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28.青い鳥の祝福

<我は幸せの青い鳥なり。汝らの巡り合いのためにこの世に顕現した>


 セシルは目を輝かせているが、依然として目を見開いているフェリペはゆっくりと口を開く。


「あ、青い鳥って、あの、カンジュラの王子様が結婚したっていう話の」


<そうだ。汝らの姿はまさに当時の彼らを思い起こさせる>


 勿論当時のことどころか伝説が本当なのかすら分からないが、2人の婚姻を後押しするには適当に話を合わせるしかないと判断した。


「えっと、僕は姫様のことは、嫌いでは、ないと思います。でも鍛冶しか取り柄がないし、国を統治するなんてとても…」


「お任せなさい!難しいことは私がまるっと解決してますわ!それに私も貴方の事、嫌いではありませんわ」


 再び4人とも頭から湯気が上がる。

 青い鳥の効果なのか、出会って30分で婚姻まで結ぶ状態に違和感しか感じなかったがうまくいっているならば口出しをする必要もない。

 何よりもこのリア充空間にいることが居た堪れない。


<政は彼女に任すのだ。汝の鍛冶技術、それをカンジュラに後世まで伝えていくのも立派な役目だ。汝はもっと王族たる自身を誇るがよい>


 伝説の青い鳥の啓示、それを聞いた彼の目にもはや迷いはなく、真っ直ぐにセシルの目を見る。


「姫様、いえセシル王女。僕は戦う術も知らなければ政治に関わる実力もありません。しかし、セシル王女を守り、共にカンジュラを導いていきたいと思います。…僕を、僕と結婚して頂けますか!」


