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27.王位なる鍛冶師

 その後も問題なく馬車は進み、目的地たるゲシュタルトに到着した。門番にギルドカードを見せると

、すんなり門を通してもらう。


 右を見ると武器防具、左を見ても武器防具、そこは鍛冶神の名に負けない光景、品揃え豊富な店が辺り一面に広がっていた。当然ながら冒険者の面々は涎が出そうなほど商品に魅入っている。


「皆さま、買い物は後にして頂けますか?」


 全員をたしなめ、呆れ顔で城へと向かう姫様と目移りしながらもしぶしぶ付き従う冒険者の面々。自分がしっかりせねばと周囲の警戒を本体に命じられるゴライアスとゴリアテ。



 しばらく歩いて行くと砦と見間違うような立派な城が都市の中央にそびえ立っていた。カンジュラは砦というより王様が住むような城らしい城であった。


「止まれ!城に何の用だ!!」


「私、カンジュラにて王女の座に就いておりますセシル=カンジュラと申します。我が都市における重大な事案につき、そなたの王の謁見を願いたい」


 いつも通りの業務のはずが、隣国の王族の突然の訪問。こんなシミュレーションはマニュアルになかったと言わんばかりに焦るが、セシルは構わずネックレスを渡す。


「こちらが我が王族である者のみが所有するネックレスです。後ろの方々はこちらまで護衛を依頼した青い鳥の使者になります」


 前者はともかく、後者の話を聞いて何度も冒険者とネックレスを門番は交互に見ており、その視線に多少気まずさを覚える。

 しかし、セシルに急ぐようせかされ、確認のためと城内に駆け込む。



 少しすると先程の門番と一緒に執事服を着た年老いた男がセシルの元へやってくる。


「大変申し訳ありませんでした。どうぞこちらへ」


 そう言うと老いを感じさせない、キビキビとした歩きで一同を城の中へと案内する。


「おう、カンジュラの姫君か!息災であったか!?」


「おかげさまで」


 王座、と呼ぶべきなのか。部屋そのものは広いのだがどちらかといえば編集長の机といった状態で書類が積み上げられていた。


「散らかっていてすまんな。戦地や他国に武具を輸送したりで忙しくてな。各地でいつ終わらぬとも分からん争いで自国が富むというのも皮肉な話だ」


「そんなことはありません。例え争いがなくなろうと冒険者という職務はなくなりません。それに魔族の争いに打ち勝つこと、その手段である装備品の普及、それがなくなれば我らの牙はもがれたも同然です」


 ありがとう、そう言って弱弱しく微笑む王は咳払いをすると気を取り直して机の前へと歩み出る。


「改めて名乗ろう。儂はチェールズ=ゲシュタルト。ゲシュタルトの王にして民を統治する者。冒険者諸君、セシルが世話になっておる」


 ニコニコしながら挨拶をし、かつ約束もなしに押しかけた姫を怒るどころか呼び捨てにするあたり、両国の仲の良さが窺える。それぞれが挨拶をすませるが、案内されている途中でティアラより青い鳥に関しては秘匿するよう厳重にセシルは言い聞かされていた。


「それで、此度はどのようなご用件で?」


 それからカンジュラ王の死、宰相の企み、王子の受け入れ、勿論青い鳥の話は伏せて全て話した。淡々と話しを伺っていた王は、やがて沈痛な面持ちで目を閉じながらもゆっくりと口を開く。


「…そうか。奴は儂よりも先に逝ったのか。どちらが先に死ぬかあの時の賭けに乗っておけばよかったのう」


 悲しそうに笑っていたが、顔を上げて再びセシルを見る。


「セシルも大変であったな。その兄にして長男であるファルスが跡継ぎゆえ、フェリペに王位を継がせてもらえるならば願ってもないが…あやつは政治が嫌いでな。今は鍛冶師になると言って街の方で修行しておる」


 王子がそんなのでいいのか、言い出しそうになった言葉を一同飲み込むが、当の本人は遠慮されることを嫌って一般市民と身分を偽っており、現在どこで働いているかも分からないようだ。

 この国は大丈夫なのか、再び言葉を飲み込む一同に対して見つけられればそのまま持ち帰っていいと書状を渡される。カンジュラの王位継承問題が急務であることを考慮したうえでの判断であった。


