30.邂逅
<つまり転生者はこの狂った世界の調和をもたらすために不定期でこの世界に放り込まれる。それをやってるのがこの世界を司る神様で、お礼としてスキルが付与される、と>
「そういうこと。ちなみに太陽神って女神様だった」
<スキルは?>
「[剣神]って言ってあらゆる剣技もこなせるってスキル」
<その何とかって女から何も付与されてないんだが。てか会ったこともない>
「アンデッド化がそうなんじゃない?」
<付与された時点で火に飛び込んでたわ>
その後も敵対関係にあったことを忘れ、互いが前にいた世界、こっちにきてからのアミルの冒険譚を聞いた。その頃には完全にアミルはベッドに仰向けで語り続けており、彼の立てられた膝の上にゴリアテが止まる形になっていた。
雑談を交えつつ、ずるずるとティアラの話に持ち込まれる。
<で、彼女のこと好きなんだろ?告らんのか?>
「……俺は転生者だ」
<転生者が恋しちゃいけないってルールでもあるん?>
「聞いたことはない…が、どうしても自分がこの世界では異物で、そのことが彼女を傷つけたりするんじゃないかって、自分はここにいていいのかって、どうしても思うんだ」
気付くと目を片腕で覆っており、そこから先を話そうとしない。
<じゃあ聞くけど、このまま冒険仲間で終わるのかい?彼女の言葉、君に届かなかったわけじゃないだろ?>
「…他人事だってのに随分つっかかってくるな」
<付き合いは短くても一緒にいた時間は長いからね。取引相手兼ご主人様の幸せは叶えてやりたいだろ>
返答はない。いまだ何かと葛藤しているようだが、元人間とはいえ、人付き合いがうまくもなければ完璧に魔物になった今の自分が彼の気持ちを理解できるか自信はない。それでも人として二度も人生を失敗した先輩として彼を導く必要があると感じた。
<ティアラが他の男にとられてもいいのか?>
「……いやだ」
<どこかで野垂れ死んだり、一生誰とも交わらずに一人で生活させたいか?動物にも嫌われるような娘だぞ?>
「…いやだ」
<俺が彼女をこの魅惑のボディで誘って君から離れるよう仕向けてもいいのか?>
「いやに決まってるだろ!!」
勢いよく起き上がると両手でゴリアテを握りしめる。
ただその手には力が込められていない。
「……いやに決まってるだろ…」
弱弱しい。ゴリアテを握る手も声も、消え入りそうなほど静かに、絞り出すように言う。
<俺は2回も死んでる。どっちもクソみたいな人生だったし、終わり方も同じようなもんだった。それでも魔物として復活して、お前のパーティに殺されかけたけど死にたくないと思った。なんで死にたくないのか今でも分からないがきっとまだやりたいことを探してる途中なんだと思う。それでも人としてやりたいことは二度とできない。一度しか言わないぞ、死んで後悔するくらいならやって後悔しろ!!!>
長い沈黙が流れた。
ふふっ
一人の青年の苦笑によってそれは破られた。
<…まじめな話をしてたはずだが?>
「すまない、小鳥に怒られてると思うとどうしても、な?」
考えてみるととてもシュールな光景が想像できて、それが滑稽で、二人して思いっきり笑った。あくまでも夜だという事を考えての声量ではあったが。
笑い終えると、視線が互いに交錯する。
<で?彼女のことは?>
「…決まってるだろ」
青年との付き合いは洞窟に始まり、王族乱痴気騒ぎに巻き込まれてからいままでの僅かな時間しかないが、それでもここ一番の笑顔を向けていた気がした。
<その笑顔を俺に向けるのはどうかと思うんだが>
「はは、そうだね」
<てなわけで本日のゲスト、どうぞ!>
不意に扉にくちばしを向けるゴリアテを怪訝そうに見ながらも、目線をそちらへと向ける。するとゆっくりとドアが開き、訝しんでる青年の目にはそこに佇んでいる、泣きはらした目と赤い顔をした美しいエルフが立っていた。
「…ティ…アラ?」
エルフもどうすればいいか分からず、それでもその目はしっかりと青年を見据えていた。
<さっきの会話、全部ゴライアスを通して彼女に流してたのさ>
「…へっ?」
<俺は[幸運の青い鳥]にして[夢をまくねずみ]様様だよ?これくらいのこと朝飯前だっての>
「……余計なお世話って言葉知ってるか?」
<俺が発破かけなかったらどうなってたろうね>
「うっ」
徐々にゴリアテを握る手が強くなっていたが、痛い所を突っ込まれたところで思わず手を離した。
「…アミル」
ふと、彼女の存在を再認識し、当初の立ち位置より大分彼に近付いていることに気付いた。
<俺はこれ以上関与せんし、邪魔者は撤退するよ>
ばいびー、と気の抜けたような挨拶を聞くと同時に扉は締まり、それを合図にベッドで横になっていたアミルにティアラは抱きついた。
「昨晩はお楽しみでしたね」
ニヤニヤしながらミネアとボルトスはパーティのリーダーであるアミルと斥候役のティアラに、朝食を取りながら下衆な声をかける。
2人の目の下には隈ができており、互いの顔はトマトのように赤く染まっている。
そもそも朝になって同じ部屋から出てきたのをミフネに目撃されたことに始まり、弁解しようとした所でミネアが合流。面白い玩具を見つけたかのようにボルトスに報告しに行ったのがこの現状を作り出すきっかけとなった。
ミネアはしきりに獣2匹に昨晩のことを訪ねるが、知らん存ぜぬを貫き通してくれている。ある意味でこの状況を引き起こした元凶でもあるわけだが。
その様子を不思議そうに窺っていた王族コンビであったが食べ終わると早々に出発宣言をし、ゆっくり食べていた面々は慌ただしく準備を始めて馬車に向かい、カンジュラへと旅立ったのであった。




