26.襲撃?なんのことだ
鍛冶神の国[ゲシュタルト]
かつてドワーフを盟友としたが、やがて戦乱によって交流を失われていったものの数々の伝授された技術は継承・進化を続け、カンジュラと並ぶ偉大な都市として今もなお存在し続けている。
その国を目指し、着々と旅を続ける一行がいた。
馬車を借り、城塞都市を出発して3日目になる。
明るいうちはコポルトやオークの襲撃を受けるも、ミフネの風/ミネアが火魔法を展開しつつティアラが弓で迎え撃ち、近づけばアミルとボルトスによって切り伏せられる。さらにミフネの風魔法の応用による気配感知やゴリアテによる探査能力によって不意打ちなぞあってないようなものだった。
夜は野営を繰り返つつ、何度か山賊や魔獣の襲撃を受けたが2匹の寝ずの番の見張りによって警鐘された一行は襲撃を全て迎撃し、たっぷりと睡眠を取れた護衛は今日も変わらず仕事に精を出す。
なお、王城暮らしの姫は慣れない長旅に1日目からダウン。硬い床に寝続けてたことでこの日は馬車の荷台に揺られるだけの生ける人形と化していた。
「ま、まだ着かないのですか?」
腕で目を覆いながら仰向けになり、かろうじて言葉を絞り出す。
「まだ3日目ですよ?あと2日は頑張ってください」
手綱を握りながらアミルが苦笑しつつ返答する。
彼の横には周囲を警戒するも、その手はしっかりとゴライアスを撫でており、荷台にはミフネが後方、陽気な2人組が左右を見張りながらもそれぞれの時間を満喫していた。
ゴリアテは遠方を周回し、敵の姿がないか飛び回っていた。アンデッドの特性上、休むこともなく飛行を続けられる。
「しっかし護衛といえ、こんな簡単でいいんだろうか?」
「敵蹴散らしてんだからいいんじゃない?冒険よりも慎重さを信念にしてるパーティなんだから」
「ちげぇねぇ」
「お前たち、リラックスするのはいいがもっと警戒心を持て。油断していると痛い目に会うぞ」
2人組が談笑を続けるなか、ティアラが怪訝そうに荷台に振り返る。
「でもよぉ、普段から警戒してんのもあっけど、おめぇんとこの使い魔のおかげでさらにパーティレベル上がってっからな。出遅れることなんかまずねぇよ」
そうよそうよ、と賛同するミネアにティアラは溜息をつく。昔ならともかく、最近は確かに不意打ちされることなどまずなかった。それゆえに名も上がり、どんな困難も力を合わせて乗り越えてきた自信もある。
「だが…」
一度経験している。
薄暗い穴の中、死を告げる目の前で笑みを浮かべ、取引を持ち掛けてきたあの1日。生存と引き換えに託された手の中の僕を貸し与えたあの男の恐ろしさを。
思い出すと背筋が凍る思いがするが、それでも目の前にいるゴライアスを撫でることで当時の悪夢を中和する。
「………そういえばあの男の名前、聞いていなかったな」
「ティアラ、どうかしたか?」
気付けばアミルが顔を覗き込んでおり、思わずティアラはのけぞる。
「だ、大丈夫だ!!気、気にするな!!!」
赤い顔でそっぽを向いてしまい、悪いことでもしたかと反省しながらアミルは再び前を向く。
いつになったらこいつらはくっつくんだ?
内心ゲンナリしつつ、2人のやり取りをねずみ視点で終始見ている者にとっていい迷惑である。本体の洞窟での研究も壁にぶち当たっており、ブツブツ文句を言っているとゴリアテの視界にふと、何かが掠めた。
<敵だ。恐らく間者だな>
言い終わると同時に先程までの雰囲気が嘘であったかのように、戦闘態勢に入る面々。冒険者は伊達ではないようだ。
「後方は?」
「……今の所…平気」
「敵の数は?何故間者と分かった?」
<黒装束に身を包んだ12人。手の甲に追手と同じ入れ墨がある>
ここに来てようやくおでまし、大方カンジュラとゲシュタルトの中間なら誰にも邪魔されないと踏んでの行動だろう。
<今二手に分かれた。どうする?>
「…後ろから5人!!」
計17人、冒険者諸君はどう出るだろうか?
「ゴライアス!俺らに防護魔法をかけることはできるか?」
<何なら馬車にもかけられるが?>
「マジで!?」
<マジで>
早速馬車全体に防護魔法をかけるとおもむろにティアラは立ち上がり、弓を引き始める。ゴライアスの目からもまだ標的が見えないなか、躊躇なく矢を放つ。
<…当たった>
次の矢を装填し、再び放つ。
これも見事に当たる。残り4人が狼狽するのがゴリアテ視点でよく見える。他のメンバーを見ると、双子が後方へ、ボルトスとアミルは馬車を下りて素早くティアラの前に立った。
左にいた残りの4人+右から来た2人を始末し、残り9人。
背後と前方から挟み撃ちの形ではあったが、後方はかつてのアンデッドの同胞を一瞬で火葬したコンボで丸焼き、前方は戦士2人の接近戦とティアラの後方支援であっという間に制圧された。
<お前ら…ボンクラの集まりじゃなかったのか>
「「「「「何だと!!」」」」」
呆然とするセシルを無視し、再び馬車を走らせる。冒険者たちは元の配置に戻り、全員武器の確認を行っている。
これが本当の冒険者なのか…果たして生前にこれほどの実力と根性を出せたであろうか。いや、自信はないというより無理である。こうして間近で彼らの活躍を傍観できるならば、アンデッドになったのも案外悪くなかったかもしれない。
「ゴライアス、随分と機嫌がいいな?どうかしたか?」
ティアラに持ち上げられて目線がぶつかる。先程の弓使いの威厳が吹き飛ぶような顔つきをしている。
『…頭を毛づくろいしろ』
その後、ゴライアスの猫のように顔をこする姿に悶絶するティアラを生暖かく見守る会が一時的に設立された。
ま、たまにはご褒美もあげんとな。




