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178.最期の試練

 家族の団欒がありえない形で復活し、呆然とレオル一行が眺める中で互いを永劫手放さないように固く抱きしめ合いながら思いの丈をぶつけ合う。


 元気にやっていたか、あの頃が懐かしい。


 何の変哲もない単純な会話のはずが、何故か涙は止まることを知らずに頬を流れていく。

 しかし彼らの仲睦まじい時間も、巨大な手によって奪い去られる。


『はい、サービスタイム終了~』


「あぁ、待って!も、もう少し…もう少しだけ!!お願いっ!」


『これでも大分多めに時間を取ってあげたんだけド』


「お願いします!お願いします!お願いします!」


 それでもなお食い下がり、必死にヴォクンの片手に飛びつこうとする。

 しばらくその様子を見降ろしていたが、やがて深いため息をつくと彼女に顔を近づけた。


『今度は俺の言う事を聞く番だヨ』


「聞けば家族に会わせてくれますか!?」


『…いや、会わせる代わりに言う事聞けって約束だったシ』


「お願いします、もう一度会わせてください!」


『……会わせても、また会わせろって言うつもりだろ?』


「お願いします!」



 何度諭しても彼女の言葉は変わることなく、しかしどこかで似たようなやり取りをした記憶が甦る。

 クルスとクロナと初めて出会った時、リウムたちが生まれる時。

 他にも数多くの[我儘]を受け止め続けた記憶が、ある女性と目の前で泣き叫ぶ女性と重なった。


 元凶を退治しに来たはずなのにどうしてこうなったのか。

 女神がこの世界を遊びで作ったように、ゲーム感覚でクエストを発行し、彼らに同行してしまったことで罰が当たったのかもしれない。

 数え上げればキリがない心当たりの数に、彼は考えことを放棄した。


 そして最期に女神から辛うじて聞いた、[ヴォクン]の名の意味を思い出すとため息と共に深い靄が口から零れる。

 一瞬アンダルシアの身体が硬直するが、害がないことを知ると再び懇願に戻った。


『…分かった。一度、なんてケチ臭いこと言わずに何度でも会わせてやル』


「ほ、本当ですか!?」


『ただし!…これから与える試練と、その先のクエストをこなすことが条件ダ』


「クエスト…条、件?」


『これ以上は俺も一歩も引かんからナ』


 険しい様相でアンダルシアを睨みつけ、言葉を体現するように歯を食いしばっている。

 だがまた会えるのならば、そのためならば全てを投げ捨てることが出来た。

 その思いが考えるよりも先に喉から同意の言葉が飛び出す。




「やりますっ!!」




 彼女の剣幕と即断に思わず身を引き、引いた分の僅かな距離をさらに詰めよってくる。

 その意思の表れに笑みを浮かべ、彼女の虚ろな肉体を掴みあげると彼女の目の前に差し出した。


 契約は至って単純。


 サンルナー教の名で起こした、あるいは派生させた紛争を全て止めること。

 後見人として深淵の教団を付き添わせ、全てを終える事が出来れば褒賞として彼女の家族と昔の肉体を贈呈する。

 セカンドライフを謳歌する最後のチャンスを与える事。



 だが広大な大陸で、彼女が生を全うするまでに全てを終えることは不可能。

 

 そこからが彼女が歩む試練。


「…アンデッド化、ですか」


『この肉体に君の魂を戻し、深淵の教団の一員として永遠の旅路に出てもらウ』


「え、永遠に…」


『紛争が終わるまで、が正しい解釈かナ。そうすれば褒賞は約束すル……ただしアンデッド化して意思を保っていられれば、の話だガ』


 彼女に突き付けられた肉体に身じろぎするも、再びヴォクンを見上げると赤く輝く眼窩が見下ろしていた。


 生きたままのアンデッド化は凄惨な[痛み]が伴い、意思が宿るかどうかは神のみぞ知る事実。

 その[神]は今回の結果に対して一切関わらないことから、全ては彼女の決意次第。

 当然意思が宿らねば話はそれまで。



 強大な悪魔からの提案に彼女は目を閉じ、かつて平穏だった、村娘として生きていた自分の過去を振り返る。

 もしやこれは走馬灯なのではと、気付かれないように鼻で笑うと最期にもう1度ヴォクンを見上げた。


「必ず…必ず成し遂げてみせます!」


『…いい返事だ』


 大きく腕を振り上げ、肉体を彼女の魂に叩きつけると衝撃音と青い靄が波状し、同時に鼓膜を破る悲鳴が闇の中で轟く。



「あああああああああああああ゛ああ゛ああ゛あ゛あああああああああああああああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁ……!!」



 それまで微動だにしなかったレオル一行は目も耳も閉じ、声を拒絶するために身体を縮めるが効果はない。

 いつ終わるとも分からない時間が流れ、やがて悲鳴と靄の勢いが完全に収まったことでようやく事態が終息したことを理解する。


 瞼をゆっくりと上げ、アンダルシアが先程まで佇んでいた場所に視線を送る。

 いまだにヴォクンの手が叩きつけられたままになっていたが、それが持ち上がると彼女の姿は跡形もなく消滅していた。

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