 そろそろ誰か死ぬのではないかというほど頭から湯気が立ち込めるなか、セシルは涙ぐみながら頷いた。



<そうと決まれば出立の準備をせよ。善は急ぐのだ>


「あ、青い鳥様」


<なんぞ?>


「き、今日はもう遅くて馬車も出ておりません。今宵は我が国で泊まっていかれてはいかがでしょうか?先程の店員、親方や父上にも挨拶していきたいですし」


「それで私も構いませんわ」


 アミルたちも了承し、ひとまず宿を取ることになった。念の為ゴリアテをフェリペにつけ、冒険者は宿屋で合流する。

 セシルは長旅の後、休むことなくフェリペを探しに行った疲れが限界に達し、部屋に入るなりすぐに寝入ってしまった。



「で、何故お前たちは買い物をしていたんだ?」


 宿につくと正座して床を見つめる3人と鬼の形相で仁王立ちするエルフの姿があった。


「いや、違うんだ。見つかったって報告受けたからその間に買って回っただけで」


「ゴライアス」


<買い物ついでに王子を探してたな>


「あ、裏切者!」


 ミネアが声を上げるとティアラの一睨みでまた目線が下げる。


「…2人の分も……ちゃんと買った…よ?」


「そういう問題ではない」


 おずおずとミフネも見上げたが、その一言でとんがり帽子を深くかぶって目を隠す。アミルはティアラの後ろでなんとも言えない顔をして立っていた。


「その辺にしてあげなよ」


「アミルもアミルだ!こいつらが仕事中に腑抜けるのはいつもアミルが甘やかすからで!」


 怒りの矛先が変わったことにほっとし、そろそろと逃げ出そうとする。


<ティアラ>


「あ、また裏切る気!?」


 相変わらず恐ろしい形相で振り返り、3人を睨みつけるが報告内容はソレではなかった。


<フェリペが危ない>


 それと同時に弾けるように出口へ向かうティアラに驚きつつ、アミルは3人にセシルを守るよう伝えて彼女の後を追う。

 セシル王女を救出する時もこんな感じだったな、と思いながら。








「どこだ?」


<王城からの坂道を下って宿に向かってきている。4人はいる>


「伝えることはできないのか?」


<不用意に動揺させれば敵に感づかれるかなと>


 走りながらも状況確認を行うが、敵は恐らくカンジュラの諜報部。王女の動きを察してフェリペの捕獲か殺害を企てているとしか考えられない。


<まずい、人気がなくなる。向こうも動き始めた>


「何とかできないのか?」


<今店で買い物をするよう仕向けた。しばらくそこで足止めさせるけど、いつまでもつか分からんよ>


「いや十分だ。アミル、急ぐぞ!」










「褒美ですか?」


<うむ、正式なものは恐らく王女が出すだろうが汝が我が使者に貢ぐのも悪くはなかろう?>


 そういうものなのかと疑問はあったが青い鳥の言う事だ、彼の話はしかと聞かねばと唯一開いている店に飛び込み、商品を吟味する。


 この店が開いていた理由は店員が椅子に腰かけて熟睡していたからであったが、ゴリアテ側としては多少時間稼ぎができるとほっとした。


 食料品店として甘味を豊富に扱っており、フェリペ自身ももの珍しそうに色々見て回っている。しかしその背後では少しずつ距離をつめる刺客がおり、最悪防護魔法の使用も検討していた。



「青い鳥様、こんなのはいかがですか?」


 その言葉を発し終わった直後、暗闇から2人飛び掛かってくる。

 防護魔法の準備をすると目前に迫った刺客が不自然な横跳びをし、そのまま地面に倒れ伏した。驚いた2人目が立ち止まると同様の現象に自らも襲われ、地面に倒れる。



 様子を窺っていた残る2人は注意深く同胞を観察すると頭部に矢が生えていることに気付き、撤退を始めるが、


「遅いんだよ」


 後方の1人は瞬時に首を一振りで切り落とされ、もう1人は右胸に矢が刺さり、その場に崩れる。




 ようやく事態に気付いたフェリペはポカンと背後で起きた一瞬の出来事についていけず、放心するフェリペに大丈夫かと荒い息を吐きながら店に辿り着いたティアラは訊ねる。

 王子は無言で頷きを返し、彼らが起こした惨情を見回す。


「青い鳥の加護だ」


 そうフェリペに笑いかけるとティアラは言い、アミルも2人に合流する。


「ゴリアテ、王子が安全な旨を宿に伝えてくれ」


<了解した>


「ゴリアテ?」


「あ、えっと、尊い神の名だそうだ。うん」


 1人納得するティアラに苦笑しつつ、ふと気配を感じて背後を振り返る。

 最後に射られた刺客が震えながら竹筒を咥えてティアラに筒先を向けており、そこから何かが勢いよく射出された。


「危ない!」


 ティアラを庇うように飛び出るアミルのわき腹に針が刺さる。それを見たティアラは即座に矢を刺客の眉間に撃ち込み、苦しそうにしているアミルを抱きかかえる。


<猛毒だな、このままだと助からんね>


 胸ポケットに待機していたゴライアスの一言が彼女の心に突き刺さる。


「そんなことはない!アミルはこんなところで死ぬ男ではない!おい、アミル!!聞こえているのか?おい」


 揺さぶろうとするも毒のことを考えると下手なことは出来ず、かといって何ができるかもわからず愚直にアミルに話し続ける。


「私が冒険者を辞めようとしている時、何故冒険者を続けたか不思議がっていたよな?あれはなぁ!あれはなぁ…」





「…お前と出会えたからなんだ」




 声が小さくなり、涙をこぼしながら動かないアミルに語りかける。


「もう、顔見知りが死んでいくのが嫌になったんだ。だからお前と初めてパーティを組んだあの日を最後にしようとしたんだ。…なのに、お前の笑顔が眩しくて、あともう1日一緒にいたいと思うようになって引退を引き延ばして…」




「だから…私を置いて行かないでくれ」





 最早動かないアミルの頭を抱え、ゆっくりと唇を重ねる。

 やっと素直になれたと思った時にはもはや手遅れ、自嘲する余裕もなくとめどなく流れる涙がアミルの頬を濡らす。


「私を置いて行かないでくれ」












「えっと…俺はどこにも行かないよ?」

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