ってその身体を使ってか?何ならお前もエルフの里に」


<アミルの里行きはもう決定なんか>


 自らの失言に手まで真っ赤になり、つられてアミルも俯いて悶え始める。


<ちょっと試したいことがあってね。当分は、じゃないか。下手するとこれが最期の接触になるかもね>


「…どういうことだ?」


 その言葉にやっと冷静になった2人に俺の壮大な計画、というより先人様の偉業を試す話をした。


 早い話が[涅槃]である。


 アンデッドとして人の生を乗り越えた俺が、次に目指すべきはそこだと勝手に考えたのだ。同時に自分の能力の限界に直面しているのを感じており、貧弱な本体ステータスを上げるためには死んで再び生き返るしかないと思ったのだ…あれ、瀕死状態から回復すると強くなるんだっけあの野菜人。

 しかし馬鹿な真似は止めろと口やかましく2人に止められた。俺もエルフの里に来るように、と。この世界である意味居場所を探していた俺からすればとても心地のいい誘いであり、いままででとても嬉しい申し出だった。


 しかし俺は魔物だ。




<俺の意識は途切れても多分こいつらは動き続けるよ。だから安心して不死身の愛玩動物を愛で続けなさい。それに中の人がいなくなって嬉しいだろ?>




「そういうことではない!!」




 こぶしを握り、間髪入れず泣きながら至近距離で叫ばれる。魔女宅のキキも話せなくなった黒猫相手に、こういう感じだったのかもしれんな。


「言え!私に何か不満があるなら全部直すぞ!!何ならアミルも叩き直す!」


「どこを!?」


 完全にとばっちりを受けているアミルに微笑ましさを感じながらも、何故か嫁に行く娘を持つ父親みたいな気分になってきた。この時ほどアンデッドでよかったと思ったことはない…泣いていたかもしれない。


<俺の我儘だよ、気にしなさんな。それにこの身体はティアラにあげるよ、俺からの餞別ってことで>


「…鳥とねずみの死体を送るなど悪趣味な冗談だな」


<全くだ>


 その後、彼女が泣き止むまで笑った後、意識が遠くなっていく感覚に襲われる。


<実はお祭り騒ぎの時から試しててね。そろそろ意識もってかれそう>


「な、事後承諾か!?」


<そういうこと。……ま、凄く楽しかったよ。もし2人が生きてる間にまた会えたらガキの5人や6人は作っておけよ?お爺ちゃんですって挨拶に行くから>


「お前みたいな爺ちゃんは嫌だ…嫌だけど、転生仲間のよしみで考えといてやるよ」


「おい!今の約束!!絶対に忘れるなよ!!!必ず私の故郷を訪ねるのだぞ!」


<う…ん。約……束、する…よ>


 徐々に瞼が重くなるような。視界が薄れていくのを感じる。


 ティアラの泣き顔と、アミルの哀愁漂う顔がアップに映っているのもなかなか圧巻であった。やはり録画機能の研究もするべきだったと半ば後悔しつつ、2人に出会えたことを祝福しながら徐々に意識が沈んで行った。





<ばいび~>

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