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22.ラッキーチャーム

「あ、ありがとう、ござい…ます」


 息も絶え絶えに礼を言いつつ少女は自力で立ち上がろうとするも、足が震えて立てない。アミルの手を取れば少しは楽に立てるかもしれないがゴリアテを両手で抱え込んでるためにそれもできない。かといって彼女は一向に手放す様子はなく、いつまでも握りしめている姿をティアラは羨ましそうにずっと見ていた。しかしいつまでも立てない少女を放置していては埒が明かず、ゴライアスが彼女の胸を鼻先で叩くとハッとした彼女は慌てて少女の背後に回ると両脇に腕を入れて抱き起こす。

 ティアラに補助されながらゆっくりと少女は立ち上がることができたがもまだ息が整っておらず、そのまま壁にもたれかかってしまった。自決までした男たちに追いかけられた理由、彼女の正体、聞きたいことはあったが彼女が落ち着くまで冒険者2人は互いに顔を見合わせて待つことに同意する。


「…どうするティアラ。他に人が来るかもしれないし、場所移動した方がいいんじゃないか?」


「いや、上から見た限り出歩いている者はいなかった。それに彼女が落ち着くのが先だ」


「わ、私ならも、もう…大丈夫、です」


 不意に掛けられた言葉に、周囲を警戒していた2人の視線は少女へと向けられる。肺に空気を送り込むように深く息を吸ってはいるが、ゆっくりと顔を上げると一息で冒険者たちにまくし立てる。


「危ない所を助けて頂いて本当にありがとうございます。この件につきましてお礼を是非差し上げたいのですが私には使命がありますため、また後日に。では」


「あ、ちょっ。まだ話が」


「……ゴリアテっ!」


 そう言い終わるや、彼女は足早に路地へと再び足を運んでしまう。少女を制止しようとしたアミルの片手は彼女が消えた方向に伸ばされたまま固まり、ティアラも同様の姿勢をしているが目的は別の物にあった。少女が何も語らずに去ったことも含め、その手にはしっかりとゴリアテが握られたままであった。



「いや、そうじゃないだろ!?」


「わ、分かっている…しかしこの追手、奇襲したからよかったが、明らかに手練れの者であった。それを3人に追わせたということは、よほどあの小娘を捕えたかったのか」


「あるいは亡き者にしようとしたのか、そういえば使命がどうとかって言ってたな…」


<……いいから早くあのお嬢ちゃんを追え、バカップルめ>


「「!!」」




「と、とにかく彼女を追ってみる!ゴライアスは彼女が今どこにいるか分かるか?」


<南の門に向かっているようだけど、相変わらず握りしめられてて逃げられん>


「分かった!ティ、ティアラはここで待ってて!」


 う~ん、と首を仲良く捻る姿に思わず愚痴がこぼしてしまったが、閑散とした場所であったために小さな声も彼らの耳まで木霊した。途端に顔を赤く染めたアミルは少女を追うために脱兎のごとく走り去り、耳まで朱に染まったティアラは棒立ちになったままゴライアスを締め付けようとするが寸でのところでなけなしの理性が彼女の行動を止める。やがて冷静さを取り戻した彼女の顔を確認し、絶命した3人の刺客へと視線を移す。



<主人、死体の捜索だ>


「おほん、分かった…と言いたいが先程調べたところ身元に繋がる物はなかったぞ?」


<俺は死体に何が出来ると思う?>


 その意味を吟味するまでもなく、洞窟にて敗残した記憶が呼び起こされる。死にながらもその猛威を生者にかざし、その爪痕を残された冒険者5名のうちの1人は答えに辿り付くと嫌悪感を隠すことなく露骨に露わにしている。


「…アンデッド化させるのか」


<この体じゃあ無理だな。でも方法はまだある>


 険しい顔をしながらゴライアスを見下ろしていたが、やがて身体をくねらせると這うようにティアラの胸ポケットから飛び降りる。咄嗟に彼を両手で受け止めるが、余計なことをされたとでも言うように彼女を見上げると頻繁に彼女の手の上で地団太を踏む。その姿を愛おしそうに眺めていたが、それが地面に下ろすようにとジェスチャーをしていることに気付くとゆっくりと下へ下ろす。

 ゴライアスはのそのそと死体のそばへと近付いて行くと後ろ足で立ち上がり、やがて囁くようにボソボソと何かを唱え始めた。













「もう追手は来ないようですね」


 路地裏を抜けて雑踏に紛れ、何度も背後を注意深く観察していますが私を追う仕草をしている者は見当たりません。先程の方々に恩を返せないのは心苦しいですが、今は時間が惜しいのです。一刻も早く城塞を出なければ。



「それに…」


 手元には先程私をあの方々に導いただけでなく、追手が放った一撃から身を挺して守って頂きました。この美しい翼に高潔な精神、これはきっと母が幼少の頃に聞かせてくれた[幸運の青い鳥]に違いありません!怪我もされているでしょうし、回復するまで私が守って差し上げねば。一呼吸おいて再び歩き出そうとした時、突然肩を背後から掴まれました。

 思わず振り返ってみると先程私を助けてくださった方が頬を掻きながら、困ったように私の事を見ています。


「えっと、お話だけでも聞かせてもらえませんか?」


「…」


 助けて頂いた恩はあります、しかし彼を巻き込みたいとは思いません。彼の手を肩から離そうと片手を差し出した時、先程の小鳥さんが飛び立ってしまいました。


「あっ待って!」


 追いかけようとすると小鳥さんは私を呼び止めた殿方の肩に止まって動こうとしません。それはつまり…[青い鳥の使者]!?それにこの殿方は見た目も可愛らしいですし、それでいて先程の追手への斬撃。彼自身をというわけではありませんが、私は小鳥さんを信じてみようと思います。

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