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23.死人に口あり

(ゴライアスが死体の前で何かを呟いているが…まさか死者と対話しているのか!?)


 アンデッド化はできないと言っていたが、それではどのような手法で捜索を行うと言うのだろうか。並々ならぬ興味があれども、洞窟での出来事を考えれば恐らくろくでもないものなのだろうという事はおおよそ予測ができる。見てみたいが見たくない、心の中で葛藤をしているとその思いを振り払うために別の事を考えようとする。

 そして彼女の脳内に浮かんだのは、つい先ほどの出来事であったゴライアスの<バカップルめ>の一言であった。何を根拠に彼がそのような発言をしたのか全く理解できないが、彼女とてアミルのことが決して嫌いなわけではない。むしろ好きの部類に当たるうえ、戦闘問わずどんな時でも真っ直ぐな瞳で戦う彼の姿には目を見張るものがあるが……現実逃避が彼女の心を完全に支配した時、突然男の死体の頭部から青い靄が上がり始めたことで掴むように現実に引き戻される。頭部が激しく痙攣し、先程まで動くことがなかった死体の様子にティアラは思わず後ずさる。しかし、彼女はその光景を過去に1度だけ見たことがあった。


「青い靄……ゴライアスとゴリアテがアンデッド化した時の…」


 かつて彼女の[友]を作る際にも出ていたもの、その様子に少しずつ覗くように近付いて行く。頭部はしばらく痙攣していたが、やがて死体の首は宙に固定される。その眼球はしっかりとゴライアスの姿を捉えており、まるで命令を待つ従士のように微動だにしない。やがてゴライアスが首を傾げると、洞窟で聞いた男の声が響き渡る。


<答えな、あんたらは何者なんだ?>


『…ワレラ城塞都市カンジュラノ諜報部隊ノ者』


<なんであの嬢ちゃんを襲ったん?>


『カノ娘…ハ、カンジ…ュラヲ陥落サセル…ツモリダ』


「この都市をか!?」


<命令した人間は誰だ?>


『ワカラ…ヌ』


「分からないわけがないだろう!死してなお虚言を吐くつもりか!!」


 死者がしゃべりだしたことに驚いたが、順調に話し出した思わぬ情報に大人しく耳を傾けていた。しかしもっとも大事な情報を隠蔽され、咄嗟に双剣を振り抜くが同時に頭部から青い靄が抜けていく。頭部は力なく地面に鈍い音を響かせ、そして2度動くことはなくなった。それでも万が一のことを考え、武器を構えたままでいたがゴライアスは振り返るとゆっくりと彼女の元へと歩いて来る。近付いてくる彼と死体を交互に見つめ、やがて間近に迫った彼が拾われるのを待つように見上げている姿に思わず頬が緩む。

 しかし状況が状況なだけにやむなく武器を素早くしまうと自らの顔を叩いて気を入れなおし、毅然とした態度で手を下ろすとゴライアスを拾う。そのまま両手ですくうように彼を持ち上げると、問い詰めるように赤く腫れた顔を近づける。


「おいゴライアス、まだ終わっていないぞ!?」


<…何やってんの?>


「うるさい!何故尋問をやめたのだ?」


 少々強く打ちすぎてしまったのか、少々涙目になっていたがそれ以上頬に関して問われることはなかった。


<死者は嘘をつけない。本当に知らなかったと思うよ>


「…どういうことだ?そもそも嘘をつけないとは?」


<散々実験してるからね。それに多分だけど、末端だからわかってないんじゃない?組織のボスが誰にも知られてないというのはよく映画……よく使われてる手段だし>


「そういうものなのか?」


 ゴライアスから言われた言葉にいまひとつ理解が及ばないが、蛇の道は蛇。もしかしたら裏の存在ならではの知識があるのかもしれないと、無理矢理自身を納得させる。そして死者の言葉が再び思い起こされる。

 平和であるはずのカンジュラに諜報部がある、その時点で眉唾な話ではあったが実際見てしまったからには否定のしようがない。では実は彼女が本当にカンジュラを陥落させるだけの存在なのか、それならば隠さずとも衛兵でも狩り出した方が効率は良いはず。


「…裏があるな……いずれにしてもあの少女を見つけることが先決だ」


<ゴリアテも囚われたままだしね。主人、アミルが女の子と合流したみたいだし、こっちも急ごう>


「…1ついいか?」


<何?>


 またいつ追手が現れるとも限らない、急がねばならないという時にティアラはもじもじしながら時節ゴライアスに視線を向けている。何度問い合わせても明確な返事は戻って来ず、辛抱強く待っていると固く閉ざした口をようやく開いた。


「…出来れば私のことは…ティアラと」


<名義上のマスターを呼び捨てするのは設定的に大丈夫なの?>


「ならば命令だ、私から私の忠実な使い魔に対しての」


<ご主人様と呼ぼうか?>


「よ、よしてくれ!折角愉快な仲間が出来たんだ!主人と呼ばれるとよそよそしいと言うか、寂しいというか…」


<……ティアラ、アミルと合流しよう>


「分かった!!」


 その返事に満面の笑みで答えた彼女は颯爽と路地を駆け出した。アミルが走っていったであろう方角とは全く違う方向へと。


 <ティアラ、そっち逆方向だよ?ティアラ!?>


 ティアラが小さな仲間に名を呼ばれた喜びから正気に戻った頃にはアミルからかなり離れており、屋根伝いを走った以上の速度で反対方向へと疾走することになった。

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