 セシルは礼を言うとメンバーを引き連れ、すぐさま王城を出た。


「早速フェリペ様を探しましょう!」


「「おーー!」」


「いや、フェリペ…様の外見は誰も知らないのでは?」


「私は絵画で見たことありますわ」


「…さっき王座の間に絵が…かかってた」


 全く締まらないが、少なくとも2人は顔をおおよそ知っているということで二手に分かれ、店をしらみつぶしに調べていくことになった。


「俺はティアラとセシル様で、魔女っ娘2人はボルトスが守ってあげて」


「魔女っ娘言うな!!」


 そしてゴライアスはボルトス一行、ゴリアテはアミル一行と行くことで互いに連絡が取れるようにした。


<飛んで回るかい?>


「いや、今回は連絡手段だ。私の肩の上にいればいい」


<了解>


「王の寛大な心は痛み入るが、せめて息子の所在くらいは把握するべきだと思うのだがな。店だけでもどれほどあるというのか」


 右も左も店だらけ、多少の違いと言えば服か食糧を売っているかの程度。しかし依頼は依頼、大人しく店に聞き込み廻って地道に探すしかない。






 何十件聞き込んだろうか、いまだ王子の行方は分からず、どちらのパーティも見つけられずじまい。

 あと何件か確認したら今日は切り上げようと指示を出し、疲れながらも何とかボロボロの店にいたおじさんに話しかける。


「上品そうなガキ?フェシュタルトのことか?」


 心当たりがあるような物言いに一気に期待が高まる。

 ひどい名前ではあったがフェリペ=ゲシュタルトをもじったもの、のように聞こえなくもない。


「あいつの知り合いか?ちょっと待ってろ、フェーーーシュ!!」


 大声で怒鳴ると店の奥からノソノソと青年が出てくる。あちこち汚れてはいるが、それでも振る舞いの所々でどことなく上品さが窺いとれる。

 不思議そうに客人を見ているとセシルはズカズカと上がり込んで彼の腕を掴む。


「フェリペ=ゲシュタルト様でいらっしゃいますね?お初目にかかります、セシル=カンジュラと申します。一刻も一国も争うのでいますぐ私と来てくさだいませ」


 え、カンジュラ?隣国の?なんで?といった面持ちでアミル達とセシルを交互に見る。


「セシルさ、セシルさんまずはきちんと事情を話しましょうよ」


 わいのわいのやっているなか、空気を読んでくれた先程のて店員は買い物に行ってくるといって店を出て行った。逆にフェリペは味方がいなくなったかのような顔をしていた。




 落ち着いた王子王女を居間に上げ、王に話したことと同様の内容を伝えた。最後まで話を聞いたところで神妙な顔つきでセシルを見据える。


「そうですか…大変だったんですね。貴方の父には僕もよくして頂いてました。僕なんかが力になれるならいくらでも力をお貸ししたいのですが…」


 そこまで言うと急に言いよどみ、次の言葉を探しているようだった。セシルとしては書状がある限り、フェリペが何と言おうと引きずってでも連れ帰る気でいた。

 やがてフェリペは口を開く。


「ですが僕は政治や軍事なんかさっぱりですし、こうして鍛冶に精を出している方が性に合ってるんです」


「鍛冶ならばカンジュラでもできます!貴方が来ねば邪な宰相に国を乗っ取られてしまうのです!」


 答えに納得のいかないセシルはフェリペの肩に掴みかかり、必死の形相で語りかける。その気迫に一瞬怖気ずくも、すぐに態勢を立て直すが徐々に顔が赤くなっていく。


「で、でも、僕が王位に就くってことは、その…僕と姫様は、一緒に」


「……あ」


 自分が何を口にしているか、ここまで出向いて彼女はやっと気付き、同様に顔が真っ赤になるがアミルとティアラもつられて真っ赤になる。



 なんだこの空間。



 リア充オーラに苛立ちを覚えるゴリアテの中の人。

 しかしいつまでも店員に気を遣わせて外にいさせるわけにもいかず、突破口を開くために彼はどうにでもなれと行動に出る。


<我が運命の愛し子よ>


 躍り出るように王子王女の間に舞い降りる。

 驚愕の目で見るフェリペ、まぁと少々驚くように眺めるセシル、完全に石化しているアミルとティアラ。


<我は幸せの青い鳥なり。汝らの巡り合いのためにこの世に顕現した>

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