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29.尋問

「…え?」


 アミルとかっちり目が合い、目を見開いているが一体何がどうなっているのか、何故自分がアミルを抱いているのか、一瞬で2人はパニックに陥る。


「あの、使者様」


 おずおずとフェリペが話しかけ、2人か彼を見上げる。


「先程そちらのねずみ…さんが緑色の靄を傷口から吸い込んでいるように見えましたけど」


 その言葉に、ゆっくりと胸ポケットにいるゴライアスに視線が注がれる。

 本人は何事もなかったように振る舞っているが、説明しないわけにもいかないと中の人は新たなキャラクターを生み出すことにした。


<よく気付いたな小僧。我は夢をまきしねずみ、幸運の青い鳥と対をなす者だ>


 先程の雰囲気をブチ壊すかの如く悠々と言い放つ姿に2人は石化する他なく、それを意に介さず好奇心旺盛といった様子で語り掛ける。


「夢をまきしねずみ様ですか!青い鳥様に続き、僕はとんでもない歴史的瞬間に立ち会っているのですね!!…ところで先程猛毒だとおっしゃられてましたが、使者様は何故無事なのでしょうか?」


<うむ、我は毒を多少操作する力を有する。ゆえに我が使者の体内より吸い出したまでよ。まぁ初の試みだったのでうまくいくとは思わんかったがな>




 流石です!と惜しみない賞賛を獣2匹に注いでる間も冒険者2名はとても気まずい時間を過ごしていた。抱き合ったままの状態でどうするか、顔は真っ赤で互いに滝のように汗を流していた。


<行くぞ汝ら。宿に向かうのだ>


 まるで石化の魔法が解けたかのように2人は互いから離れ、明後日の方向を向いていた。その様子をクスクスと苦笑しながらフェリペは宿へと歩き始め、その両肩には気をきかせた獣が2匹とも乗っていた。

 その後方を気まずそうに、それでも今まで以上に親密に、肩を並べて歩く2人の姿があった。








「そういえば死体は?」


<俺が回収したが?>


「「「えっ?」」」


<えっ?>









 その後、宿に無事につき。王子も一室をあてがわれるとそれぞれが部屋に戻って行った。


「ティアラ」


 部屋に戻ろうとするとアミルが話しかけてきた。

 もしや先程のことだろうか、と目を回しながら何と答えればいいか悩んでいたが次の言葉でそれも杞憂に終わった。


「ちょっと…ゴライアスかゴリアテのどっちか借りてもいい?」


 予想外の申し出に目が点になるが、言葉の意味を脳に浸透すると目に見えて動揺した。


<問題はない>


 ゴリアテは颯爽とアミルの肩に止まり、ティアラも何か言おうとしたがあの男のことだ、きっと大丈夫だろうと無理矢理自分を納得させ、部屋に戻って行った。










 アミルに部屋へ連れ込まれると彼は机にゴリアテを乗せ、目にも止まらぬ速さで即座に剣先を喉元へ突き付ける。


「答えろ、お前は何者だ?」


<…ティアラの使い魔だが?>


「嘘をつくな」



 先程ティアラとイチャついていた同じ男とは思えない殺気を放っていた。両者の間で深い沈黙が続き、剣先はぶれることなく同じ位置で構えられる。


<……何を根拠にそう思う?>


「お前と初めて会った時、ティアラの様子がずっとおかしかった。最初は洗脳されているのかと注意してたが、むしろいままで凛としていた分可愛くなってきたというか、いやそうじゃなくて!…単刀直入に言おう。お前は……転生者か?」








<Q&Aといこうか>


「何?」


<俺が質問して君は正直に答える。君が質問して俺は正直に答える>


「ふざけるな!!」


<ティアラは応じたぞ?>


 その名前を聞き、彼は動揺した。何に動揺したかは自身でも理解できてはいなかったが、それでも一瞬視界が揺れたような気がした。やがて視界を正すと相変わらずアミルを見上げる無害そうな小鳥しかいない。複雑な思いはあったがゆっくりと剣を鞘に納め、小鳥と相対する。


<OKってことかな?じゃあ俺から答えよう。俺は転生者だ>


「…あっさり白状したな」


<聞いたのはそっちだろ?ではこっちから。何故そう思った?>


「王子と店で会った時、[善は急げ]って言ったよな?この世界にそんな諺はなかったはず」


<近いものはあるかもよ?>


「だとしてもだ。夢をまきしねずみはふざけすぎだろ?」


<他に何も思いつかんかった。後悔も反省もしていない>


 こいつは、と言いながら呆れた顔をしているが自分の正体を隠さずに話す喜びを僅かながら感じていた。疑問はたくさんあるがそれでも自分と同じ、[転生者]が目の前にいることに。


「お前は鳥とねずみとして生まれたのか?それとも1人2役か?」


<いや、同じく人間として生まれたよ。ただこの世界には先に生まれたはずだから君の先輩にあたるのかな>


「鳥やねずみが長生きできるとは思えないんだけどな。それに身体が2つってどういうことだ?」






 そしてアミルはこの世界に転生した時以上の動揺を覚えた。

自身の生まれと死、アンデッド化、同胞のバーベキュー、ティアラとの出会い、持ちかけた取引。エピソードごとに次々と変化していく彼の表情を、遠い地で中の人は心底楽しんでいた。


<以上がいままでの異世界ライフ、じゃ君の番だね>


「待て待て、何で魔物化してるんだ?それに俺たちを、フォカさんを!!」


 声に怒りを帯びているが、男は全く取り合わない。こんな目が出来たのかと睨みつけるアミルを静かに見続ける。


<言ったろ、俺は解放したって。それで振り返った時背中を切りつけてきたんだ。どっちが悪者だって話だよ>


「それは!」


<俺が魔物だから殺されてもいいって?>


 その言葉に何も言い返せず、俯いて沈黙してしまう。怒鳴りつけてやりたいことはたくさんある、それでも転生者同士、この世界の異常さは知っている。法も命も軽んじられ、実力なくば即退場。現代日本に住み馴れてしまった凡人からすれば、煉獄に落とされたような気持ちにさせられる。


<ちなみにティアラは俺に死ねって正面切って叫んでたなぁ…大切にしてやんなよ>


「な、ティアラは、か、関係な」


 突然の話の展開に思わず首まで赤く染まる。


「てかお前!視界見えてるってことはティアラの!!」


<安心しな。本人は了解済みだし、俺のアレは…残念ながらアンデッド化の影響でなくなってるし、彼女にこいつら与えた時、動物に好かれた!ってむしろ喜んでたよ>


「…あぁ…」


 彼にも思い当たる節があったらしく、がっくりと肩を落とすもそれ以上言葉が続かなかった。


<で、君の話を聞きたいね>


「…何もないよ。平民として生まれて魔法の世界だからって浮かれて冒険者になったマヌケなガキだよ」


<本当につまらんね>


「うるせぇやい」


<でも冒険者って大変だろ?よく生きてたね>


「そりゃスキルもらったし」


<えっ?>


「えっ?」

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